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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第二章 神々のサイコロ

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11 祭りの夜

 

 各々の国の神殿でかつての祭りのやり方が残っていたのだろうか。動物のような面、神と同じような白い着物に赤い縫い取りのある装束をした人々が、音楽をかき鳴らし集まって来ていた。


 人々は輪になって踊り出した。それぞれがどの国の人間なのかは分からなくなっていく。木霊たちも楽しそうに身体を揺らして、輪に加わっていく。


「上手くいきそうだねー。俺たちも加わろうよ」


 カラクはそう言って、ポンと面を被った白い着物姿に変身すると、同じように見様見真似で踊りに加わった。


「ああ! カラク。お一人では……私とご一緒に」

「妾も踊るのだー」

「全く、子供だなっ」


 そう言って、加わっていく、イトラや饕餮、レフを山王はいつもの笑みを浮かべているような表情でじっと眺めている。


「こんな風になんもかも収まれば、この世は素晴らしいと思えるんやけど。せやけど、この世は残酷や。怖ろしいほどにな。カラク……」


 ぽっかりと月が浮かび上がり、踊る人々を優しい光で幻想的に照らしている。随分と長い間、踊りが続いていた。人々の間に笑顔が溢れ、誰がどの国の者かも今は分からない。


 その時、太鼓のような腹に響く音が一定の間隔で鳴らされ始めた。人々が目をやると、原っぱの真ん中に白い布が敷かれ、その上に二人の人間が現れていた。白い着物を着て真っ白な何の動物も模していない仮面をつけた者と、黒い着物に同じく真っ黒な面をつけた者。腰には絢爛な装飾のある大きな刀を帯びていた。


 二人は同じ方向を向くと、揃って刀を引き抜いた。そして、向き合うと刀をかわしはじめる。舞うように動き回る二人の演舞は、瞬く間に人々を魅了した。


「あれは、ラスカ王と黒焔(こくえん)王ではないか?」

「祭りの最後に王が踊りを奉納するという」


 二人の王が剣舞を行うようだ。白い着物着たほうが少し背が高い。スラリと長い腕を伸ばし、剣を高く空めがけて突き上げると、地を蹴って空中に高々と飛び上がった。


「うわ~~、すごいのーっ、魔法は使ってないのに」


 カラクは感嘆のため息を上げ、驚異的な身体能力で行われる見惚れるほどの剣舞をうっとりと眺める。


「あの、白い方がラスカ王でしょう。あの王は武に優れた賢王だと聞いた事があります」


 黒い着物を着たほうも、見事に剣を操っている。空中に放り投げると一回転しながら落ちてくる剣を軽々と受け取り、ラスカ王に合わせてまた空中に舞う。


「あの黒い方は黒焔(こくえん)王かと。幼くして王位を継いだ王と聞きました」

「どちらも凄いの〜〜。こんな風に一体となれば、皆仲良くなって神様も喜んで目覚めるかもしれない」


 カラクは剣舞にわくわくと心踊らせ、笑顔を浮かべる。徐々に鳴らされる太鼓の音が早くなってきて、二人の王は一糸乱れぬ激しい舞を見せる。


 と、黒い着物を着た黒焔王が急に向きを変えると、白い着物を着たラスカ王に斬りかかる。それを危ういところで避けたラスカ王は、その後も続く斬撃を掻い潜り受け流していく。


 趣向が変わったようだと観衆は盛り上がるが、カラクは顔を曇らせた。


「違うの。ピリピリと痛い何かが黒い人からする」

「ああ。どうやら祭りに乗じて、ラスカ王を討とうとしとるようやな」


 山王は顔色を変えずにのんびりと予想していたかのように話した。


 何とか避けていたラスカ王だったが、激しく続く斬撃にとうとう左側の腕に刀が掠ったようで、みるみると着物が赤くなる。とどめを刺すように振り下ろされた黒焔王の刀をラスカ王は弾き返すと、二人の仮面がその強い衝撃で割れ地に落ちた。


「お前は!?」

「ああ、話していないことがまだあったんだ。クロノ。だが、私がお前に話したことに偽りはない」


 ラスカ王の真っ赤に染まった左袖先からぽたりと血が地面に落ちた。すると、地面が真っ赤に染まり、色とりどりの花々も赤黒く咲き乱れ、不穏な地鳴りが響き始めた。


『たいへん、たいへん』

『神が目を覚ます。お怒りになられている』

『災いが、祟りがある』


「雲行きが怪しいわー。カラク、逃げるでって言っても無駄やんな?」


 山王がカラクに焦っている様子もなく尋ねてくる。イトラもカラクを腕の中に抱え上げるといつでも逃げ出せる準備をしている。


「逃げないのー。神様はこわい?」

「ああ。カラク。神獣の時も言ったが、神ってやつは祟りだなんだの、理不尽なほどの力がある場合がある。いざって時は俺が喰らってやるが、しばらく眠る必要があるかもしれん」


 レフはいつの間にか勇ましい黄金獅子姿になって、牙を剥いている。


『この地で争う者どもよ』


 ゆっくりと地の底から響いてくる声は、魅惑的で麗しい声音にも関わらず、震え上がるほどの怖ろしい何かを内包していた。人々はその声を聞いただけで、腰を抜かし、その場にぬかずいた。


 ゆっくりと地面から半透明な白い着物を着た、白髪白眼の巨大な女人が浮き上がってくる。大きな巨人が地面から生えたような有り様は異様で、伝わってくる神気は、刺すような激しさがあった。


『愚かな者どもよ。この地ごと、全て平らかに消してしまおう』

『ああ、神よ。おやめください。おやめください』

『どうか。どうか』


 さらりと下されたこの地の神の言葉に木霊は慌てふためき、騒ぎながら神に縋り話し掛けるが、神は一顧いっこだにしない。


『我は醜い者どもをもう見たくはない。全ての人間を殺し、この地を美しく浄化するのだ』


 神が顕現している赤く染まった地面がどす黒くなり、呑み込まんというように人々に迫っていく。人々は恐怖のあまりガタガタと震え、命乞いもできずに、ただ悲鳴を上げた。


 カラクは木霊達から何かあった際にと、一粒だけ先に貰うことのできた白魔石を砕いた。



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