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孤児の少女は少年公爵の許嫁となり、武術と魔眼の才能が開花する  作者: ネイン


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第一五話 幸せという感情①

 アメリアさん曰く、ルオが私のことを呼んでいるらしいので案内されるがまま、館の西側三階の中でも一際大きいドアの前に辿り着く。そこには仏頂面のルオがいた。


「ルオ!」


 私は前にいるアメリアさんを抜かしてルオに駆け寄った。


「子供みたいに走りやがって」


 ルオはつんけんとしているけど、本当に機嫌が悪いわけじゃないと思う。その証拠に私が走り寄ったとき、一瞬だけ顔に喜色が現れていた。


 私の目は誤魔化せないぞ!


「なにニヤニヤしてんだ」


「別に~」


 知らず知らずのうちに私の頬が緩んでたらしい。


 どうやらこれから目の前の大きなドアの中に入るらしくて、アメリアさんは廊下で待つことになっていた。


 ドアにはレッド公爵家の紋章――盾の中にライオンが描かれた刻印が刻まれていた。公爵家についての歴史は知らないけど、ライオンの紋章は圧倒的権威と権力の意味を持つ。王家に次ぐ勢力がこんな紋章を掲げたら反乱の意図があると思われそうだ。


「ここルオの部屋?」


「だとしたら廊下に立ってるわけないだろ」


 それもそっか、と返事をしたあと、ルオはドアノブに手を掛ける。


「ここは前公爵の執務室。つまり俺の父親がいる部屋だ、これから挨拶をしてもらうぞ」


 ――――は?


 私は体を反対方向に向けて歩き出す。


「待て待て、どこに行くんだ」


 後ろからルオに腕を掴まれる。


「だって急すぎるよ! こ、心のじゅ、準備が! できてない」


「そんなの必要ないだろ」


「じゃあ逆の立場で考えてみてよ。私が公爵令嬢で、ある日、孤児のルオを許嫁にしました、それでいきなり私の親に挨拶することになります。ほら、緊張するでしょ?」


 ルオは私の言葉に耳を傾けたあと、首をゆっくりと曲げてみせる。


 ……私の気持ちが分からないらしい。鈍感なのか、ズレているのか、それともプレッシャーを感じないのかな。


「もう入るぞ」


 ルオが私の腕を引っ張って無理やり、執務室に連れ込む。


 ドアを開けた瞬間、覚悟を決めるしかないと思い、否応なくルオに従った。


 執務室は館の廊下やエントランスの豪華絢爛な内装と違い、落ち着いた雰囲気の部屋だった。前方にはオフィスデスクとチェアがあって、その奥には窓を眺めている人物――背を向けたルオの父親がいた。


「父上、レイラを連れてきました」


 ルオが敬語使ってる。


 小声でルオって敬語使えたんだと言うと、彼は抗議の目を向けてきて、あろうことか私の耳を軽く引っ張って口パクで黙れと言ってきた。痛くはないが、なんだか癪なので私も耳を引っ張り返した。


 お互いに横目で見合って、耳を引っ張り合っているとルオの父親がこちらに体を向けてきたので、私達は素早く手を引っ込めた。


 ルオの父親は黒髪黒眼でライオンのたてがみのような髪型をしていた。


「初めまして、私はジュード・フェニック・レッド前公爵だ」


「は、初めまして! レイラです」


 眉間に皺を寄せているわけではないのに怖かった。強面だ。


「嫁養女になっていること忘れたのか」


 ルオの指摘でハッとする。


「嫁養女となるレイラ・レッド公女です。宜しくお願いします」


 スカートをつまんで挨拶をすると、ジュードさんはうむ、と言って静かに頷いた。仏頂面だったのでルオと親子なんだということを再認識した。形の上だと父親になる人だから、距離を縮めたい気持ちはあるけど、やっぱり怖いな。

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