領主様のお屋敷
――夕方・パイロット候補生男子寮――
オレとデイニーが寮に着くと、
寮の部屋にはオレの保護観察官(お目付け役)で、
この街の領主である魔導少尉”ミルファ・ダリオン”、
彼女のペット翼猫がオレたちの帰りを待っていた。
寮の部屋で顔を合せたミルファとデイニー、
「自分は、パイロット候補生3回生、
デイニー・バッケンハイムであります。」
「えー、ボクは魔導少佐ミルファ・ダリオン。」
二人は自己紹介を兼ねた簡単なあいさつを済ませる。
その間、オレは、
先に部屋へ届けられた荷物の山に目を向ける。
リゼルの行方が気になっていたからだ。
その時だった、
「探し物はこれかな。」
ミルファは背に隠していた日記を大げさに取り出す。
「あ”―――っ!!」
(な、なんで日記が…!!)
オレはまずい予感がして、
「か、返して―――!!!」
ミルファの持つ日記に飛び掛かった。
ニ”ャ――――!!!!
その瞬間、ミルファのそばにいた翼猫が、
オレに飛びつき、オレの顔を鋭い爪でひっかいた。
「痛い痛い痛い!!!!」
オレはたまらず悲鳴をあげ、
激しく尻もちをつく。
「いててててて。」
「お、おい、ティターニア大丈夫か?」
倒れたオレにデイニーが優しく手を差しだしてくれた。
オレはデイニーの手をにぎり、自分の身体を起こした。
ミルファはそんなオレに呆れながら話しを続ける。
「まったくもう、何やってんの、
後の話はボクの屋敷でしようか、
じゃ、行くよ。」
そう言うと、ミルファはさっさっと部屋を出ていった。
その時のミルファは、
昼間会った時と雰囲気が違った。
オレもミルファを追いかけ外へ出た。
(はぁ、今度は何だろ…、
やっぱり日記が関係してるんだよな…。)
外へ出ると、ミルファは寮の脇に止めてある、
”車のような物”に乗り込んだ。
「うわっ!!く、車!!」
オレはこの世界の”車”に驚いた。
「早く乗って。」
そんなことにはお構いなしのミルファ。
「は、はい。」
(す、すげっー、クラシックカーみたい。)
オレはこっちの世界の車に興奮する。
(さ、さすが領主様。)
「ふーん、やっぱり魔導モービルって珍しいんだ?」
ミルファはつぶやく。
「え、あ、この車、魔導モービルっていうんですか。」
「さぁ、乗ったらしっかりつかまっててよ。」
ブオオオオオン!!!
オレが乗った途端に、
魔導モービルはものすごい勢いで走り出した。
「う、うわー!!」
オレは吹き飛ばされないよう、
助手席のシートを必死につかむ。
ミルファはさらに飛ばす。
「あっ!あぶないっ!!」
ギュオオオオン!!!
魔導モービルは民家の壁や、
生け垣スレスレを猛スピードで通過する。
(………。)
オレは生きた心地がしなかった。
「うっ…。」
(や、やばい…、気持ち悪くなってきた…。)
オレは、ミルファの無謀な運転に吐き気をもよおす。
「ちょ、ちょっと、車の中で吐かないでよ!!」
「……ダメ…かも…。」
「うそでしょ!!もう着くから!!」
最悪な気分の中、オレはチラッと前方を見る、
前方には湖、もしくは大きな池が広がり、
その中に城のようなバカでかい屋敷が見えてくる。
(で、でけー…屋敷…。)
ブオオオオオオ!!!
ミルファはさらにスピードをあげ、
魔導モービルは長い橋を渡る。
そして、猛スピードのまま屋敷へ突っ込んだ。
キキキキ―――――ィ!!!
屋敷の入り口で魔導モービルは止まった。
「さ、着いたよ、
降りて。」
「つ、着いた…んだ…。」
オレはふらふらの足取りで車を降りると、
オ¥×$オロ+ロ×〇ロ~~~
そのまま車の陰でリバースした。
「あっ…ちゃ~……。」
ミルファは額に手をあて、横目でオレをちらりと見ていた。
そこへ、
「ミルファ様、お帰りなさいませ。」
何人もの使用人がミルファの帰りを出迎えた。
「ミルファ様、もう少し運転は安全にと…。」
「はいはい、気を付けます気を付けます。」
中年の執事の小言を、
ミルファは適当な返事であしらう。
「誰でもいいから、あれの後片付けよろしくね。」
ミルファはオレを指さす。
「かしこまりました。」
(た…耐えられなかった~。)
落ち込むオレの元に、
使用人がタオルや水の入ったグラスを持ってやってくる。
「ありがとうございます。」
オレは頭を下げた。
それから口をゆすぎ、タオルで口元を拭いた。
オレの後始末が済むと、オレは巨大な屋敷へ通された。
屋敷の中にも使用人が待ち構えている。
「ミルファ様、お食事はいかがいたしましょう?」
「軽食を2人分、僕の書斎へ運ばせて。」
「かしこまりました。」
(領主って…すげー…。)
オレはあらためて領主という身分のスゴさを、
思い知らされた。
屋敷の中を歩いていると、
柱や天井、いたるところに
金銀銅の豪華な装飾がほどこされてて、
立派なヒゲのオッサンの絵が壁に何枚もかけられてる。
(ここでもヒゲか…。
まったく、ここはヒゲの異世界だな。)
オレはヒゲを見ながら、
ミルファの後をついて行く。
そして、とある部屋へ通された。
―――――ミルファ邸・執務室―――――
その部屋は屋敷内部とちがい地味な作りで、
何かの実験器具やガラス管に入った動物の標本、
さまざまな植物の鉢植え、
たくさんの本が散らばっている。
部屋に入ると、ミルファが口を開いた。
「さぁ、ここでなら遠慮なく話せるよ。
”全部”話してもらおうか。」
まっすぐオレを見つめるミルファ。
「え、えーと。」
(全…部…って…。)
オレはいきなりの展開に、頭が真っ白になった。
オレが困り果てていると、ミルファが話し始める。
「キミが……。」
――――回想・寄宿舎――――
話は数時間前にさかのぼる。
リゼル・ティターニアの荷物をチェックしに、
パイロット候補生男子寮へやってきたミルファ。
ミルファはリゼルティターニアの荷物の中から、
一冊の古い本を手に取った。
「ちょ、ちょっと何これ!!」
ミルファは手に取った本のような書物から、
強い魔力を感じとる。
「これって…。」
その時だった。
<こんにちは!!>
「わーっ!?
こ、こんにちは。」
(って、違う違う!!)
「ちょ、ちょっと、
なに普通にあいさつしてんの!?」
<あのー、お姉さん、
僕のこと、わかるんですか?>
ミルファの意識に直接語り掛けるリゼル。
「わ、わかるから、驚いてんだけど、
キミ、誰なの?」
<僕ですか…。
僕はリゼル・ティターニアといいます。>
「リゼル・ティターニア!?」
<はい、リゼル・ティターニアです。>
「………」
固まるミルファ。
少しすると、
「…はは、…あはははは!!
ちょー面白いんだけど!!!」
<あのー、僕おかしなこと言いましたか?>
「くっくっくっくっ。」
<あのー、お姉さん…。>
「ごめんごめん、
ボクはミルファ。
ミルファ・ダリオン。」
<ミルファさん…。>
「やった――!!
この任務、引き受けたかいがあったー!!」
ミルファは興奮し、
本を掲げたり、顔元に近づけたりしている。
(得体の知れないパイロット候補の
隻眼の少年。
その少年の部屋にある古い本には、
とてつもない魔力が込められてて、
しかも、驚くことにその本には人の意思がある。
その名前が本人と同じリゼル・ティターニアだって!!)
<……はい。>
「!?」
(そういえばキミ、
さっきから、
僕の意識に直接話しかけてる!?)
<……はい。>
(そうだよね、
じゃないと会話が成立しないもんな。)
「あははは、こいつは傑作だ!!」
ミルファは再び高らかに笑う。
<………>
「ん~、このボク(ミルファ・ダリオン様)を驚かせるとは、
キミ、なかなかやるね。」
<???>
「ちょっとー、ミルファ様がホメてるんだ、
もっと喜びなよ。」
<や、やったー…、
………、
こんな感じですか?>
「………」
<………>
「ゴホン!!
今のはこの寛大な若きアルレオン領主ミルファ様に免じて、
忘れてあげよう。」
<は、はぁ…>
「ところで、リゼル・ティターニア君。」
<リゼルでいいよ。>
「わかった。
じゃ、リゼル、
あらためて聞く、君はいったい何者なの?」
―――――ミルファ邸・執務室―――――
動揺するオレにミルファから発せられたのは、
「と、まぁ、その本の”リゼル君”と話をしたってわけ。
なので、キミからも直接話を聞こうかな、
ヒ・ビ・ノ・タ・ツ・ヤくん!!」
オレ、ピンチです…!




