6 魔王の思い出
レフは生まれながらに強い力を持った魔族である。
黄金獅子の魔族として意識がめばえた時から、膨大な力を持った者として存在していた。誰にも従わず己の心の望むがままに生きていた。そして己が強いと知っていた。
ある時、魔王という、あまり表にでてこない者が最強だと伝え聞いた。レフは自由気ままに思うがまま生きていたので、魔王には関心がなかったが、それほど強いのであれば戦ってみたいとふと思った。
そして次の瞬間には魔王城へ向かって走り出して、殴り込みをかけていた。だが、たどり着いた魔王城の玉座にはおらず、膨大な魔力の感じる方へ向かう。すると魔王城の外へ少し行った先にある花畑に寝転ぶ青年がいた。
日の光を集めたかのような色彩をしたその青年は、周りに獣型の魔獣やただの小動物たちに囲まれて、寝入っているようだった。その姿は魔族でもましてや魔王でもなく牧歌的な光景であった。
レフは殺気を向ければ、すぐに目を覚ますだろうと、拳を握りしめ頭上に向かって振り下ろそうとする。すると、ぱちりとその青年の目が開いた。
蜂蜜酒のような舐めれば甘そうな瞳にじっと語りかけるように見つめられ、思わず拳を止める。
「黄金獅子の君も眠りに来たのかい? 良いよ。ここは絶好の日向ぼっこの場所なんだ。ただし、獅子姿になっておくれよ。もふもふに囲まれて眠るのが好きなんだ。君も俺と友だちになろう」
拳を握りしめる相手に、眠そうにしょぼしょぼと目を擦りながら言ってくる魔王に、レフは呆気にとられた。
「幸い今日は晴れのち晴れ、ぽかぽか陽気の絶好の昼寝日和だよ。この場所を見つけるなんて、君もなかなかやるね」
「なにを……俺は……お前と勝負を」
「うん? 勝負? どちらが早く眠れるのか……どちらが長く眠れるかを競う? ふふふ……眠りの達人と言われた俺には誰も敵いはしないよ……ぐ~~」
レフはすぐに熟睡した魔王を見て、冗談かと思い強めに小突いてみたが起きなかった。愕然として魔王という青年を眺める。
ふと周りを見渡すと、伝説級の魔獣やただの小動物が隣り合う事など自然界ではあり得ないのにお互いに寄り添って眠っている。レフは納得がいかなかったが、このまま引き下がるのも我慢ならず、そのまま待つ事にした。
ふわふわと優しい手つきで頭を撫でられる。今は夢を見ているのだとレフは分かった。夢の中、美しい女神に毛繕いをされゴロゴロと喉を鳴らす。
「ふふ……なんて綺麗な毛並なんだ」
レフはぱちりと目を覚ました。知らずの内に黄金獅子の姿で寝入ってしまったようだ。己の喉が珍しくゴロゴロと鳴っている事に気づく。とても心地の良い感触は首元を遠慮がちに撫でてくる手によるものだった。馴れ馴れしいと歯を剥き出し戦闘開始といこうかと思ったものの、あまりにも心地よく暫くは撫でさせてやろうとそのまま眠り……朝を迎えた。
「いや~~~、俺を超える眠りの達人がいるなんて……君の事は師匠と呼ぶ事にするよ」
目覚めた時には周りに誰もおらず、当初の予定通り玉座に殴り込みにいったレフに魔王はそう言って笑った。
どこか人を食ったような魔王であったが、レフは魔王の底知れぬ実力を認めていた。
「俺と戦え!」
「なんだい、師匠。俺は師匠には敵わないよ。今はこの子たちと芋掘りをしているんだ。一緒に芋掘り競争でもするかい?」
ネズミたちと実った芋を一生懸命掘り出し泥だらけになっている魔王が言う。腹が立ったレフが無理矢理に戦わせようと殴りかかろうとする。
「レフ。チュー吉を踏んでしまうよ」
ぴしりと言われるその一言には、威圧も脅しも込められていないにも関わらず、レフが身体を止めてしまうような何かがあるのだった。
魔王カラ。どこから来たのか、どういった種族なのか元人間なのかも分からぬ魔王。だが、最強という称号は偽りないとレフは認めていた。そして、必ず自分がその称号を奪うといつの間に一つの望みとなっていたのだった。
「俺と戦え!! 魔王様!!」
「良いよー。明日はふんわりふわふわシフォンを焼く予定なんだ。異世界人が発明したという世にも不思議なふわふわのお菓子だと聞く。どちらが美味しく焼けるか勝負しよう!」
「ふざけるなっ」
「レフの作ったふわふわのシフォンは美味しいな。まさしく、この世の美味の真髄に近付いているね」
「魔王様……このヘドロはなんだ……」
「俺の作ったふわふわシフォンだよ」
「ふわふわという概念に謝れ!」
だから、信じられなかった。勇者によって魔王が、肉の一欠片も、あの日だまりのような髪の毛一本すら残さずに……滅されてしまったなどということは。
今代魔王カラクと前代の魔王カラが似ているものの生まれ変わりともいえないほどの別人だということは、一目見ただけで分かった。けれど、カラクの口にした友だちになってという言葉は懐かしいかつてを思い起こさせ、しばらくの間くらいは付き合ってもいいだろうという気になったのだった。
そして避けられる魅了の力にあえて掛かった時に、とても居心地が良く感じたのだった。いつかのように、喉が思わずごろごろと鳴ってしまいそうなほどに。




