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勘違い令嬢の幸運魔法が王国を救うまで  作者: 九葉(くずは)


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12/12

最終話 私は、ここで生きていく

ついに、その時が来た。

三日間の猶予は、瞬く間に過ぎ去った。


修道院の門前に立つ私の背中を、冷たい風が吹き抜ける。

街道の先から立ち昇る巨大な砂埃。

それは、私一人を連れ戻すために送られた、千人の軍勢が立てるものだった。


「リリア。震えているのか」


隣に立つアレク様が、私の手を取った。

鉄の籠手に包まれた大きな手。

けれど、伝わってくるのは冷たい感触ではなく、心強い熱だった。


「……少しだけ。でも、逃げたくはありません」


私は顔を上げた。

視線の先には、『北天の盾』の騎士たちが整列している。

わずか数十人の彼らは、千の軍勢を前にしても、誰一人として怯えていなかった。

むしろ、その瞳には静かな怒りと、深い忠誠が宿っている。


【ナレーション】

(王国最高監察官ヴァイス卿。王室直属の魔導騎士団を率い、数々の反乱を鎮圧してきた歴戦の勇士。彼が動くということは、王都側がリリアの身柄を極めて重要視している証左であった)


軍勢が門の前で止まった。

地響きが止み、不気味な静寂が辺りを支配する。

白銀の鎧に身を包んだ騎士たちが左右に分かれ、中央から一頭の白馬が進み出た。


馬に乗っているのは、深い紫色のマントを羽織った老人だった。

痩せ細っているが、その眼光は鋭い。

彼が私を捉えた瞬間、空気が物理的に重くなったように感じた。


「……リリア・フォン・アルフェン。迎えに来たぞ」


ヴァイス卿の声は、掠れているのに鼓膜の奥まで響いた。


「無能の身でありながら、辺境で騎士団を唆し、王命を拒むとは。公爵家の娘としての自覚が足りぬようだな」


「私は……」


声が震えそうになるのを、私は必死に堪えた。

アレク様の手の熱を思い出す。

昨日、カイルさんが「女神」と呼んでくれた時の笑顔を思い出す。


「私は、唆してなどいません。私は、自分の意志でここにいます」


私は一歩、前へ出た。

アレク様の制止を振り切るようにして、ヴァイス卿を真っ直ぐに見据える。


「ここには、私を必要としてくれる人たちがいます。無能だと言われた私を、家族として迎えてくれた場所です。私は、王都には帰りません」


「ふん、小娘が」


ヴァイス卿が鼻で笑った。

その瞬間、彼を中心に黒い波のような圧力が放たれた。


「っ……!」


魔圧。

並の人間なら、その場に跪き、呼吸さえ困難になるほどの重圧だ。

私の背後にいる騎士たちの顔が、一瞬で険しくなる。


けれど、不思議なことが起きた。


私の胸の奥から、温かな光が溢れ出したのだ。

それは波紋のように広がり、ヴァイス卿が放つ黒い圧力を、霧が晴れるように消し去っていく。


(暖かい……。何、これ……)


私の周囲だけではない。

光の波は、私の後ろに並ぶ騎士たちをも包み込んでいった。

彼らの強張っていた肩が緩み、その瞳にさらなる力が宿る。


「……何だと?」


ヴァイス卿の眉が動いた。

彼は驚愕したように、自分の手と私を交互に見ている。


「私の魔圧を……無効化しただと? 鑑定不能の、無能な娘が?」


「ヴァイス卿。お前には見えないのか」


アレク様が私の肩を抱き寄せ、前に出た。

彼は長剣を抜き放ち、その先を千の軍勢へと向けた。


「リリアは無能などではない。彼女は、俺たちの光だ。彼女が微笑むだけで、俺たちは傷を忘れ、絶望を振り払える。……この娘を連れ去るというなら、俺たち全員を斬り伏せてからにするがいい」


「団長に続け!」


カイルさんが叫んだ。

騎士たちが一斉に抜剣する。

チャキ、という鋭い金属音が重なり、修道院の門前が戦場へと変貌した。


「狂っている……。たかが一人の女のために、王宮に牙を剥くというのか!」


ヴァイス卿の声に、初めて焦りが混じった。

彼は私の足元を見つめている。

そこには、先ほどまで枯れていた雑草が、青々と芽吹き、小さな花を咲かせ始めていた。


【ナレーション】

(支援型加護の覚醒。持ち主の『守りたい』という強い意志が引き金となり、恒常的な聖域を展開する。その内側にいる者は、あらゆる精神干渉と衰弱から守護される)


「撤退だ……!」


ヴァイス卿が忌々しげに吐き捨てた。


「アレク・グラント。今日のことは反逆として報告する。……だが、王都の窮状はお前たちの想像を超えている。いずれ、泣いて縋ってくるのは貴様らの方だぞ!」


ヴァイス卿は馬を翻した。

千人の軍勢が、波が引くように街道へと戻っていく。

砂埃が遠ざかり、再び辺りに平穏が戻った。


私は、その場に座り込みそうになった。

アレク様が、優しく私を支えてくれる。


「終わったぞ、リリア。お前の勝ちだ」


「私……。私、本当に、ここにいてもいいのでしょうか」


私は震える声で尋ねた。

千人の軍勢を追い返してしまった。

王都を敵に回してしまった。

私なんかのために。


「まだそんなことを言っているのか」


アレク様は、私の両頬を大きな手で包み込んだ。

そして、これまでにないほど穏やかな、熱い眼差しで私を見つめた。


「お前がいなければ、俺たちは今頃、魔圧に屈して膝をついていただろう。……お前が俺たちを救ったんだ」


「リリアさん、最高でしたよ!」


カイルさんたちが駆け寄ってくる。

彼らの顔には、守られたことへの安堵ではなく、守り抜いたことへの誇りが溢れていた。


私は、涙が溢れるのを止められなかった。

王都では、一滴の魔力も持たない私は、生きる価値のないゴミだと教えられた。

でも、この場所では。

この、北の果ての修道院では。


私は、リリアという一人の人間として、必要とされている。

誰かの力になれる。

その事実が、私の心を根底から変えていく。


(私は、無能じゃない)


心の中で、その言葉を何度も繰り返した。

鑑定盤の数字なんて、もうどうでもよかった。

私の価値を決めるのは、私を愛し、必要としてくれるこの人たちだ。


「……アレク様。私、もっと強くなります」


私は涙を拭い、アレク様の瞳を見つめ返した。


「この場所を守るために。皆さんの力になるために。……私にできることを、もっと見つけます」


「ああ。これからも頼りにしている、リリア」


アレク様は私の手を強く握り、空を見上げた。

そこには、嵐のあとの澄み渡った青空が広がっていた。


私の物語は、まだ始まったばかりだ。

いつか、私のこの「不明」な力が、この国すべてを照らす奇跡に変わる日が来るかもしれない。


けれど今は、ただこの温かな場所で。

私を呼ぶ、優しい声に応えていきたい。


「お腹、空きましたよね。皆さんのために、温かいスープを作ります!」


私の言葉に、騎士たちがわっと歓声を上げた。

修道院の門をくぐる私の足取りは、昨日よりもずっと軽かった。


第1章:完

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