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ふたりのラプソディ  作者: ほしまいこ
第三章 恋人と恋敵
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第二節 恋人の体温

仕事に恋に、ふたりの仲が更に深まります。

*R15の表現があります。


第一話 オフィスの恋人

<アダンの能力: 恋人の仕事>


「ごめん、待たせた」


アダンは7階の会議室でノート端末を見つめて何やら考え込んでいた。


集中していたためか、俺の声を聞いてはっと顔を上げ、嬉しそうに俺を見上げる。


「いや、俺もさっき来たところだ。お前も忙し中、よく時間取れたな?多分、規約の第4章と第5章の条項が気になってるのかなと思ってさ」


そう言ってアダンは規約の書類を俺に見せた。


「禁止事項と利用中止条件、もう少し見直しをかけた方が良いかもな。これだと、こちらに不利になりうる書き方だ。うっかり見落としていたよ、すまない。

あ、それとこれは英語版。フランス語訳も必要だったら言ってくれ」


アダンは規約を読み込んでおり、会社の不利にならないよう、更に精査を進めてくれたようだ。



この頭脳は尊敬に値する。


「助かるよ。俺は規約や契約周りは苦手でさ。

法務や総務にほぼ任せきりだけど、システムの細かな内容はお前だから規約に咀嚼して落とし込めたと思っている。本当にありがとう」


アダンは嬉しそうに大した事でないよと笑う。

いや、大したことなんだよ。



それから俺たちは、アダンの指摘した規約部分に赤ペンで適切な表現を考えながら修正を入れた。


一部直すと、他の箇所に影響が出るので、小一時間真剣に精査を加えながら、素読して修正した。



「はあ、、ようやく終わった。サンキュな。助かったよ。

ねぇ、アダン、今日はこの後セキュリティ庁に打ち合わせで移動か?お前のスケジューラに予定が入っていたから」


アダンは頷き、かわいい鼻をしかめた。


「そうなんだよ、あっちの上司に呼ばれてさ、今日の規約のことも含めて報告だ。週末は椎名とゆっくり過ごしたいから、今日中にこの件は片付けてしまうよ」


アダンは、はぁと大きく息を吐いて伸びをした。捲し上げたシャツの袖口から覗く手首が白くて綺麗だ。


俺は改めて、妖艶で秀才な恋人を眺めた。

恋をして、少し垢抜けた身だしなみと表情が美しい。


アダンはよいしょと席を立った。

そして、「じゃ、週末な!」と微笑んだ。


会議室を出る時、おもむろに振り向き、俺の首に腕を回して軽くキスをしてくれた。


俺の中で何かのスイッチが入った。

俺はその手首をつかみ、しばらく薄赤い唇を貪った。


アダンの下唇は厚めでしっとりとしており、キスだけでそれ以上を想像してしまう妖艶さがある。

初めてキスした時は、女性とのそれとなんら変わらず、むしろそれ以上の唇に魅了された。


「ん…ふぅんん…椎名、気持ちいい…」


短期間で鼻呼吸をマスターした優秀な恋人は、俺の濃厚な口付けに可愛い舌を絡めてくれる。


とても甘くて痺れるようなキスだ。

会議室を出たくない。


俺だけではなくアダンの瞳にも欲望の火が揺らめいたが、我にかえって「会議室の風紀を乱すな」

と妖艶に微笑んだ。


自分から仕掛けたのにな、と思いつつ、俺は黙って頷くしかなかった。



俺は自席に戻り、気持ちを切り替えてパソコンに向き合った。俺も今週中に仕事の目処を立てよう。


コーヒーのマグに口をつけた時、ふと、先程のキスを思い出した。


俺は自分の唇に指をあて先程の感触を思い出した。週末まで我慢だ。


俺は大きなため息をついた。



第二話 優しい夜

<アダンの恋: 恋人の体温>


週末の午後、俺は椎名の家を訪れた。

恋人になってからの初めての土曜日だ。


椎名は相変わらず爽やかに俺を迎えてくれた。


グレーの薄ニットと生成りのチノパンをさりげなく着こなし、髪はセットせずに自然に下ろしている。



「夜ご飯は準備済みなんだ。夕飯まで、レコード聞かないか?」


そう言って、椎名はいくつかお勧めの物を持ってきた。俺は詳しくはないが、殆どがレア物のようだ。


椎名は楽しそうに説明をはじめた。


「名作と言われるBlue Trainブルートレインは、サックス奏者のジョン・コルトレーンがブルーノートからリリースした唯一のジャズレコードだ。

コルトレーンの重厚なテナーと、リー・モーガンのトランペットソロが素晴らしいんだよ。他にも…」


俺たちはビールを飲みながら、午後の暮れていく時間をレコードや何気ない話で楽しんだ。


ただ、椎名にはビールは一杯までだと制された。

この前飲み過ぎたせいで、せっかくの椎名との初めての夜をぐっすり寝て過ごしてしまった。あれはさすがに反省した。



趣味の話になると、俺たちはただの男友達のように熱く語り合い、笑い合う。


何にも縛られない自由な休日の時間が、とても愛おしく、安らかに感じた。


ソファに座っていると、時おり椎名は俺にキスをした。


それがとても自然でいやらしくない。モテる男の振る舞いは違うな、と感心する。


形のよい男らしい唇はキスのスキルが高く、舌だけで俺を蕩けさせる。あまりの上手さにそのスキルに嫉妬する自分もいて、大人げなさに一人で赤くなってしまう。


そしてたまにする濃厚なキスは、恋人になったことをより自覚させる。

初めてソファに押し倒されてキスされた時は、このまま最後まで行ってもいいと思ったほど気持ち良かった。


すっかり心身ともに椎名に染まった自分に、驚きと嬉しさを感じる、そんな土曜日の午後だった。



・・・・・



「アダン、夕飯だぞ」


椎名の夕食は和食だ。


しかも俺の好きな筑前煮と西京焼だ。

味噌汁も美味しく、味噌へのこだわりを感じる。


「椎名、すごいな、とっても美味しい!上手く煮付けているよ。和食って何だかホッとする」


椎名は黒のシックなエプロンをつけてニコニコしている。何でもスマートにやってのけるところ、本当に尊敬するよ。


西陽が部屋を薄オレンジ色に染める中、俺たちは楽しい夕飯を囲んだ。一人で食べるより二人が美味しく感じる。

幸せだな、俺は西陽を染まる部屋と椎名を目を細めて眺めた。


食後は片付けを一緒にしながら、椎名が泊まっていくか?とそっと言った。


俺はそのつもりだったので、黙って頷いた。



椎名に勧められて、先に風呂に入った。


清潔なバスルームには爽やかな柑橘系の香りの良い石けんなどのバスグッズが揃っている。

初めて泊まった時から、椎名らしくて良い香りだと思ったものだ。


「お風呂ありがとう。椎名のボディソープ、いい匂いだな。すごく癒されるよ。シャンプーもほら、俺の髪でもサラサラになる」


椎名は笑って俺の髪をドライヤーしてくれた。


俺たちはベランダを開けて夜風を浴びながら、2人で風呂上がりの身体の火照りを冷まして、白ワインを軽く飲んだ。

熱った身体に冷たい白ワインが染みる。


多分、初めての夜になると予感していた俺は、少し緊張していた。


これからの夜のアレコレもそうだが、現実の俺を見て椎名が逃げたくならないか心配だ。


そんな緊張が伝わったのか、椎名は俺の肩を抱き寄せて、額に軽くキスをしながら言った。


「アダン、もしかして怖いのか?大丈夫、俺はお前がいいと言うまで何もしないから。

それに、もししても優しくするし、嫌だったら無理に進めない。それとも俺とは不安?」


俺は首を横に振り、言葉にならない思いを抱きつくことで返事にかえた。怖くはない。ただ、こんな時どうしたらいいものか。


経験値の低さに何だか恥ずかしくなったが、思い切って耳元で大丈夫と囁いた。


椎名は俺の手を引き、優しくベットに横たえた。


優しいキスが次第に首元に移動する。

椎名の爽やかな髪の香りと黒髪の感触を首元で感じ、俺はくすぐったさと爽やかな香りに身もだえした。


「ふふ、椎名、くすぐったい。とてもいい匂い…椎名の香りだ」


椎名は俺の瞳を見て、随分と余裕だな、と微笑んだ。


椎名はベッドに横たわり、俺の前髪を優しく撫でて、額にキスをした。


下唇を執拗に食んだり舐められたりしながら、次第にキスが激しく深くなった。


俺は必死に、椎名の剥き出しの二の腕にしがみついた。


気づくと服はすべて脱がされていて、呼吸も絶え絶えで涙が出てきた。苦しいけど気持ちいい。

それにとても椎名が愛おしい。


思わず見上げる男らしいその体型は、見惚れるほどだ。俺は全身にキスを浴び、何も考えられなくなっていた。


んん、ダメ、変になる…


未知の感覚に翻弄されながら、涙しか出ない。

そして、徐々に高まる自分の身体に戸惑った。どうしよう、すごく気持ちがいい…


それからは椎名のなすがままになっていた。

そして激しい快楽に身を震わせ、気づくと意識を手放していた。



遠くから、椎名が優しく俺の手を握って、好きだと何度も囁いているような気がした。


身体に残る甘い余韻が、軽い疲労感と共に、俺を未知の世界に誘う。


そして俺の身体は、永遠に椎名の暖かな体温と、力強い腕の中に閉じ込められた気がした。

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