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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第二章 神々のサイコロ

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8 花畑の聖地


 カラクは楽しんでいた。旅で目にするあれこれがとても新鮮で時に美しく、時に面白い。ゆっくりと森の中を歩いていると、突然木立が開け、花畑が現れた。青赤黄色、白橙と色とりどりの花が咲き乱れる。


「わーっ、すっごくキレイなのーー」


 カラクはレフから飛び降りると花畑に駆け出していく。レフも後を追い、じゃれつくように身体をぶつけてくる。目を覚ました饕餮もばたばたと羽ばたきながら近付いてきた。その後を、山王とイトラがゆっくりと見守るように歩いてくる。


 カラクはわずかに身長が伸び、成長しているようだ。魔力を大気から集めることができている。大きな力を使わなければ、いずれ大人の姿になれるだろう。


「カラク。ここで昼食でも取りましょうか」


 ぴっとイトラが指を振ると、原っぱの上に綺麗な緑色の布が敷かれふわふわのクッションまで備え付けられていた。そこにお皿に乗った焼きたてのパンや柔らかそうなお肉、熟した果物が並べられていく。


「うわ~~っ! いつもすごいなぁ~」


 カラクが歓声を上げると、何も言わないがイトラの顎の位置が上がり、少し得意げに見える。イトラのような高位魔族は保存空間魔法というものが使え、役立つものを保存しているそうだ。ちなみにカラクには使えない。


「美味しいなー」


 にこにことカラクは笑顔でそう言うと、饕餮もむしゃむしゃと肉をたいらげる。


「うむ、悪くはないぞ。もっと肉を出せ」

「貴様を捌いてやろうか」

「とっちゃん、肉以外も食べてよー」


 カトラは口の中に入っていたふわふわのパン飲み込んで、また喧嘩を始めそうな饕餮とイトラの間に割り込んだ。


「なんや……めっちゃ牧歌的やな。まお……魔族一行の旅やとは思われへん。それにめっちゃ美味うまいわ」


 山王がもぐもぐと肉を食べながら、ぺとりと耳を垂らした。


「深く考えるな。この幸せを味わえ」


 そう言ってレフは何かを空間保存魔法を使い取り出し、カラクの前にそっと置く。


「こ、これは……なんて、ふわふわ。それに微かに漂う甘い香り」

「シフォンだ」

「ま、まぼろしの!? なんて、美味しい……口の中でとろけちゃうよー」


 人型に戻っていたレフも顎が上がり、得意げな様子となる。


「えっ……まさか、あんたが焼いたん?」

「もちろんだ」


 山王は尋ねておきながら返ってきた答えに絶句している。


「うむ、甘味というものも悪くはないな」


 饕餮はイトラの隙あらばカラクの膝に乗っかろうと狙いながらも、抜け目なく並べられた食物を食べていく。


「うん、深く考えたらあかんやつや」


 山王は諦めたように耳をぱたぱたと振ると、気を取り直してシフォンを口に入れる。瞳が輝き、表情がとろけた。美味しかったようだ。


「う~~ん、お腹がいっぱいになったら眠くなってきたのー」


 カラクがそう言って欠伸をするので、レフはポンっと黄金獅子の姿になるとふわふわの毛皮に寝転べるように寄り添う。


「うーむ、妾も負けぬモフモフじゃぞ」


 饕餮も黒いもさもさのテンのような姿となってカラクに擦り寄っていく。


「くっ……私の鱗は固い……。暑い日であればひんやりして気持ちが良いのだが……」


 その様子をじとっと羨ましげに眺めていたイトラは、カラクに腕を差し伸べられていそいそと寄っていくと腕の内にカラクを抱き込んだ。


「うん……もうなんも考えへんで」


 突然始まったあまりにも呑気なお昼寝タイムに、遠い目になりながらも山王もポンっと狐姿になると、皆に寄り添って眠りについたのだった。




『遠い遠い昔のこと。このあたりに大きな力を持つ一柱の土地神がおりました。人々は土地神を崇め敬い、国をつくったのです。いつの頃からか国は二つに分かれました。同じ神を崇めておきながらも人々はそれを忘れ、聖地を奪い合わんと、お互いを殺し尽くすように争う日々。神は哀しみ、嘆き、もう見てはいられぬと眠りにつきました。ここは神が眠りにつく聖地なのです。そこの大きな力を持つ方々よ。我等の神に力を貸していただきたい。争いを止めていただければお礼をいたしましょう』


「うぅーーー、もう肉まんは食べられないよー」


 カラクは幸せながらも苦しい夢をみていたような気分で目を覚ますと、イトラの胸にむぎゅむぎゅと押し付けられ、レフのふわふわの毛皮の上で眠っていた。何か聞こえた気がして辺りを見渡すと、皆、ヘソ天で眠りこけている。


「あれ、何か聞こえたよーな……」

『こちらです、こちらです』

「うん?」


 とても小さい声がするので、カラクは地面に顔を近付けてみる。すると、小さな小さな翼を生やした小人がいた。


「あれれ、あらまぁ」

「どーした、カラク」


 レフに声を掛けられた。皆、もぞもぞと起きてきたようだ。


「小さな訪ね人が来たよー」

「なんだ? これは」

「妾のオヤツにしても良いか?」

「これは、木霊という者かと」


 イトラがじっと彼等を見つめると、カラクに教える。


「夢でお願い事をされたような気がするの。お願い。皆も聞いて上げて」


 カラクの願いにより、皆は耳を澄ませて木霊たちの願いを聞き取った。


「要は争っている二国間の争いを収めろと。はっ……なぜ、俺たちが、ばかばかしい」

「うむ、そろそろ妾のオヤツにしても良いかのー?」

「私たちには何の益もない。カラクの時間を無為に奪うなど許せません」

「お礼って、なにくれんの?」


 レフや饕餮、イトラが全く頼みを聞くつもりがなさそうな中で、山王は尋ねた。


『はっ……そこの小さきお方は魔力が足りぬようで。私たちが持っている魔力を貯めた白魔石を三粒全て差し上げます』


「……ああ!? 命は助けてやるからさっさと寄越せ!!」

「うむ、オヤツにする事はやめてやるから直ぐに献上するのだ」

「ええ、我が君の役に立てるなど光栄に思いなさい。さっさと差し出さねば一匹一匹八つ裂きにしていきますよ」


 突然、恐喝を始めた仲間たちの姿にカラクは恐れおののき、木霊たちは怯える。


「やめるのー。白魔石は頼み事を聞いて、その代わりに貰うの」

「カラク……圧倒的に力の差がある場合は、交渉事など成立しません。力でねじ伏せ、奪う事が最も効率的なのです」


 イトラが教師のように教え諭そうとしたが、カラクはぶんぶんと首を振った。


「そんなのは嫌なの。お願いみんな、俺に力を貸して」






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