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小さな魔王は皆の推しになりました  作者: 光流
第二章 神々のサイコロ

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10 争いと融和


「それにしても山王もイトラもすごいなぁ~」


 カラクは心から感嘆の声を上げた。木霊たちに神の姿の詳細を聴き取った山王は、ポンっと姿を瞬く間に神に似せて変化したのだった。


 この地に眠る神は、真っ白な髪と真っ白な目をした男とも女とも分からぬ美しい顔立ちをしている。白い着物に襟元に紅い花の刺繍が入っており、まるで雪の精のようだった。


「けど、この世界には神がいるんだねー」

「いませんよ」


 イトラはさらりと言うので、カラクは驚く。


「ええ!? でも、この地に眠るのは神様なんだよね? それにとっちゃんも神獣じゃあ?」

「たしかに、神と呼ばれるような存在はいます。そこかしこに。多くの者に力を与えたという神のことは様々な伝承で書かれてもいます。しかし、この世界を創造したというような唯一の神はおりません。……というか、いたとしても分かっておりません」

「ええ!? そうなの?……知らなかったの」


カラクは黒い目をくりくりと見開きながら驚く。イトラは夢を見させる魔法にも優れていて、イグナキ国とイスナミ国の重鎮やこの地の神を祀っているそれぞれの国の神殿の人々に夢を見させた。


 その後の反応は劇的だった。人々は驚嘆し、感激し、大きなうねりのような熱狂にのみ込まれ、祭りの準備を行っている。


「これで、皆仲良く平和になってめでたしめでたしになるかな?」

「どうやろ……。人間も獣人も一度相手を自分たち以外の者と見做してしまえば、それを変えることは中々難しいと思うで。それこそ、神様の力でもない限りな」


 山王はそのいつも笑っているような表情でカラクに答える。カラクはうーん?と首を傾げた。


「今回は、神様の力があるんじゃないのかな?」

「ここに眠る土地神がどんな神かは分かってへん。本当に木霊たちの言うように慈悲深い者なら、とっくの昔に人間の争いを止めとってもええやろ? 夢一つでおさまるなら。そやけど、ずっと人間たちは争い続けとる。ここの神にとっては人間などどうでもええことなんかもしらへんなぁ?」

「ふっ……人間などの塵芥のごとき者ども、争いを止めずカラクを煩わせるなら、俺が全て食い殺してやる」


 山王の話に被せるようにレフは鼻で嗤う。真剣な目をして、じっとカラクがイフを見つめると、やがて目を泳がせた。


「も、もちろん、カラクが良いのではあればだが……」

「ダメだよ。食うのも、殺すのも」

「カラクは魔王なのに、なぜ、人間を大切にするのだ? 妾は神獣であるが、そこの獣と同じように愚かな人間など適当に食って間引いてしまえば良いと思うぞ」


 カラクは、魔王とはっきりと皆の前でいわれて動揺した。イトラとレフは魔王四天王だったが、山王や饕餮には魔王と名乗ったことはない。


「なぜ、俺が魔王だって思うの?」

「そこの配下の魔族二匹がよく悶えて言っておる」


 ポンっと幼女の姿になった饕餮が顎でイトラとレフを指し示し、山王は苦笑している。イトラとレフは、あわあわとカラクを見て自らの失態に動揺しているようである。


 カラクは魔王の生まれ変わりという意識はあるものの、どこか過去の記憶も自意識もぼんやりしている。イトラが言ったように、魔王だった部分は味噌汁でいうところの煮干しのような一欠片で、やはり今の自分は違う何かだと感じるのだった。


「俺はみんなと仲良くしたいの。イトラやレフのような魔族だったり、山王のような獣人だったり、饕餮のような神獣だったり、みんなみんな!」


(────志伯しはくのような人間だったり……)


 カラクはふと頭に掠めた覚えのない名前に、不思議に思い、ぷるぷると頭を振った。


「妾は強く、気高く価値がある。まぁ、そこの魔族も、獣人も良いとしよう。だが、勝手に争っている人間共に価値はあるのか? なぜ、関わる? 勝手に殺し合わせておけばいい」

「いい加減にせぬか。我が主に無礼は許さぬぞ」


 食い下がる饕餮にはイトラは冷たい目をして、睨みつけた。カラクはよく考えながらとつとつと言葉を選んで話し出す。


「たしかに、饕餮の言う事も分かるの。遠くの話であればきっと放っていたと思う。けれど、木霊たちに頼まれて、この場所にいて、関わったのなら、良い方向になってほしいって思うんだ」

「ふんっ……底抜けのお人好しじゃな。だが、妾の未来の伴侶となるのであれば、大きな器は必要じゃ。悪くないと考えよう」

「誰が未来の伴侶だと!? 私を差し置いて獣ごときが!?」


 イトラの目の瞳孔が小さくなり、饕餮と睨み合う。


「あははっ! ここでも争いが勃発してしもうたで。カラクはモテモテやなぁ」

「やめてよー。俺のために争わないでー」


 おたおたして、カラクはとてとてと、イトラと饕餮の間に入り手を広げた。すると、左手を饕餮に、右手をイトラに掴まれる。


「カラクは妾のような神秘的な神獣が好きに決まっておる! モフモフで可愛い獣姿と、幼子にして美しい人型、文句の付けどころがない。なぁ、カラク、はっきりと言うのじゃ」

「いーえ、カラク。その優しさで勘違いさせることもかえって残酷ですよ。私の銀色に輝く神々しくも圧倒的な龍姿、また、豊満でありながら繊細な美貌のこの女体、比べるまでもない。さぁ、カラク、私を初めからきさきに選んでいると告げるのです」


 左右からえいやっと引っ張り合われ、カラクは身体がまっぷたつに張り裂けそうになった。


「いや~~、痛いのーー」

「なんや、こういうの、どっかで見た事ある気がする……」

「お前たち、やーめーろー!! グォーーーーーッ」


 なんとかレフに助けてもらったカラクは、はらはらと涙を流す。


「うぅっ、痛かったの……伴侶とか、后とか分からない。どっちも仲間で大切だよ」


 イトラと饕餮は反省してるようで、バツの悪そうな顔をしている。


「うむ……すまなかった。カラクはまだ心も子供なのじゃな。妾は大人になるまで待とう。イトラよ。しばらく休戦じゃ」

「分かりました。カラク。申し訳ありません。回復魔法を掛けますね」


 よしよしとイトラに撫でられ抱き寄せられて、回復魔法を掛けて貰う。


『あのーー? そろそろ祭りが始まるようです』


 まあるい顔をこてんと傾げながら、どこか楽しげに木霊たちが、おずおずと伝えてくる。





 

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