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ふたりのラプソディ  作者: ほしまいこ
第五章 新たな舞台
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第四節 かつての想い

新しい仕事とかつての恋に向き合うふたり編です。

第一話 椎名の課題

<久我の懸念: 新たな心配ごと>


アダンはミソトラル社のセキュリティ調査部付けとなった。俺はAI開発のエンジニアリンング部だが、AI利用時のセキュリティ脅威が問題視されているため、セキュリティ調査部とは二人三脚で仕事をしているのが現状だ。


そのため、アダンとの業務協力はこれまで同様に密接に関係してくる。


新技術としてAIが業務利用されつつある状況の中、セキュリティリスクの認識や、安全な利用のための組織内の規程や体制整備が必要で、アダンはまさに適任と言える。


「アダン、またお前の高いスキルに頼ることになりそうだな。引き続き、エンジニアリンング部との業務もよろしくな」


アダンは微笑んで俺の肩を小突いた。


「何言ってるんだ。頼るのはこっちだよ。

セキュリティ脅威なんてわんさかあって、イタチごっこだ。人間の脳で追いかけるのは限界があるだろ。お前のAI技術無くして、現状の課題は解決できないからな。こちらこそ、色々教えてくれ」


そして、可愛い上目遣いで俺にそっと言った。


「そうだ、椎名、今週一緒に帰れる日ある?

今度一階のサーバー・端末室兼仕事場に、在宅環境を構築するだろう?

椎名の在宅時に一緒に仕事する時用に、効率のいい仕事ブース作りたくて。

ちょうど在宅開発環境のEXPOやってるから、会社帰りに寄ってみないか?」


俺は頷いて、早帰りの水曜日の定時後を提案した。

アダンはホッとした顔をして、じゃ、本庁の産業医出勤は木、金曜日にすると言った。



俺の選んだスーツに身を包んだアダンは、いつもより2割り増しにカッコよくなっており、ちょっとやり過ぎたなと反省した。

佐伯さんから聞いていたが、飲み会の誘いが殺到する訳だ。


自分へのアプローチはいくらでも躱わすことが出来るが、アダンは初心だし、真っ向から来られたら戸惑うだろうからな。

一度きちんと躱し方について会話するか。


アダンはもともと仕事と勉強一筋で、対人コミュニケーションは慣れてないため高くはない。

人見知りもあり、知合い以外にはたまにコミュ障の一面が出る時もある。


俺にはそこが魅力だが、仕事以外では無理させたくない。何より、俺としても他の人にアダンを異性として見られるのは面白くない。


はぁ、、俺は心配が尽きないなと、贅沢な悩みを持て余していた。



第二話 昔の恋人

<久我の戸惑い: かつての彼女>


はぁ、、今日も残業してしまった。

来週からアダンは基本は在宅勤務と言っていたし、俺も来週から在宅勤務を入れようかな。


今は週の半分は在宅勤務可能だが、一人暮らしの時は会社に近かったこともあるし、在宅勤務で1人で仕事をする事に慣れず、結局会社に来ていた。


会社も在宅ワークでの開発環境を充実するため業務環境を整備しているし、アダンがいる時は在宅で仕事の相談もしやすい。


「椎名君、まだ残業?」


帰ろうと鞄に手を伸ばし、アダンに簡単に帰宅連絡をした時、不意に声をかけられた。


振り向くと、同期の鈴木さんがいた。今、経理部だったと思うが、仕事の接点もなくしばらく会話をしていなかった。


「私も今帰りなんだ。一緒に帰らない?」


ちょうど帰りがけで端末も消しており、鞄も持っていたため断るのも気が引けて、俺は一緒に帰ることにした。


「相変わらず仕事忙しいみたいね。まだ独りだよね?私たち別れて何年経ったかな」


帰り道、昔の話しを掘り返してきて戸惑った。

俺は彼女と入社2年目から半年付き合っていた。


俺の仕事が忙しかったこともあり、すれ違いがあったこともあるが、結婚願望の強い彼女の想いに応えられなかったこともある。


若かったし、今ならもう少し綺麗に別れる事もできただろうが、きちんと言葉にしてあげれば良かったと思う事はある。


「お互い、今年31歳か。結局、結婚願望強かったけど未だに独身で笑っちゃうよね。こんな事なら、椎名君ともっとじっくり付き合えば良かった。椎名君は今いい人いるの?」


俺は首を縦に振って、いると伝えた。

アダンの事は隠したくないが、そこまで親しく付き合っていない同期であり元カノに、プライベートは話したくない。


「そっか、残念。椎名君とまた付き合いたかったな。相変わらずイイ男だよね。ね、どんな人?」


俺は彼女の誠実な気持ちに、今度はきちんと応えないとと思った。


「そうだな、その人のいない人生は考えられないかな。不器用だけど裏表なく気持ちが綺麗でさ、損得なく俺の内面を見てくれる」


鈴木さんはハッとして、俺から目を逸らした。そして、そっか、と呟いた。


俺たちは駅前で別れた。帰り際、鈴木さんは改めて言った。


「椎名君、今度は幸せにね。私ももっと早く気づけば良かったな。椎名君の事、外見や条件でしか見てなかったことに気づいたわ。

今度は失敗しないように頑張る。じゃ、仕事頑張ってね」


俺は軽く手をあげて彼女を見送った。

綺麗な彼女なら、近いうちに良い人が現れるだろう。


過去に付き合った人は確かに俺の表面しか愛してくれなかった気がする。だからいつも心が満たされずに寂しかった。それで長続きせず、別れてばかりだった。


俺は両親が早くに離婚して腹違いの弟がいるが、家族で連絡を取り合っているのは弟とだけだ。

だから、小さな頃から俺の内面を理解しようと努めてくれる人に巡り会ったことがなかった。


俺は器用に色々と出来る方だと自認しているが、実際は人として空っぽで、心の脆さがある欠陥人間だ。


でもアダンとは本音で話が出来るし、良いところも悪いところも理解した上で、俺をそのまま受け入れてくれている。


アダンは精神科医なので、俺の心の弱さは3年の同僚期間によく分かってくれたし、恋人になってからは、さりげなくいつもサポートしてくれる。

それに、アダンも自身の心の脆さを俺に隠さない。


そんな関係が心地良いし、アダンは恋人として、今までのどの彼女より愛おしい。


そんな気持ちに改めて気付かせてくれた鈴木さんに感謝だな。


帰り際、いちごショートケーキを見かけ、アダンの喜ぶ顔が見たくて買った。

俺はアダンの待つ自宅に足早に向かった。


自宅の玄関前で窓を見上げると、イチコが俺の帰りを窓辺で待っていた。俺を見つけると、窓ガラスに両手をついて、目を輝かせている。


俺はイチコに片手をあげて、ただいまと微笑んだ。



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