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無自覚と恋心

店を出ると、昼の光が眩しかった。


ガラス張りの扉が閉まると、外の空気が少しだけ冷たく感じる。

春の風が歩道を抜けていき、通りの街路樹の葉をかすかに揺らしていた。

大学へ戻る道。

二人は並んで歩き出す。

しばらく沈黙が続いた。

ユキはスマホを見ていた。

画面には、新しく追加されたLIMEの名前が表示されている。


「中嶋」


それだけの表示。

トーク画面はまだ何も送られていない。

葵は横目でそれを見る。

そして小さく口を開いた。


「……ユキ」

「ん?」


ユキはスマホから顔を上げる。

葵は前を見たまま言った。


「さっきの男に」


少し間を置く。


「連絡すんの?」


ユキは足を止めた。

葵を見る。

葵の顔はいつも通りだった。

表情は特に変わらない。

でも、声がほんの少し低い。

ユキは少し考えてから、正直に答えた。


「たぶん……」


葵の表情が一瞬だけ動く。

ほんの一瞬。

でも確かに、傷ついた顔だった。

すぐに視線を逸らす。


「……へぇ」


短い声だった。

それだけ言うと、また歩き出す。

ユキは少し困った顔をする。


「葵?」


葵は前を向いたまま言った。


「別に」


少し間が空く。

それから小さく笑う。


「俺関係ねーし」


ユキは黙る。

風が少し吹いた。

キャンパスへ続く並木道の木々が揺れる。

葵は空を見上げた。

それから小さく息を吐く。


「……でもさ」


ユキを見る。


「あいつちょっと強引すぎん?」

「え」

「気をつけろよ」


それだけ言う。

また前を向く。

ユキは少し驚いた顔をしていた。

でも、その横で。

葵の拳は、ほんの少しだけ握られていた。

ユキはそれに気づかない。

少し首を傾げる。


「葵」

「ん?」


葵がちらっと見る。

ユキは少し考えてから言った。


「葵もさ」


葵の視線が少しだけ動く。


「ずっといろんな女の子取っかえ引っ変えしてないで」


少し間を置く。


「ちゃんとお付き合いしなよ?」


葵が止まった。

ユキは気づかないまま続ける。


「前の子だって」

「1週間前に別れた子」

「三ヶ月も続いてないじゃん」


沈黙が落ちる。

風がまた吹いた。

並木の葉が揺れる。

葵は何も言わない。

ただユキを見ている。

ユキは首を傾げた。


「……なに?」


葵はゆっくり視線を逸らす。

そして、小さく笑った。


「いや」


短く言う。


「ほんとお前さ」


少し間を置く。

それから、ぽつりと呟いた。


「残酷だよな」


ユキは意味が分からない顔をしていた。

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