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お誘いと返信

ユキのスマホが、ポケットの中で小さく震えた。

ライブの余韻がまだ会場に残る中で、その振動だけが妙にはっきりと感じられる。

ユキは反射的にスマホを取り出した。

画面を見る。

LIMEの通知。

送り主の名前を見た瞬間、胸がわずかに跳ねた。


中嶋。


表示されているメッセージは、たった一行だった。


『今度会えない?』


ユキはその文字をしばらく見つめていた。

胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。

そのとき、横から沙耶がひょいと顔を覗き込んできた。


「なになにー?」


ユキは慌ててスマホを体の方へ引き寄せる。


「えっ…ちょ…」


沙耶の目がすっと細くなった。


「……LIME?」

「…うん」

「男?」


ユキは一瞬だけ言葉に詰まった。

否定する理由はない。

でも、肯定すると何かが確定してしまうような気がして、少しだけ躊躇う。


「……うん」


沙耶の表情が、ぱっと明るくなった。


「え!」


勢いよくユキの肩を掴む。


「もしかして彼氏できたん!?」

「ちがうよ!」


ユキは思わず声を上げた。


「まだ……」


言いかけて、言葉が止まる。

沙耶は完全に面白がっていた。

口元がにやにやと歪んでいる。

ユキの顔が少し赤くなる。

小さな声で、続ける。


「……なるかもしれないけど」


その瞬間、沙耶は吹き出した。


「は?」


ユキは視線をスマホへ落とした。

まだ返信していない。

画面の上には、さっき届いたメッセージがそのまま残っている。


『今度会えない?』


胸の奥が、また少しだけ揺れる。

さっきまで、頭の中は依緒のことでいっぱいだったはずなのに。

ステージの光。

ギターの音。

依緒の声。

それらがまだ耳の奥に残っている。

それなのに、今は別のことで心臓が少し速くなっている。

沙耶が横で笑いながら言った。


「えー!」


ユキの肩を軽く揺らす。


「さっきまであんだけ依緒依緒言ってたのに!」

「ウケるんだけど!」


ユキはむっとした顔で言い返す。


「依緒くんは神だから!」

「恋愛対象とか烏滸がましい!」


沙耶はまだ笑っている。


「じゃあその男は?」


ユキはもう一度スマホを見た。

ナカジマの名前。

胸の奥がまたわずかに揺れる。

少しだけ考えてから、ユキはぽつりと言った。


「……男」


沙耶がまた吹き出す。


「当たり前だろ!」


笑いながら、ユキの顔を覗き込む。


「…で?」

「どうすんの?」


ユキは少しだけ考えた。

胸の奥が落ち着かない。

頭の中に、ふとあのときの光景が浮かぶ。

搬入口の薄暗い通路。

近い距離。

触れそうだった唇。

思い出してしまって、ユキは小さく息を吐いた。

それからスマホの画面をタップする。

キーボードが開く。

少しだけ指が止まる。

でも、すぐに文字を打った。


『いいよ』


送信。

メッセージはすぐに既読になった。

沙耶が身を乗り出す。


「はや」


数秒後。

返信が届く。


『じゃ、明後日の日曜11:00駅前』


ユキの指が一瞬だけ止まる。

ほんの少し迷う。

それでも、結局すぐに文字を打った。


『了解』


送信。

画面が静かになる。

沙耶が横で叫んだ。


「やばいやばい!」


ユキはスマホを握ったまま、少しだけ俯く。

胸の奥が、また小さく揺れる。


(会うんだ)


自分で決めたことなのに。

なぜか心臓が少しうるさい。

沙耶が笑いながら、ユキの肩を軽くつついた。


「ユキさ」


楽しそうに言う。


「それもうデートじゃん」


ユキの顔が、また少し赤くなった。

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