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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第一章 みんな星々のかけら

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7 神獣の饕餮

 

 助けた獣人たちは一旦は村に戻った。今後は、周辺の獣人たちと集まって別の場所で一つの大きな集落をつくることにするという。領主に害をなしたとして国から何らかの咎めがあるかもしれないために、村を捨てて逃げることにしたのだ。移住は以前より考えていたことだという。


 カラクも共に暮らすことを誘われたが、まだ旅を終えるつもりはなく、先へ進むことを告げる。


「あのね……いつか戻って来て私をお嫁さんにして欲しいの。私たち獣人は女側が番を選ぶの。貴方はとても素敵」


 家族に再び出会え喜びあっていた春花が、こっそりとカラクに寄ってきて囁いた。カラクは身体も心もすっかり幼くなってしまったので、こてんと首を傾げる。


「うーん、おっきくなったら考えるね」

「うん。約束」


 指切りをしていると、イトラがすっと側に立った。とても冷たい圧が掛かって、カラクはぎょっとして仰ぎ見る。


「カラク。先ほどの死した神獣を操っていた石ですが……不穏な鼓動を刻んでおります」


 淡々とした物言いに、気圧されつつも石が気になりまじまじと見つめる。


「俺に渡して」

「……しかし」

「大丈夫だよ。イトラ。お願い」

「くっ……なんてあざとい上目遣い。私は今の我が君も、大きくなった我が君も、一片の曇りもなく唯一無二のお方。伴侶となるべき存在は私だけだ!!」


 ぶつぶつと小声で何かを言っていたイトラは、ためらいながらも石をカラクに渡してくれる。


「この石からも何か言葉が聞こえるの」


 カラクは石に耳をつけると、怯えたような子どもの泣き声が聞こえるのだった。


「大丈夫だよ。出ておいで。この世は美しい。怖いものからは俺が守ってあげる」


 すると、ドクンっと大きく石が震えながら鼓動をし、ぴしぴしっと細かな亀裂が入っていく。慌ててカラクに手を伸ばしたイトラとレフであったが、石から閃光が溢れその場が光に満ちた。


「みゅーっ」


 いとけない鳴き声が響いた。閃光の収まったその場には黒いモジャモジャの毛をした二本足のテンのような生き物がいる。


「やあ、おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。君の名前は?」

饕餮とうてつ


 黒いモジャモジャが、可愛らしい女の子の声で答える。


「な、なんだあれは!?」

「どうやら神獣の卵のようなものだったようです」

「獣なのに卵なのか!?」

「例えです! あの死してなお蘇っていた悍ましい神獣が、親のようなものだったのでしょう……呪いで子どもが石に封じられていて操られていたのかと」


 レフとイトラも驚きつつ、じっくりまじまじと饕餮を観察した。


 もぞもぞと饕餮は身体を動かし、よたよたと歩くとぺとりとカラクの足にくっついてくる。


「かわいいなー」

「……くっ。だが、あれはしょせん、愛玩動物。伴侶となる私の敵ではない。この脳筋獅子の獣と同じもふもふ枠に過ぎぬ。心の広い私は許しましょう」

「おい、聞こえているぞ」


 ぴとりとくっついた饕餮は、イトラとレフを見上げ、鼻で嗤うとポンっと黒髪黒目の可愛らしい幼女となった。いつの間にかカラクに抱きついている。


「ええ!?」

「とっちゃんって呼んで。助けてくれたカラクを永遠に愛そう。妾はカラクの番になるのだ」

「な、何を!? 獣風情が!! 先ほどの汚れた雑巾のような獣姿に戻りなさいっ」

「いやっ」

「うぅーーー重いよーー」


 抱き着かれたカラクが呻くように声を上げると、ばさっと音をさせ、ふよふよと饕餮は真っ黒な翼を生やし空中に浮かぶ。


「カラクはまだまだ貧弱だな。妾を抱き上げられるように早く大きくなるのだ」

「カラクは大きくなったら私をお嫁さんにしてくれるのよ。約束したの」


 恐る恐る春花が横から口を出すと、饕餮は怖ろしいほどに冷たい視線を送る。ドキリとしたカラクは二人の間に入り言葉を発した。


「みんな友だちなの! ケンカしたら嫌いになるのー!!」

「すごいわぁ~、いつの間にかモテモテやな。まだ、幼児やのに。これは将来が末恐ろしいで。羨ましいわぁ」


 山王はカラクたちを眺めながら、にこにこと全く心のこもっていない言葉を紡ぐ。


 こうして、カラクはお伴を増やし、引き続き旅する事になったのだった。


 領主の兵士たちは虚脱したようになってしまっており、今は脅威ではなくなっている。だが、国からは居なくなってしまった領主に対しての調べがあるだろう。この砂礫されき国は、かつて前魔王を倒した勇者を派遣した国であったので、イトラは念のためにこの国から離れた場所へ向かう事にする。


「山王は獣人のみんなと一緒に行かなくていいの?」

「ああ。元からあの村の住人という訳でもないんや……お願いや、カラクの仲間にしてくれへん?」

「うん、良いよー。もう山王は俺の友だちだと思っていたの」

「ふむっ……妾の下僕にしてやってもよいぞ」

「下僕は嫌やなー」


 そういいながらも山王は饕餮を人間姿のままで抱えて歩いてくれている。饕餮はその気になれば問題なく浮遊しながら移動できるはずだが、楽なのか抱き上げられたまま時折、こっくりこっくりと眠っている。


「獣人など信用できない」

「あれ……魔族がそれを言っちゃう? 魔族の皆さんは己だけを信じるのが普通なんやろ? 今は様子が違うみたいやけど……」


 イトラが気に入らなさそうに山王を見て吐き捨てる。対して、山王は少しも気にしていないように飄々と言葉を返した。


「一体あのカラクはどういった力を持っとるんや? こんな風に魔族や神獣を従わせてる者なんて聞いたことあらへんで……」

「違う」

「うん?」


 前を歩く黄金獅子のレフの背中に跨る小さなカラクを見て、切なそうにイトラは目を細めた。


「私はあの方の魅了の力で従わされている訳ではない」

「ほなら、なんで?」

「……お前になど明かすものか。私とあの方だけの秘密だ」





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