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違和感だらけの異世界ミステリー紀行  作者: 咲村まひる
第1章:目からビーム殺人事件
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5.調査報告

 町長の遺体は、麻布で覆われた状態でまだ現場に残されていた。僕のお願いをちゃんと聞いてくれたようだ。検証のために必要になるかもしれないので残してもらったが、いつまでもこうしておくわけにはいかないためスピード解決が必要だった。


(結果的には1日かからずここまでこれたから、上出来かな)


 この世界にはまったく慣れないが、事件の解決には慣れてきたのかもしれない。

 現場には、ハリスさんや兵士たちだけでなく、一般の町民たちの姿も見えた。これも僕の指示だ。誰の目にも明らかな結果を見せてこそ、信じてもらえるものだから。

 僕が集まった人々の中心に進み出ると、エミリーは素早く賢者の石板を僕に向ける。彼女も慣れたものだ。


「――ではハリスさん。今日した調査の報告をしたいと思います。みなさんも聞いてください」


 みんなが頷いたのを確認して、ゆっくりと話し出す。


「僕らはまず、容疑者である近くの森のコカトリスたちに会いに行きました。応対してくれたのは3体のコカトリスです。うち1体の、子どもと思われるコカトリスが、食糧倉庫の屋根の破壊について自供してくれました」

「なんですって? ではやはりそのコカトリスが町長を――」


 すぐに結論づけようとする声は、ハリスさんのものだ。


「いえ、あくまでも屋根の破壊だけです。しかも、その子は破壊しようとしたのではなく、脆くなっていた屋根を石化ビームで強化しようとして失敗してしまった結果、ということでした。本人もとても反省していたので、許してあげてください」


 僕の言葉に周囲がざわつくなか、ひとりの中年男性が人垣のなかから出てくる。


「私がそこの倉庫の持ち主だ」

「あ、じゃああなたがコカトリスを目撃した?」

「ああそうだ」


 男性は頷くと、当時のことを思い出すように空を見て言った。


「……言われてみれば、確かにコカトリスにしては小さかった気がするよ。それに、屋根の部分が脆くなっていたのも本当なんだ。そろそろ修繕が必要だと思っていた」

「え、そうだったの?」

「全然知らなかったわ」


 周囲の声に、男性は応える。


「頻繁に倉庫に出入りしていた私以外に、屋根のことに気づいていた人はいないはずだよ。だから私は、きみの言うことを信じる。コカトリスには『気にするな』と言っておいてくれ」

「わかりました」

(よし! 倉庫の持ち主が信じてくれたおかげで、話をぐっと進めやすくなった)


 内心ガッツポーズをしながら、次の話題に入る。


「町長の殺害については、3体とも知らないとのことでした」

「まさか、その言葉を真に受けてそのまま帰ってきたのですか!?」


 また口を挟んできたハリスさんの眼前に、取り出した石の塊を突きつけた。


「これを見てください」

「これは……石、ですか?」

「元々は牛肉の塊でした。コカトリスにビームを撃ちこんでもらったところ、こうなったんです」

「えっ!?」

「先程の話にも出てきましたよね。コカトリスが目から放つビームには、石化の力があるんです。当たったらこんなふうに石化します」

「そん、な……」

「それだけじゃないですよ。本気で攻撃するときには、2回連続でビームを放ち、石化した獲物を砕いてしまうとのことです。それこそ、壊された屋根のように」

「…………」


 実際にコカトリスが人間を襲った事例などないからこそ、知らなかったのだろう。ハリスさんの顔面はまっ青だ。


「一方で、町長の遺体はどうでしょう? ほとんどの人はまだ見ていないと思いますので、勇気のあるかたはどうぞ確認してみてください」


 僕が促すと、何人かの兵士や町民が手をあげ、町長の遺体に近づいていく。おそるおそる麻布をめくると、石化すらしていないことは一目瞭然だ。


「町長は石化していないぞ!」

「コカトリスのせいじゃないんだっ」

「ま、待ってください! みなさん、騙されてはいけません!!」


 不意にハリスさんが大きな声をあげる。


「彼は魔モノの言葉がわかるからこそ、魔モノの味方をしているかもしれないじゃないですか! ただの石を肉の塊と言っているのかもしれませんよ!」

「……っ」

(そう言われたときのために、当然映像は残してるけど、みんなには見せられないからなぁ)


 どう説明しようか、急いで思考を巡らせていると、今度はエプロン姿のふくよかな女性が前に進み出てきた。


「ちょっとお待ちよっ」

(この人は……僕らに牛肉を売ってくれた人だ!)

「その石、あたしに見せてごらん」

「は、はい、どうぞ」


 石になってしまった牛肉を渡すと、女性はその石を四方八方から眺めて細かく観察しはじめる。

 すると――


「これは間違いなく、あたしが売った肉だよ。どうせ食べないんだっていうから、売りものにならない腐りかけの肉をあげたのさ。もちろん格安でね!」

「そ、そんなの、肉に似せて石を彫ったのかもしれないじゃないですかっ」

「こんな短時間でそんなことができるとは思えないよ」

「でも彼は『賢者』なのですよ! それくらい可能かもしれない!!」


 僕の代わりに女性が応戦してくれているものの、これでは完全に水掛け論になってしまう。


(こんな検証、簡単だと思ったのに……なかなか粘るな)


 そもそもビームの検証にハリスさんを連れていけたら、それがいちばん早かったのだとよくわかっている。だが、魔モノがみな友好的とは限らないし、ハリスさんだって素直についてくるとは思えなかった。


(この流れはしょうがない、切り替えて次に行こう)

「コカトリスのビームには石化の力があると、信用できない人にはのちほど実際にお見せします。今は話を進めましょう」

「なんだっ? 逃げる気か!?」


 僕をやりこめることができていい気になっているのか、ハリスさんは妙に強気だ。そんな顔ができるのも、今だけだというのに。

 無視して、言ってやる。


「実は僕、コカトリスのビームよりも相応しい凶器を『知っている』んです」

「――えっ!?」


 ハリスさんだけが、明らかに大袈裟な反応をした。きっと、自分以外は知るはずがないと、高をくくっていたのだろう。


「その凶器は、小さなボディに見合わず恐ろしい速さで金属の小さな弾を飛ばす、高い殺傷能力を持つ武器です」

「そんな武器、聞いたことないわ」

「えらい危ないじゃないか!」

「本当にそんなものがあるの?」

「えーと……最近発明されたので、みなさんが知らないのも無理はないと思います」

(とりあえずこう言っておこう……)


 「実装された」なんてとても言えないから、お茶を濁した。


「とにかく、その武器で攻撃すれば、町長にあるような傷ができるんです。せっかくですから、試してみましょう」


 そこで僕は、鋭くハリスさんを見やった。


「今、ここで」

「え……?」

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