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ふたりのラプソディ  作者: ほしまいこ
第三章 恋人と恋敵
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第一節 夜明の曙光

第三章の夜明の空編となります。


ようやく恋人になったふたりの初めての朝です。

仕事も恋も、ようやく同じ方向に動きはじめます。

第一話 曙光(しょこう)の明け方

<椎名の朝: モーニングコーヒー>


「わー、すっげえ美味しい!!」


アダンは寝癖で爆発させた頭をそのままに、俺の淹れたコーヒーを初めて飲むかのように実に美味しそうに飲んだ。


先に目が覚めた俺はアダンのために朝食とコーヒーを準備した。


アダンは朝が苦手だ。何度か声をかけて、最後は揺さぶって起こした。


「アダンは寝坊助なんだな。髪、また良い感じに芸術点高いぜ。どうやったらそんなクセつくんだよ」


普段は大きな目が、潰れてショボショボしている。可愛い顔なので、まるで小さい子供のようにも見える。



俺はまだ空の暗い明け方に目が覚めた。


恋人になった初日の朝は、闇夜に光というより光の予感のようなもの、夜明け前の曙光(しょこう)が差した希望に満ちた朝だった。


昨日、お互いの気持ちを確かめ合って正式に付き合うことになった。


その後はお互い照れくさくなって、用意していた夕飯を食べた後、アダンのお土産のビールを一緒に飲んだ。


アダンは酒癖が若干悪い。


弱いのにうっかりと飲み過ぎる上に、酔いが回ると笑い上戸になって抱きついたりキスをしてくる。


どうやら、フランス人の血が濃くなるようだ。

しかも厄介なのが、色っぽくなるところだ。


もともとの白肌と厚い唇が、酔うとバラ色に染まり、目元と唇は赤みを増す。


俺の理性を試すかのような酔い方に、俺はビール三杯がアダンの限界値だと知った。


こうやって少しずつ、恋人のことを知っていかないとだ。まぁ、俺も酒は弱いんだけど。


昨夜は俺のベッドにアダンを寝かせ、俺はソファで寝た。

正式に恋人になったのだから一緒に寝ようと言うアダンだったが、恋人の初めての夜を酒の勢いで汚したくなかった。


ぶつぶつ言っていたアダンだったが、ベッドに入って数分で眠りに落ちた。


昨夜は緊張もあったのだろうし、付き合うことになって安心もしたのだろう。まるで天使のような微笑みを浮かべて眠っていた。



「このコーヒー豆の焙煎、最高だよ。椎名はどこで豆買ってるの?俺もコーヒーの淹れ方、勉強したい」


アダンは恋人になった事を忘れたかのように、今朝はボンヤリと普通に戻っている気がする。

昨日は酔っていただけか?と心配になるほどに。



「そうだ椎名、ありがとう。昨夜は俺をキチンと受け止めてくれて。しかも付き合ってくれるなんて、嬉しかったよ。お前、やっぱりイイ男だよ」


急に言われたので、思わずコーヒーを吹き出しそうになった。


アダンは幸せそうに頬杖をつきながらニコニコして、ティシュで俺の口を優しく拭いてくれた。


「俺さ、初めてなんだ、誰かを本当に好きになったの。今までも興味で何度か付き合ったことあったけどさ。だからすごく幸せだよ。

出向明けまでに考えてくれるって言う返事だけでも奇跡だと思ったけど、まさか出向中に付き合えるなんてな」



思わず思い出して、目を見開いてしまった。

そうだった。アダンは俺が初めての本気の相手だった。俺、きちんと対応できるかな?


「そんなに驚かないでよ、普通だよ。お前みたいなモテ男にはわからない、普通のモブ男子の世界があるんだよ。俺さ、医学部で勉強ばっかで、更にプログラム学んだりしてたしさ。


社会人になってからは仕事ばっかで、その上、親の病気で立ち会いや看病や看取りで、それどころじゃなかったんだよ。表面的な出会いしかなかったってことかな。ま、言い訳けかもだけどな」



そっか、アダン、20代は勉強から親の看取りまで濃い時間でかなり頑張ったんだ。だから奇跡的に、女子の毒歯にかからなかったんだな、納得だ。


「改めてなんだけど、いいのか?俺がお前の初めて本気の、その、恋人とかになるのは。なんかお前に悪いと言うか、女性ときちんと付き合える機会を奪ってしまわないか?

まさか、実証のために無理してないか?」


アダンは寝グセの跳ねた髪を指で摘みながら、キョトンとしている。


「え、全然だよ、むしろ良かったと思ってる。だってきちんと付き合うのって、本当に好きな人とかが一番だろ?俺にも若い頃は女性への憧れや欲望があったよ。男性はお前が初めてだけど。


ま、医学的な構造の観点で言えば、男性同士は理には叶ってないかな。でも、精神的な観点では理に叶っている。それと医学的な快楽の観点でもな。個体差はあるけど。人間の進歩的な観点ではどちらも同じだし。


要は、あるべきとか難しいこと考えないで、自分の好きな選択をしたら良いってこと。

どうせ100年も生きられない身体なんだから、その先の未来のために子孫を繋ぐ義務を持つか、その瞬間に出会える奇跡を手に掴むかは、完全な個人の精神的自由だと思うよ。


それにしてもこのマフィンサンド、うまいな!椎名、天才!」


アダンは俺の作ったマフィンサンドを美味しそうに食べながら自論を述べた。


頭の良いヤツは何かが違うな。でも、こんなに考えていてくれたのは嬉しいと思う。


俺はアダンの前髪を整えて、金色に反射する目を覗きこんだ。


朝日のよく当たる居間は、小鳥の鳴き声も聞こえて快適だ。朝日がアダンの白い顔を照らし、白薄い肌の産毛がキラキラ輝いている。


「その瞬間に出会える奇跡を手に掴むか。俺は今、奇跡に出会ってるのかもな。アダンのこと、好きだよ」


アダンは微笑んで、俺の額にキスを落とした。


恋人になった俺はもう拒む気持ちもなく、可愛いスキンシップを黙って受け入れた。



第二話 新しい週へ

<椎名の日常: 仕事への切替>


楽しかった休日はあっという間に終わった。


名残惜しくもアダンは帰宅し、俺は月曜日の打ち合わせの内容を整理した。


アダンと会社で一緒にいられる期間はあとひと月。週明けに提出の資料を成功させないとと思う。


アダンには、再プロジェクトの件を昨日話した。そして、必ず成功させると伝えた。


アダンは笑顔で大丈夫だと言った。

なんせ、俺たちが実証結果で、上手くいってるからなと言った。


ただ、アダンもわかっているはずだ。

こう言ったことは長期的に経過観察して、問題点を洗い出していかないといけない。


だから俺たちも、上手く行かないことがあれば、それをどう乗り越えるのか2人で決めていく必要がある。


ま、今回のプロジェクトはあくまで最適の提案までだ。なので提案後の過程や結果は今後の課題というか、新規テーマになると思う。


ただ、プライベートなこととは言え、2人の出会いが俺のプロジェクトの実証がきっかけであることは、意識しないといけないと思う。


でも、本当はそんなことを考えずに、純粋にアダンとの交際を楽しみたい。仕事抜きに。



「はぁ、終わった…」


夜9時頃、資料が完成して一息ついた。

家に仕事を持ち込むのは原則ないが、今回は特別だ。


でも、せっかくの日曜の午後が潰れてちょっと残念だな。アダンともう少し過ごしたかった。


俺はコーヒーを淹れてソファに腰掛けた。

そして、帰り際のことを思い出していた。



数時間前までソファに腰掛けて微笑んでいた可愛い俺の恋人は、帰り際に優しくキスをしてくれた。


少し背伸びをして慣れないキスをする、そのぎこちない姿がとても愛おしく、俺は舌を絡めてしばらく恋人との濃厚なキスを楽しんだ。


はぁ…と色っぽい吐息をしてアダンは言った。


「椎名のキスは大人のキスだな。息つぎのタイミングが分からないよ」


俺は思わず笑って、小ぶりな鼻をツンと触った。


「ここで息をするんだよ。鼻呼吸」


アダンは可愛い目をクルンとして、なるほどと頷いた。


「それは合理的だな。しっかりと鼻呼吸することは、ホメオスタシスを向上させて粘膜を保護し、良質な空気を肺に送り込むんだ。自律神経の安定と健康を維持する秘訣なんだよ。そっか、だからキスすると気持ちいいのか」


俺は大笑いした。

医学的にはそうかもだけど、違うだろ。


医学的に解釈するキスすら初心の恋人が愛おしく、俺は思わずぎゅっと抱きしめた。


そして、くすぐったいと笑うその笑顔にとても癒された。



週末が待ちきれず、早く会いたいと思ってしまう。もう、恋に溺れる歳でもないのに。


帰り際、アダンと週末の約束をした。

その日を楽しみに今週は頑張ろうと心に誓った。



・・・・・



「おはよう、椎名!」


普段と変わらない声色で、エレベーターで偶然鉢合わせしたアダンが声をかけてきた。


週末から少し経った水曜日だ。


そう言えば、お互い忙しくて、2日間も連絡は携帯で簡単に済ませていた。


アダンは俺の仕事の状況を分かっているから、恋人だからと言って、平日の時間を煩わせることをしない。そんなところは自立した大人だと思う。



アダンの横には、見慣れない顔があった。

アダンより少し年上かと思われる、背丈があるメガネをかけた男性だ。


アダンは同じセキュリティ庁からの出向者として、その男性、安西さんを紹介してくれた。安西さんが引き継ぎ担当となるそうだ。


「初めまして、安西です。椎名さんのご活躍は奈木から伺っております。今後、よろしくお願いいたします」


安西さんはセキュリティ庁の固い雰囲気があり、俺を品定めするような圧を感じた。


何だか、今後はやりにくそうだな…



俺はアダンと仕事の件も含め、話をしたくなり、エレベーターを先に降りるときに声をかけた。


「奈木、今日は規約の件て少し話しできるか?後でメールするな」


アダンはわかったと返し、俺たちは一旦それぞれの仕事に戻った。


俺は何となく、安西さんの視線が俺の身体にまとわりついている気がした。

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