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アリエス一行の調査

―― シャペル村近くの森の中 ――



 シャペル村近くの森の中。


 月のない闇夜に、

 焚火の炎がゆらゆらと踊っている。


「ほ、本当に…、こんな森の中で野営をして、

 よろしかったのでしょうか?」


 王家親衛隊”ヴァーミリオン”隊長アリエス・フィレリア及び、

 親衛隊副官カイル・ラドニックに同行した、

 レイクロッサ基地所属ルカ・ミトイ少尉は、

 現在のこの状況を、

 どうしてもアリエス本人に確認せずにはいられなかった。


挿絵(By みてみん)


「構わん、気にするな。」


 アリエスは軽くあぶった鹿の干し肉をかじりながら、

 ルカの杞憂にそっけなく答えた。


 気にするなと言われても…

 ルカの脳裏に、


『君が殿下に粗相をしたら、

 基地全体の責任となるのだ、

 そのことしかと肝に命じておけ。』


 基地司令官に出発時かけられた、言葉がよぎる。


 ルカは朝から生きた心地がしなかった。


 二人のやりとりを聞いていた、

 王家親衛隊・副官カイルは、 

 

「貴重な時間を失いたくなかったのです、

 それに、殿下は住み慣れた王宮にいるよりも、

 存外このような野宿がお好きなのですよ。」


 余計な一言を添えて、

 ガチガチに緊張するルカを気遣った。


「いちいちそんな事を…、

 わざわざ言わんでもいいだろう。」


 アリエスは干し肉を嚙みちぎりながら文句を言った。


「何か事件の手がかりが見つかればよかったのですが…。」


 ルカは調査の成果が芳しくなかったことを、

 二人に詫び、ひたすらに頭を下げた。


 そんなルカに対し、カイルは、

 ちょうどよく焼けた携帯食のパンを、

 ルカへ食べるよう促しながら、 


「あなたが気にする必要はありません。」


 優しい言葉をかけた。


 アリエス、カイル、ルカの三人は、

 サンダースの足取りに沿ってシャペル村を訪れた後、

 その足で村外れにある森へ入り、

 そのまま野営をすることにした。

 

 目的は、襲撃事件に関わる、

 少年リゼル・ティターニアが、

 王国軍少佐グレン・グレアムと接触後、

 グレアム機に搭乗したと証言した、

 その場所を実際に調べることであった。


 しかし、リゼル・ティターニア事件から、

 時間が経過していたこともあり、

 現場には何の痕跡も残されていなかった。


 現地の案内役としてアリエスに同行した

 ルカ少尉の希望により、

 前回の出撃で行方不明となっている

 上官グレアムの手がかりも一緒に調べたが、

 こちらの痕跡も見つけることが出来なかった。



 三人の会話は、

 昼間訪れたオムル・ティターニアへと移った。


「あの老人から、有益な話はほとんど聞き出せなかったな…。」


 アリエスは冷静な口調で昼間の面会を振り返った。


 すぐさま、カイルがアリエスの話を捕捉する。

 

「わかった事は、

 老人がベルディア公の元同僚で、

 重罪の容疑がかけられていた少年の助命を、

 将軍に働きかけていた、これぐらいです。」


 3人は目の前で大きく揺らぐ炎を静かに見つめた。


 時おり吹く強い風が森全体を揺らした。



 三人がオムルの自宅を訪れたときも、

 オムルが庭で何かを燃やしていたのであろう、

 燃え盛る炎が3人を出迎えた。



 アリエスは炎を見つめながら、


「サンダースは本当にそれだけのために、

 あの老人の元を訪れたのだろうか…。」


 気になっていた疑問を口に出した。


「話は隻眼の少年の事と、

 昔話を少しだけ、とのことでした。」


「………。」


 ルカは二人の話を黙って聞いた。


「身分を隠し、

 隠密に行動するべきだったか…。」


 アリエスは自分に問いかけるようにつぶやいた。


「………。」


 カイルは何も答えなかった。


 重い空気が二人の間に流れ始めた。


「こ、このような小さな集落ですと、

 めったによそから尋ねてくる者は、

 いないと思われます。」


 沈黙を破ったのは、

 それまで黙って話を聞いていたルカだった。


「ですから、それはそれで…、

 警戒されたのではないでしょうか。

 そもそも、私は村を何度か訪れていて、

 顔も知られてますし…隠密行動というわけには…。」


 ルカの精一杯のフォローに、

 アリエスとカイルは、

 お互い顔を見合わせ、思わず噴き出してしまった。


 ルカの発言もあって、

 沈みかけていた話が前へ進んだ。


 次の話題は野営をしているこの森についてだった。


「村の者の話では、よほどのことがない限り、

 森には立ち入らぬ、とのことであったな。」


 アリエスがルカに尋ねた。


「はい、そう聞いております。」


 カイルも、


「その件について、

 村人たちから、

 あまり詳しく聞きとりをしませんでしたが、

 何か理由があるのですか。」


 このことに興味を持っている様子だった。


「私は村出身者ではないので、

 詳しいことはわかりませんが…。

 おそらくこの森が、

 ダントンに続いているからだと思います。」


「ダントンか…。」


 すぐさまアリエスが反応した。


「何だったかの…古の…何とやら…、

 と聞いたことがある。」


 カイルは、


「確か…遥か昔に栄えたと伝わる、

 伝説の森林都市ですか…。」


 自身の知識を確かめるように話した。

 

「ルカ少尉、村の出身ではないとの事ですが、

 出身はどちらでしょうか?」


「ザヒードです。」


「王国南部…、首長連合の一つ、

 砂漠にあるオアシスの街…でしたか。」


「はい!」


 ルカは自分に関心を示し、

 なおかつ博識のカイルに目を輝かせた。


「おい、何か気配を感じぬか。」


 ルカとカイル、二人のやり取りに、アリエスが水を差した。


 カイルは内心、

 ルカの自分に対する態度を見た、

 アリエスの焼きもちかと思ったが、

 感覚を研ぎ澄ますと、

 実際に周囲からかすかな物音がしている。


 3人は話を止め、

 警戒態勢に入った。


 森の暗闇の中から、 

 アリエスたちの周囲を、

 幾つもの怪しい小さな光りが取り囲んでいた。



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