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孤児の少女は少年公爵の許嫁となり、武術と魔眼の才能が開花する  作者: ネイン


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第一三話 白亜の城②

 エントランスホール内にいる人々は大騒ぎしていたが、


「騒がしいぞ!」


 ルオの一喝で辺りは静まり返る。可哀想なことに近くにいるアメリアさんがびくついていた。


「失礼なことを言ったやつがいるな。女を漁りに行っただの……カルサだな」


「ひぃ!」


 ルオの人睨みで金髪ツンツン頭の男がたじろぐ。カルサさんはコック服を着ているから料理人かもしれない。


「日頃から、お前の軟派な態度には料理長も困っていると言ってたな。ここで俺が直々に躾けてやろうか」


 顔を見上げるルオ、視線の先、宙には――火の玉が生成されていた。火の玉はどんどん大きくなっていき、激しく燃え盛っていた。


 使用人たちは青ざめた顔でカルサさんの背中を押す。


「おまっ! ばか押すな!」


「閣下に謝れよ! 巻き添えくらうのは俺らなんだぞ」


 カルサさんは嫌々、ルオの前に出る。


「マジで俺にあれをぶつけるつもりですか」


「ああ」


「こっちに来てる!?」

 

 やりすぎ! 本当にあれを当てるつもりなの⁉


「ルオ! いい加減にして!」


 私はカルサさんに迫る火の玉を見たあと、目の奥がヒンヤリとしたのを気にしつつルオの右肩に触れて彼をこっちに向かせる。ルオが口を開こうとすると、異音がエントランスホールに鳴り響く。


 ジュゥゥゥと何かが熱される音――火の玉が氷に包まれていた。


 そして――火と氷は相殺し消えていった。使用人達は思わず口を噤んでいるといった様子だ。


「魔眼の力を使ったな」


 ルオの言う通り、私が火に氷をぶつけたんだ。目の奥が冷たかったから、きっとそうだ。


「無意識だけどあの火を止めようとした――じゃなくて、やり過ぎだよルオ、いつもあんな風に仕えてくれてる人に火をぶつけてるの?」


「ただの脅しだ。本当にぶつけるつもりはない、使用人どもを傷付けたことはない」


 本当かな? ほっとしたカルサさんを横目にアメリアさんに真偽を尋ねる。


「ほ、本当ですよ……」


「言わされた感あるんだけど」


 ルオに疑いの眼差しを向けてみた。


「信じないなら別にいいが」


「そうは言ってないでしょ」


 辺りを見渡すとまた、私に視線が集まっていた。


「レイラ夫人、今のはなんでしょうか」


 マリアさんが話しかけてくる。


 というか、また夫人って言われた! まだけ、け、結婚してないのに。やめてほしいけど、初対面の人にそんなこと言うのも億劫だ。


「え、えっと今のは私の魔眼の力みたいです。あんまり自分でも把握はできてないんですが……」


 マリアさんはまぁ! と驚くと再び、周囲の人々が騒然とする。


「レイラは氷結魔眼の持ち主だ」


 ルオの言葉で騒がしかった人々は息を呑んだ後――


「あの伝説の……?」


「初代王妃と同じ目を持っているのか」


「これはとんでもないことだぞ……」


「だから許嫁にしたのか」


 ――静かに囁き合っていた。


 この目は氷結魔眼って言うんだ。


 私は閉じた右目を右手で覆う。


 なんでこの目を持って生まれたんだろう。それに皆が勝手に何か納得しているし、よっぽど特殊な魔眼なのかもしれない。


「マリア、レイラに部屋を与えてくれ」


「かしこまりました」


「では、レイラ夫人、わたくしに付いてきてください」


 はいっと返事をし、私はマリアさんに付いて行く。


 真向かいにある階段を上る、踊り場に辿り着くと、左右に分かれた階段があった。


 右の階段を上りつつ、壁に目を向けると、平民が一生稼いだお金でも買えなさそうな絵が幾つも飾ってあった。


 これ全部、ルオのものってことだよね。


 平民どころか戸籍が不明瞭な孤児だった私からすれば、理解ができないお金の掛け方だ、と思うと同時に本当に貴族の世界に来たんだと実感した。

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