幼馴染サイド
「蓮夜!! 蓮夜しっかりして!! お願い死なないで!! お金ならいくらでも払うから!!!」
大好きだった。私、花山薫子は牧島蓮夜の事が大好きだった。緊急搬送された蓮夜は意識不明の重体だった。
わたしは血だらけのスニーカーを抱きしめながら、呆然と虚空を眺めていた。
もしも手術が成功したとしても、身体と脳に障害を負う。そう言われた。
待合室のベンチで一人待つ。気がついたら自分の爪を噛んでいた。血が出ているのに気が付かなかった。頭が沸騰して、おかしくなりそう。
蓮夜の両親は連絡がつかなかった。お姉さんはすぐに駆けつけると言ってくれた。
「蓮夜……、私が消えちゃえっていったから……弱いくせに、私を庇って……」
全部自分のせいに思えた。蓮夜はわたしと出会ったからこんな目に会ってしまったんだ。
私にとって蓮夜が全てだった。あの日、蓮夜と公園で出会った。私は年上の女子にいじめられていた。『い、いじめは良くないよ! やめて!』といって蓮夜が私を守ってくれた。
一目惚れだった。あの日の蓮夜の姿が昨日のように思い出せる。蓮夜は頭も良くて、運動も出来て、スタイルもよくて私の理想の王子さまだった。
でも……、小学校にあがって、蓮夜はなんだか冴えなくなっていった。
それはわたしの見る目がなかっただけなんだ。
蓮夜は本当は頭が良いのに、親から馬鹿だって言われてて、自分の事を馬鹿だと思っていた。
「蓮夜……、私が馬鹿だった。蓮夜がいない世界なんて信じられない……」
蓮夜の行動はチグハグしていた。クラスメイトはそんな蓮夜を冗談で馬鹿にする。
好きな男の子がバカにされるとムカつく。でもそれ以上に、ヘラヘラしている蓮夜が嫌だった。だから、私は蓮夜に強くなってほしかった。
でも、だんだんと蓮夜に対して雑に扱うのが慣れてしまって……、頭では分かっていたのに止められなくなっていた。
蓮夜は昔、私の事を好きといってくれた。だから、それを免罪符にして私はわがままし放題だった。
「はぁはぁはぁ……、薫子ちゃん! 蓮夜……、死んじゃうの? わ、私が、プロレスごっこしなくなったから?」
蓮夜のお姉ちゃんは、自分の家族が大嫌いだ。いつか、蓮夜を連れて家を出る、いつもそう言っている。でも、私と一緒で蓮夜に対してどうしても素直になれない。
私たちは昨日重要な作戦会議をした。
今日から私たちは、蓮夜に素直になって、好き好きアピールをして、幸せになってほしかった。
なのに――なのに……
「ひっぐっ……蓮夜……。私がバカだったよ。もっと、早く……、私が……」
「そんな事ないです……。私が、調子にのって、素直になれなくて……」
後悔。その言葉だけが頭に浮かんでしまう。
倒れた蓮夜は血だらけのスニーカーを見つめていた。それを思い出してしまうと――
自分の中の何かが音を立てて崩れ去っていった。
***
私とお姉ちゃんは医者の言葉を聞いて、どんな顔をしていいかわからなかった。
――蓮夜が意識を取り戻す事は二度とない。
命は助かったけど、もう二度と動かない。足が震えて動けなかった。でも、私は蓮夜に謝りたい。あの時、私が公園に誘っていなければ。私がもっと早く正式なカップルになるための告白をできれば……。
わたしはベッドの上にいる蓮夜の顔を見ようとしたら――
「蓮夜……!! ……え? 目があいている?」
自分の脳がおかしくなったと思った。でも、お姉ちゃんも蓮夜を見て腰から崩れ落ちた。
蓮夜の目が開いている!!!
「蓮夜、私だよ。わかる? 蓮夜の事が大好きな花山薫子だよ!!」
蓮夜は上半身だけ、ムクリと起き上がり、私を見つめた。
「………………すみません、どなたですか?」
ハンマーで殴られたような衝撃が頭に襲いかかった。冗談を言っている仕草じゃない。蓮夜は……私の事……わすれて……。
口から血の味がした。込み上げてきた後悔を噛み締めて、私は、自分を殺したかった……。
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