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違和感だらけの異世界ミステリー紀行  作者: 咲村まひる
第1章:目からビーム殺人事件
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1.現場検証

 僕らを捜しに来たのは、亡くなったという町長の秘書だった。

 実は町への出入りはきちんと管理されており、僕らをここまで連れてきてくれた御者が僕らのことを町へ報告していたため、町長たちは他の町民よりも早く賢者の来町を知ることができたらしい。


(どうりで来るのが早いと思った)


 秘書のハリスさんは、『町長の訃報』と『賢者の到着』を同時に聞いて、藁にもすがる思いでここまで走ってきたというわけだ。


 僕とエミリーは宿泊する部屋に荷物を置かせてもらったあと、ハリスさんの案内で事件(事故?)のあった現場へと向かった。

 普通なら、まだ幼いエミリーを凄惨な現場に連れていくなんて間違っているし、僕もできることなら血なまぐさいシーンなんて見せたくない。

 でも残念ながら、この世界はまるで普通じゃないから。

 結局は僕の傍がいちばん安全なのだ。

 それに、エミリーにはちゃんと、彼女にしかできない役割があった。


「――じゃあエミリー、僕が話を聞いているあいだ、これを頼むよ」

「うん!」


 現場に着いてすぐ、大事な賢者の石板をエミリーに託すと、彼女は慣れた手つきでそれを僕のほうにかざしてくる。これで準備は完了だ。


「じゃあ、詳しい状況を教えてください」

「は、はい! こちらに町長のご遺体が――」


 その現場は、町の中心からは少し離れたのどかな場所だった。話によると、この静けさを気に入って町長がよく休憩に訪れていたのだという。現在も野次馬に荒らされず静寂を保てているのは、周辺一帯を立入禁止にしているおかげだ。

 問題の町長は、家畜が逃げないようにと張り巡らされた木製の柵に寄りかかるようにして亡くなっていた。ヒゲのよく似合う、町民たちからは愛された穏やかな老人だったそうだが、現在のその表情は苦悶に歪んでいる。


(胸から血が……)


 許可をもらって町長の服を脱がせると、まさに心臓のあたりに穴のような傷口があり、そこから出血していた。


(これって、まさか……?)


 ハリスさんの手を借りて遺体をひっくり返してみると、背中にも出血している穴が。

 さらに――


「おにーちゃん、これ!」


 エミリーが賢者の石板をかざしていたのは、町長の背後にある木製の柵だ。そこにもやはり小さな穴があいていた。

 僕らが確認を終えると、ハリスさんは自信満々に告げる。


「これはコカトリスの仕業に違いありません!」

「コカトリス?」

「近くの森に住んでいる魔モノです。やつらは目からビームを放つんですよ! おそらく町長はそれにやられてしまったのではないかと」

(目からビームときたか……)

「おにーちゃん、コカトリスってこーゆー感じみたい」


 できる妹が、賢者の石板にコカトリスの姿を映してくれる。指示しなくてもすぐに察するあたり、さすがエミリー。推せる。


「ありがと。なんとなくのイメージしかわからなかったから、助かるよ。鶏とヘビを合わせたようなやつか」


 付されている説明を読む限りでは、石化や毒など様々な能力を持つ魔モノらしい。いくら『想像上の生き物です』と書かれていようとも、この世界にそんな常識は通用しない。


「他の地方ではあまり人を襲ったりはしないそうなのですが、このあたりでは最近食糧倉庫が襲われたりもしていて……」

「倉庫が?」

「あれです」


 ハリスさんが指した場所には、石造りの大きな建物があった。よく見ると、確かに天井の部分がなくなっているようだ。


「持ち主の話によると、ある日突然森からコカトリスがやってきて、ビームで屋根を破壊していったそうです。食べものが目的だったのかもしれないと言っていましたが、結局はなにも盗らずに森へ帰ったと」

「うーん……」

(なんか違和感しかない話だな)


 この世界の住人はみんな、魔モノは人を襲って当然と考えているようだが、実際にはそうではないことを僕は知っている。だからこそ気づける違和感があるのだ。


「エミリー、あの建物の屋根のあたりを拡大して見せて」

「はーい」


 エミリーに指示を出すと、器用に賢者の石板を操り、希望の画像を出してくれる。おかげで、遠くから見ただけではわからなかった細部までよく見えた。


(この画像をハリスさんに見せることができれば、話が早いんだけど……)


 どうやらこの世界におけるオーバーテクノロジー的なものは、僕とエミリーには見えるが、現地の人には認識できないらしい。賢者の石板の電源を入れただけで、宿屋のおばさんが納得したのはそのためだ。『光る』程度のことは許容できても、『目の前にある景色を拡大して表示しました』はおそらく無理だろう。

 試す前から察した僕は、ハリスさんを建物のすぐ近くまで連れていって、屋根のあった部分を一緒に見あげる。


「よく見てください、ハリスさん。屋根の部分が平らに全部なくなっていますよね? もしこれがコカトリスの仕業で、町長にしたのと同じような攻撃をしたなら、穴があくだけだからこういった崩れかたにはならないと思うんです」


 さいわいこの世界の人々は、僕よりもはるかに目がいい。上を見やるハリスさんはちゃんと僕の言わんとしたことを理解したようで、首を左右に振ってから答えた。


「ああ、違いますよ。建物に向かってビームを撃ったわけでなく、最初からビームを出した状態で左から右に屋根をそぎ落とした感じのようです」

(レーザーカットみたいにってことだよな)


 だが、その返答は僕の予想どおりだ。


「だったら町長もそうやって、たとえば頭を切り落とすなりしたほうが確実に殺せるじゃないですか。どうして心臓だけ撃ったんですかね?」


 僕はこのセリフを、ハリスさんを怒らせるつもりで口にした。

 「なぜそんな酷いことを言うのか」と、町長方面で怒ったならば多分シロ。

 「コカトリスの思惑など知らない」と、魔モノ方面で怒ったならば多分クロ。


(さあ、どっちだ!?)


 密かにツバを呑みこみ、思わずハリスさんの口元に注目してしまう。

 すると彼は――


「そ、そんな魔モノ側の事情なんて知りませんよ! とにかく私は、どのコカトリスが町長を殺害したのか明らかにして、きちんと裁きたいと思っているんですっ。そうしなければ町民たちも納得しないでしょうか」

「……そうですか、わかりました」

(やっぱそっちか)


 しかも、この時点ですでにハリスさんには焦りの色が見えている。


(しっかり検証できれば、オトすのは簡単そうだな)


 そんなふうに考えながらチラリとエミリーのほうを見やると、彼女も同じように感じたのか小さく頷いて見せた。やっぱり賢い。推せるエミリー。

 僕はハリスさんに向きなおると、今後の調査方針を伝える。


「では、僕はこれから森に入って、コカトリスたちの話を聞いてきます。でもその前に――」


 不安そうな表情のハリスさんに、わざと微笑んであげた。


「この近くに、肉屋はありますか?」

「へ?」

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