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ふたりのラプソディ  作者: ほしまいこ
第四章 別れと始まり
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第五節 今後の進退

今後の生活について、前向きに考える2人です。

第一話 出勤の朝

<椎名の朝: モーニングコーヒー>


「うまっ!!この豆一緒に買ったやつ?」


アダンは昨夜のアレコレで乱れた髪に、更に寝癖をつけた頭をそのままに、俺の淹れたコーヒーを実に美味しそうに飲んだ。


昨日の事ですっかり心身ともリフレッシュした俺は、反省の意味も込めてアダンのために朝食とコーヒーを準備した。


アダンは相変わらず朝が苦手だ。

昨日は無理を強いてしまったせいもあるが、会社なのに何度声をかけても起きない。今日も揺さぶって起こした。


「アダン、その寝坊助はなんとかすれよ。

流石に仕事に遅れそうだったら、今後は平日の仲良しは禁止にするぜ。ん、でも俺が辛いか…

ほら、髪がまた良い感じに芸術点高いし。

俺、そんなに髪の毛もみくちゃにしたか?どうやったらそんなクセつくんだよ」


昨夜の快楽で泣き腫らした目は、潰れてショボショボしている割に、長いまつ毛に霜が降りているような色気がある。


昨日、あんなに妖艶に俺を欲しがったのに、そんな事を忘れたかのように、今朝はボンヤリと普通に戻っている。


「そうだった、椎名、昨夜はありがとう。俺、すっかりお前の身体なしでは生きていけなくなった。お前、やっぱりイイ男だよな」


俺はコーヒーを吹き出しそうになった。

なんだこのストレートな感想は。


昨夜の妖艶さは微塵もなく、イタズラな子供のような感想を言われて嬉しくもない。


アダンは頬杖をついて、俺の口元のコーヒーを優しく拭って微笑んだ。


「俺の髪乱したの、ほとんどは椎名のせいだよ。お前は気持ちよくなると、俺の髪を掻き乱して耐えるんだよ。覚えてない?キスの時も上の時も。凄かったな…」


俺は思わずギロリと睨んだ。


でも、たまに乱されるこのペースが、なんとも言えないが、心地よく感じてしまう。


俺はすっかりアダンの尻にひかれたようだ。



第二話 今後の進退

<アダンの気持ち: これからのこと>


「そう言えば昨日はお前の仕事の件、話し出来てなかったな。いつまでに辞令の返事をするんだ?」


俺は椎名に昨日の考えを話した。


国の心臓ではなくて、椎名の心臓を守りたいこと。変則勤務を乗り越えて、守りの業務を今は行いたくないことを。


椎名は、俺の考えが自分に後悔がないのであれば尊重すると言ってくれた。


「でもアダン、俺の心臓は自分で守る。お前の心臓も俺が守る。アダンも同じ気持ちなんだよな?お互いが各々のことを守りたいんだ。

だから応援するよ。お前のキャリアはお前の好きに活かせばいい。大丈夫だよ、アダンなら」


俺は自分のキャリアの選択が出来たこと、そしてこの決断の重要な時に大切な恋人がそばにいて応援してくれる事に感謝した。


俺は椎名の頬に軽くキスをした。


・・・・・


セキュリティ庁の仕事を辞めることを決めて、数日経った。


当面は、大学の医局に戻って勤務するため、正式な辞令が出る異動までの期間は就職活動をして、異動発令前の7月末に退職することにした。


椎名の会社から帰任のひと月後の退職となった。


勤め先はいくつか候補があり、近所の病院からも声がかかったが、落ち着くまではシフトが変則的ではない方が良いと思い、結局は出身大学の医局を選んだ。家からもそこそこ近い。


なんだって今は、椎名との新婚生活、いや、同棲生活中を楽しみたいし、長い人生、仕事をセーブしてもいい時期はあるはずだ。


椎名は、俺と進めたAI業務の商品化企画が評価され、新しいプロジェクトにアサインされた。


生成AIの業務活用はそもそも難しいと言われているが、そこを改善するそうだ。

AIの今だに難しいとされる思考が社会人的な知識から剥落しがちな点を改善し、商品化する。


俺の恋人はまた難しい仕事を任されたようだ。


でもきっと、椎名ならできる。


俺はそれぞれが描く生活を想像してみた。

そこには、寄り添ってお互い成長する2人の姿がある。きっと、大丈夫だ。



<椎名の気持ち: これからのこと>


「おはよ、椎名。今日は1人で起きたぞ」


週末の土曜日の8時、アダンは目をこすりながらリビングに降りて来た。


イチコがその足元をグルグルとまとわりついて、抱っこをせがんでいる。


「イチコ、暑い夏に抱っこは暑苦しだろ。すぐ降りるのに抱っこか?甘ちゃんだな」


2人でぶつぶつと痴話喧嘩をしながら白いタイルの食卓にアダンが座った。


俺はアダンにコーヒーを差し出した。

アチチと言いながら、美味しそうに飲んで、膝にイチコを抱え上げる。


平和な休日の朝、チチチと小鳥がさえする声が聞こえる。空は青く広がり、平日の多忙な時間を束の間忘れさせる。


「そうだ、昨日の夜にチーズケーキを作ったんだ。冷えてちょうど食べ頃かな。コーヒーに合うから出してくる。ちょっと待ってて!」


アダンは冷蔵庫から6ピースサイズの丸いチーズの箱を持ってきた。ん?普通のチーズか?


「簡単でゴメンだけど、少し甘めの6ピースチーズで作った簡単チーズケーキだよ。今お皿に盛るから待ってて」


アダンは皿に箱からチーズケーキを取り出して丸く並べ、その上に粉砂糖を振った。

チーズの下にはクッキー生地があり、見た目は小さなホールチーズケーキだ。


コーヒーと合わせて一口頂くと、しっかりとしたチーズの風味が漂い、美味しいケーキに仕上がっている。


「アダン、すごいな、ちゃんとしたチーズケーキだ!簡単ってどのくらいで作れるんだ?」


「うーん、10分くらいかな。せっかくの金曜日の夜だから時間をかけたくないし、でも土曜日の椎名とのモーニングで仲良く食べたいから、色々調べてこれにしてみたんだ。喜んでくれてよかった!」


アダンも一口食べて、コーヒーを美味しそうに飲む。はぁ、幸せな休日の朝だ。

俺はもう一口、チーズケーキをほうばった。


アダンはシャンタングレーの優しい瞳で俺を見つめていた。その瞳は朝日を受けてイチコと同じ金色に輝いていた。


俺は、アダンがどんな仕事を選んでも、きっとこんな毎日がやってくると思った。


2人で過ごす安らかな時は、仕事一つで変わるものではない。


俺はアダンの口元に付いたチーズケーキを、そっと指で拭った。


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