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ふたりのラプソディ  作者: ほしまいこ
第二章 ふたりの休日
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第四節 告白と驚き

アダンの仕事と気持ちの告白、椎名の気持ち編です。

第一話 伝えること

<アダンの想い: 本当のこと>



俺は、意を決して口を開いた。


「俺の出向の経緯、きちんと話していなかったよな。今回の出向は、自分から志願したんだ。お前に会ってみたくて」


「俺に?どうして知っていたんだ?」

椎名は驚いて聞き返した。


「お前か以前進めていたプロジェクト、お前自身のデータもサンプルの一つとして提供していただろ。俺はお前のプロジェクトの倫理的観点からの調査で裏で動いていたんだ。

俺自身のデータもサンプルとして登録し、実証実験したと言った方が良いかもな。


お前のプロジェクトは、人間個々人の脳内や経験値を全てデータにする、という観点で倫理的な問題に発展しうるんだけど、それによって本来なら出会えない人と出会える機会がある。つまり、自分を幸せにしうる人と人を結びつけることができるんだ。


だから、倫理的な理由で本庁が却下する前に、実証したいと出向を申し出た」



椎名はびっくりして、それって、うちの会社に出向することで実証できるのか?と聞いた。


「お前が俺の実証実験の結果なんだよ、椎名。

だから、お前がその結果を受け止めることが出来ないと思ったから、何も話せなかった。今まで黙っていて申し訳ない。


お前のプロジェクトは、人と人のベストマッチだから、性別や年齢、人・物の垣根も越えるだろ?人間は勝手だから自分の運命の人はキラキラしている自分の理想と結びつける傾向がある。だから、この人がベストと言われても、大概の人は受け付けられない。

人は苦労したり乗り越えて自分の人生を掴みとるものだから、多くは自分の理想と乖離する人や物が結果だったりするからな。

理想の外見や条件で人間は測れないのに、人間は結局自分のフィルター越しにしか物事測れない傾向にあるんだよ。


お前にとっても、自分のベストが俺、男で冴えないただの同僚だと分かったら、自分の研究に失望すると思ったんだ。だから言い出せなかった。でも、俺にとっては良い結果だった、うーん、なんて言うか、お前がベストだったんだよ」



椎名は目を見開いた。

「ベストってどう言うこと?お前の実証結果のことだよな?」


俺は椎名をまっすぐに見つめた。


「あのさ、驚かすかもだけど、俺、お前が結果で嬉しかったんだ。男だったのは意外だったけど、初めて会った時から理想というか、好きな性格・・いい奴だと思った。

でもその時お前は彼女いただろ?だからあくまで実証実験だと思って、変なこと言って迷惑かけてかけてもと思って諦めたんだ。


でもこの前、お前と久々に会って居酒屋で一緒に飲んだ時、蓋をしてた気持ちをふと思い出した。


俺、お前のことが気になってさ。その、よかったら俺は男、、だけど付き合ってくれないか?その、恋人になりたい。好きだったんだ、3年前から、たぶんずっと。


イヤな思いさせたらごめんな。でもあと少しで帰任だし、伝えておきたかったんだ。

お前は普通のノーマルな男だと知ってるから、イヤだったら今日のことも、俺のことも忘れてくれよな」



椎名は一瞬固まった気がした。

そして、しばらく無言になってしまった。


・・・・・


「ごめん、イヤだったらほんと忘れて。今日は時間とってくれてありがとう。話せてよかった。お休み」


アダンは動揺して、布団に戻ろうとした。

しまった。ビックリして固まってしまった。



俺は思わずアダンの手を掴んで座らせ、その場で正座して言った。そして正直に言った。


「アダンの気持ち、嬉しいよ、ありがとう。それに正直に実証結果の事も話してくれてありがとう。そっか、何となく納得したよ。


俺、男と付き合うの初めてだけど、性別に関係なくアダンのこと好きだよ。可愛いと思っている。それに俺のプロジェクトは正しい結果出すんだと嬉しく思う。


俺もさ、今日はお前に気持ち伝えるつもりでいた。お前のことずっと気になっていて、この気持ちは『好き』なんだって最近気づいてさ。


だから、この気持ちが本当に恋人としての好きかは、お前が帰任する時まではっきりさせるから、それまで待っててくれないか?」



アダンは俺の告白に、表情が止まった気がした。そして、俺の瞳をまじまじと見つめた。


ソファから身を乗り出したアダンの目に、涙が光っている。しばらく固まっていたが、


「ほんと?嬉しいな、待ってるよ」

とベソりながら呟いた。



その様子があまりに可愛いく感じて、俺は思わず近くに腰掛けて、アダンを胸に抱いた。細くて小さくて可愛いと思った。


アダンはふはは、と笑って、俺の頬にキスをして待ってると再度囁いた。

この小悪魔め、それは反則だろ。



本当は俺から先に告白したかった。

それなのに、アダンから告白なんて、男前過ぎるだろ。


アダンは再び俺に抱きついてきて、良かった、と呟いた。不安だったのか、身体が僅かに震えている。

俺はアダンをそっと抱きしめながら、背中をさすった。

考えたら、男女関係なく、人を本気で焦がれるほど好きになったことすらない。だから、この機会を逃したくない、と思う。


なんとかアダンを抱きしめる手をほどき、これ以上のフランス流のコミュニケーションは付き合ったら正式採用する、と伝えた。


簡単にアダンに手を出して傷付けたくない。


アダンがふはは、と可愛らしく笑った。

その瞳は、月明かりが差し金色に輝いていた。




第二話 ふたりの朝

<椎名の戸惑い: モーニングコーヒー>


「わー、すっげえ美味しい!!」


アダンは寝癖で爆発させた頭をそのままに、俺の淹れたコーヒーを初めて飲むコーヒーかのように実に美味しそうに飲んだ。



昨日の夜にコーヒー豆とグラインダーの置き場所を聞いていたので、先に目が覚めた俺はアダンのために朝食とコーヒーを準備した。


アダンは朝が苦手だ。何度か声をかけて、最後は揺さぶって起こした。


「アダンは寝坊助なんだな。髪、また良い感じに芸術点高いぜ。どうやったらそんなクセつくんだよ」


普段は大きな目が、潰れてショボショボしている。可愛い顔なので、まるで小さい子供のようにも見える。


昨日、あんなにストレートに俺に告白した事を忘れたかのように、今朝はボンヤリと普通に戻っている気がする。昨日は酔っていただけか?と心配になるほどに。



「そうだ、椎名、ありがとう、昨夜は俺の気持ちと話しをキチンと受け止めてくれて、嬉しかったよ。お前、やっぱりイイ男だよな」


急に言われたので、思わずコーヒーを吹き出しそうになった。

アダンは幸せそうに頬杖をつきながらニコニコして、ティシュで俺の口を優しく拭いてくれた。


「俺さ、初めてなんだ、誰かを本当に好きになったの。今までも興味で何度か付き合ったことあったけどさ。

だからすごく幸せだよ。出向明けまでに考えてくれるって言う返事だけでも奇跡だな」


思わず目を見開いてしまった。コイツ、俺が初めて本気の相手なのか?



「そんなに驚かないでよ、普通だよ。お前みたいなモテ男にはわからない、普通のモブ男子の世界があるんだよ。

俺さ、医学部で勉強ばっかで、更にプログラム学んだりしてたしさ。

社会人になってからは仕事ばっかで、その上、親の病気で立ち会いや看病や看取りで、それどころじゃなかったんだよ。表面的な出会いしかなかったってことかな。ま、言い訳けかもだけどな」


そっか、アダン、20代は勉強から親の看取りまで濃い時間でかなり頑張ったんだ。だから奇跡的に、女子の毒歯にかからなかったんだな、納得だ。


「でもいいのか、俺がお前の初めて本気の、その、恋人とかになるのって、なんかお前に悪いと言うか、女性ときちんと付き合える機会を奪ってしまわないか?

まさか、実証のために無理してないか?」


「え、全然だよ、むしろ良かったと思ってる。だってきちんと付き合うのって、本当に好きな人とかが一番だろ?俺にも若い頃は女性への憧れや欲望があったよ。男性はお前が初めてだけど。


ま、医学的な構造の観点で言えば、男性同士は理には叶ってないかな。でも、精神的な観点では理に叶っている。それと医学的な快楽の観点でもな。個体差はあるけど。人間の進歩的な観点ではどちらも同じだし。

要は、あるべきとか難しいこと考えないで、自分の好きな選択をしたら良いってこと。

どうせ100年も生きられない身体なんだから、その先の未来のために子孫を繋ぐ義務を持つか、その瞬間に出会える奇跡を手に掴むかは、完全な個人の精神的自由だと思うよ。


それにしてもこのマフィンサンド、うまいな!椎名、天才!」



アダンは俺の作ったマフィンサンドを美味しそうに食べながら自論を述べた。頭の良いヤツは何かが違うな。でも、こんなに考えていてくれたのは嬉しいと思う。


俺はアダンの前髪を整えて、金色に反射する目を覗きこんだ。

朝日のよく当たる居間は、小鳥の鳴き声も聞こえて快適だ。朝日がアダンの白い顔を照らし、白薄い肌の産毛がキラキラ輝いている。


「その瞬間に出会える奇跡を手に掴むか。俺は今、奇跡に出会ってるのかもな。

アダンのこと、好きだよ」


アダンは微笑んで、俺の額にキスを落とした。


俺にはもう拒む気持ちもなく、可愛いスキンシップを黙って受け入れた。


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