第六節 新しい空間
新居で新しく家具を買いたし、新生活をスタートさせるふたりです。
第一話 3階の空間
<椎名の新居: 新しい家具>
3階の窓から住宅街を一望できる。
土曜日の朝は穏やかで、このままゆっくり家で過ごしても良いと思ってしまう。
引越ししてから数週間たった。2人用のベッドは購入したが、それ以外は徐々にということでまだ揃えていない。
俺たちは朝食後に3階のソファに座り、レコードをかけながら、この空間に必要なものがないか話し合った。
「ベッドは明日の日曜日に届くだろ?俺の医療系の空間はロフトに移したし、そうだな、やっぱり少し殺風景かな」
アダンは改めて3階を見渡した。
3階は屋上ベランダに続く階段があり、2人のベッド以外は、大きな窓辺に革のソファ、サイドテーブル、アンティーク棚があるくらいだ。
建てつけのウォークインクローゼットがあり、2人の洋服類や季節の収納も問題なく収まっている。
もともと3階の広さは40平米はあるので割と広い。
俺はアダンの肩を抱きながら、少し考えた。
抱き寄せたアダンからホワイトムスクの香りが漂う。暑い夏に清潔感があり、俺はこの香りが好きだ。
3階はアダンとのプライベートな共用空間だから、2人の時間をこうやって穏やかに過ごしたい。
そして、仕事で疲れた心も癒す場所にしたい。
「ねぇアダン、こうするのはどうだろう?
このフロアをより癒しにするために、ベッドエリアはカーテンの仕切りを作って、間接照明をいくつか置くんだ。上から吊るすのもあっても良いな。
それと、お互いが好きな絵画を飾るのはどうかな?絵画が綺麗に見えるよう、ダクトレールにスポットライトもつけてさ」
アダンは目を輝かせて、それいいな!と頷いた。
ベッドは確かに薄いカーテンて間仕切りした方がより寝室らしくなるし、朝の乱れた布団を隠すこともできる。
間接照明はアダンがもともと使っていたステンドグラスのものが1つあるだけだ。
ダクトレールの照明も、アダンが以前から使っている薄いオレンジ色のガラスの照明だけだ。
夜は少々ワット数が小さいため、読書などは難しい。
「じゃ、これから家具と照明を見に行こうか?気に入ったものを少しずつでも揃えて行こう」
俺たちは家でゆっくり過ごすのをやめて、都内のインテリアショップに出かけることにした。
時間は土曜日の朝10時過ぎ。
休日デートは、始まったばかりだ。
・・・・・
「うわ、オシャレだな。椎名、詳しいな。照明の専門店?」
アダンを連れて、照明専門店に来た。俺はここの照明が好きで、誰かと住むことになったら揃えようと決めていた。
「そう、照明専門店なんだ。デンマークの照明メーカーで150年くらいの歴史があってさ、昔から好きなんだ。俺が持参した机のライトと2階に置かせてもらった食卓の小さめのライト、あれもここのだ。ほら、あれはうちのデザインの大きめのライトで色んなカラーがあるだろ?」
俺は灯りが好きだ。心地よい雰囲気を生みだす光をかたちづくる照明は、自宅での癒しになっていた。
社会人になってから、少しずつお金を貯めて買った物だ。
「そっか、椎名の持ってきた照明類、カッコいいなって思ってたんだ。一階の机のライト、これだろ?うわっ高いんだな。デザインされてから100年以上か、通りでステキな訳だ」
最近できたばかりの専門店は、ショップ自体がオシャレな照明に彩られた空間となっており、3階の空間をイメージしやすい作りとなっている。
俺たちは色々と見て回った。
「俺、食卓と同じサイズの大きなタイプ、良いなって思う。カラーも沢山あるけど、シンプルだけど白い傘で、内側が青いタイプはどう?よく見ると真ん中がオレンジなんだよ。電気をつけるとほら、夕暮れ時のような色合いだよ」
アダン、よく分かってるな。俺は思わずその顔を見た。
「お前が選んだのって、定番人気カラーだ、流石だよ。内側の青色と赤色の原色が、光を灯すとその強さが消えて黄昏色が生まれるんだ。ほら、夕暮れ時の空の色。やっぱりこれがいいよな!」
他の照明はまた少しずつ揃えるとして、俺たちは心休まる夕暮れ時の色を作る照明を、3階に選んだ。
「良い買い物ができたな。フロアライトもステキなの買えてよかった!ベッドの仕切りカーテンも良いのあったし、さっそく取り付けるの楽しみだよ。
絵画は迷うからゆっくり2人で見つけていけば良いな。
しかし、俺、あの照明好きだよ。雨のグレーな落ち込みやすい日でも黄昏時間を作ってくれるし、助かるよ」
恋人との癒しの時間を好きな灯りで彩る、俺は自分の夢がようやく叶った気がして、しみじみした。
第ニ話 新しい空間
<アダンの休日: 新しい空間>
帰宅後、椎名が照明とカーテンを取り付けている中、俺は少し早めの夕食を作った。
今日は帰りに美味しそうステーキ肉があったので、ガーリックステーキと野菜たっぷりのサラダと簡単だ。
イチコに先に薬を入れたご飯をあげた。
高齢の割に、夜ご飯はしっかりと食べてくれる。イチコにはできる限り長生きしてもらいたい。
イチコは俺が中学生の頃に家の軒下で産まれたらしい。どうやら母猫に放置されて泣き叫んでいたようだ。何度探しても見つからず、3日目の朝に隣の家の塀に上がって大きな声で鳴いていた。三日三晩泣き続けて、最後は見つけてもらうために力を振り絞って塀に上がったようだ。
片目が涙で潰れて、カラスに襲われる寸前だった。
ようやく見つけた俺はイチコを抱きかかえてお風呂に入れて病院に行った。
それから、イチコはオレの兄妹としてずっとそばに居て、俺を支えてくれている。
椎名が来てからは、椎名のことも大好きでとても懐いている。人見知りな半野良の性格で、俺以外には懐かないのに意外だった。椎名の優しさはイチコにも伝わったようだ。
ご飯に満足したイチコを寝かして、俺はご飯の準備が出来たことを伝えるために3階に呼びに行った。
椎名は作業を終わらせて、3階の拭き掃除をしていた。
「椎名、ご飯できたよ。わぁ、すごいな、電気もカーテンもバッチリだな!」
3階の部屋は椎名の見立て通り、夕方のこの時間、夕暮れ時にうっすらと電気をつけると、窓から入る西陽と重なり合って綺麗な夜の灯りが部屋に広がる。
ベッド周りのカーテンは2人で見立てて、透明感のあるオーガンジーのややベージュ味のあるホワイトを選んだ。
床の色と自然と馴染むし、西陽と風が部屋を吹き抜けた時に少しゴールドに煌めく上品さを感じたからだ。
ベッドサイドのアンティークなステンドガラスの照明は、アンティーク棚にオシャレに設置し、サブライトとして、薄明かりに映えるように設置した。
それに代わり、ベッドサイドには新たな照明をひとつ置いた。椎名の好きなデンマークの照明で、ベッドサイドをほのかに明るくする。
「今夜は食後にここで軽く飲もうか。殺風景な3階がステキな空間になったお祝いだよ」
俺は1人の生活がすっかり2人の色に穏やかに色づいたことが嬉しく、西陽のさすわずかな時間を眺めた。明日からもずっと、この空間で恋人と過ごす贅沢に、何だか鼻の奥がしびれるて泣きたい感覚になった。
「さ、ご飯食べよう」
椎名に促されて、俺はハッとして2階に降りた。
土曜日の夕暮れが、静かに愛おしく過ぎていった。




