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アルレオン2日目2

――王国東部・第4王国軍レイクロッサ前線基地――


 よく晴れた朝のレイクロッサ基地に、

 ライデンシャフトの爆音が鳴り響いた。


 まず、サンダース機サーベラスが、

 レイクロッサ基地・大型発着路を、

 飛び立った。


 そして、サーベラスと入れ替わるようにして、

 2機のライデンシャフトが、

 レイクロッサ基地・大型発着路へ降り立った。



 降り立った2機のライデンシャフトの肩口には、

 親衛隊ヴァーミリオンの隊章が記されている。


 2機のライデンシャフトのコックピットハッチが

 それぞれ開くと、中から現れたのは、

 親衛隊隊長アリエス・フィレリアと、

 副官カイル・ラドニックだった。

 

 アリエスは機体から降りるや、

 レイクロッサ基地の出迎えスタッフを見つけると、


「先ほど飛び立った機体は、

 サーベラスで間違いないか?」


 すぐさまサンダースの事を尋ねた。


「は、はい、ベルディア公のサーベラスで間違いありません。」


「くっ!

 間に合わなかったか。」


 アリエスは唇を噛んだ。


「どこへ向かわれた?」


 悔しさを隠さないアリエスの後方から、

 ラドニックが冷静に質問を重ねる。


「アルレオン、とのことであります。」


 答えたのは、

 少し離れた場所にいた

 レイクロッサ基地・司令官の男性将校だった。


「レイクロッサ基地司令、

 ダミアス・ルボイ大佐であります。」


 男はアリエスに近づくと、

 片膝をつき、仰々しい挨拶で、

 親衛隊隊長を出迎えた。


 それに対しアリエスは、


「ヴァーミリオンのアリエスだ。」


 握手の手も差し出さず、

 あまりにも素っ気ないあいさつで返した。


「サンダースのこの地での足取りが知りたい。」


 アリエスはありきたりな社交辞令を述べることなく、

 いきなり本題に入った。


 その様子に少し戸惑いを見せる司令官ルボイ、


「まずは、応接の間で、

 少しお休みになっては……?」

「いらん!」


 アリエスは司令官の話の途中で、

 はっきりと食い気味にその提案を拒んだ。


 そして、先ほどよりも明らかに強い口調で、


「聞こえたであろう、サンダースの足取りが知りたい!」






――アルレオン軍学校学校・リンドブルムの教室――



 アルレオン軍学校、2日目


 オレが校舎3階にあるリンド・ブルムの教室に入ると、

 教室の後ろ側に人だかりができていた。


<タツヤ何だろう?>


 オレは自分の席に向かいながら、

 人だかりを眺めた。


 取り囲むクラスメイトたちが、

 かしこまっているように見える。


<近くに行ってみようよ。>

(えっ…行くの。)


<いいじゃん別に、

 近くに行くだけなんだから!>


 オレは気が乗らないまま、

 リゼルにせがまれて、

 人だかりへ足を向けた。


「あっ…!」


 見覚えのある人物がオレの視界に入った。


 人だかりの中心にいたのは、

 アルレオン領主、

 兼オレのお目付け役ミルファ・ダリオン魔導少佐だった。


「!!!?」


 ミルファもオレに気が付くと、

 取り囲む学生たちをかき分け、

 こっちへ近づいてきた。


 オレはいきなりのことで、

 何て声をかけていいか分からず、


「お、おはようございます。」


 とりあえず無難なあいさつで済ませた。


「おはよう。」


 声をかけられたミルファは、

 驚くそぶりも見せず堂々としている。


 そこへ級長のリコがやってきて、

 ミルファへきちっとした敬礼をした。


「級長のリコ・アフィデリスです。

 ミルファ・ダリオン殿下、

 お会いできて光栄であります。」


「うむ、アルレオン領主として、

 リンド・ブルムの活躍、

 及び、君たちの正規パイロットへの配属、

 期待しておるぞ。」


 ミルファは領主らしい立派な態度で対応する。


(昨日、屋敷の中で見せた態度とは、

 大違いじゃん…。)


<そうだね。>


 オレとリゼルは心の中でほんの少し毒づいた。


 リコが挨拶した後、

 他の生徒たちも挨拶をした。


 そんな中、


「はぁぁあぁぁあ…。」


 オレは、つい大きなあくびをしてしまった。


 それをばっちりミルファに目撃される。


「ティターニア、ちょっといいか。」


 いきなりミルファに呼ばれた。


「は、はい。」


「もしかして寝てないのか?

 教室に入ってきた時から、

 緊張感が感じられないし。

 今も大あくびなんかしちゃって、

 目は真っ赤だし。」


「は…はい。

 やっぱ……わかります。」


 オレの睡眠不足はミルファにもばればれだったみたいだ。


「もう、しょうがないな。

 ま、私も徹夜明けだから、

 人の事言えないけど。」


 そう言うと、ミルファはカバンから小瓶を取り出し、

 それをオレに手渡した。


「これは?」


「ミルファ様特製栄養ドリンク!!」


「特製…栄養ドリンク…?

 あぁ!レッ〇ブル的なやつ。」


「レッ〇ブル??」


「えっ、あ、その、なんでもないです」


「それ、ボクのお手製だから。」


(あの不気味な部屋で作ったのか…。)


 イヤな予感がオレの頭をよぎる。


「いや、それはちょっと遠慮しておき…。」


「アルレオン現当主からパイロット候補生へ、

 特別なプレゼント。」


 ミルファはオレの意思を無視して、

 とびっきりの笑顔を、

 こちらに向ける。


 手に握られた小瓶は、

 しっかりとオレへ向けられている。


(くっそー、何が特別なプレゼントだよ…、

 ほとんど強制じゃん…パワハラだ…。

 かわいい顔して……、中身は鬼だ!)


 周囲の生徒たちは、


「…領主様と…普通に話してるぜ…。」

「…あの転入生…領主様と知り合いなのか…。」

「…あいつ何者なんだよ…。」


 オレとミルファのやり取りに、

 驚いている。


<タツヤ受け取ったら。>

 

 リゼルまでもそういう始末。


「は…はい、いただきます。」


 オレはしょうがなく小瓶を受け取った。


 そして、小瓶をじっと見つめる


<ねぇタツヤ…なんかすごい色してるよ…。>


(……うん。)


 小瓶の中身は黒くドロドロした液体だ。


 みんなの視線がオレに集まっている。


 オレがこの液体を飲むのを待っている様子だ。


 オレはコルク栓を外し、

 思い切って一気に飲んだ。


ゴクリ!!


「うっ………!!

 うっげ~~~っ!!」

 

 想像を遥かに超えた、

 苦み、酸味、辛味がオレの脳天を突き抜けた。


「まっ、まっず―――――っ!!」


 オレは吐き出すのをこらえ、

 何とか謎の液体を飲み込んだ。


「そっかそっか、

 味は、改良の必要ありだな。」


 ミルファを見ると、

 懸命に笑いをこらえている。


 他の生徒達は今にも吹き出しそうだった。


 そんな中、昨日ランチを一緒に食べた三人組の一人、

 フルム・カンタルが、


「ティターニア君、

 領主様とお知り合いなんでありますか?」


 驚いた顔でオレへ尋ねた。


「え、あ、はい。

 知り合いってほどではないんですけど…。」


 オレはこの状況に戸惑いながら答えた。


 どうやら、ミルファはオレとの関係(軍の保護観察官)を、

 クラスメイト達には伏せているようだった。


 今度はサーヤが、


「じゃあ、昨日言ってた《ベルディア公》の推薦っていうのも…。」


 あらためて聞いてくる。


「はぁ、はい、ホント…です。」


 オレの答えに、

 他のクラスメイトたちの顔に浮かんでいた、

 嘲笑が消えた。 


 





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