隻眼の少年2
<ちょっと待ってよ!!>
「な、な、なんだ、なんだ!?」
(ど、どこから声が聞こえるんだ!?)
オレは周囲を見渡すが、誰もいないし、気配もない。
(い、いったい、どうなってんだ!?)
<いきなり何すんのさ!!僕の体に!!
腕に万年筆を突き刺そうなんて、
”おじさん”おかしいよ!!>
「うわあああああ!!!!」
”声”はオレの頭の中から聞こえていた!
※今後 主人公たちの頭の中での会話は
(主人公のセリフ)<少年のセリフ>
カッコの違いで表現されます。
(な、何なんだ、この声は…?
聞き覚えのある声だけど…。)
オレはパ二くりながら考える。
ピコン!!!!!
(そうか─── どうやらオレは、
<幽体干渉>というスキルを身につけたらしい。)
このスキルは幽体(幽霊)や霊体と会話することができる。
しかし、残念ながらその姿を見ることはできない。
(そうかそうか…、
そういうことか。)
オレは一人で納得する。
<だからさー、そのスキルって何?
幽体干渉?
あのね、僕は幽霊じゃないし、
精霊でもないから、
ねー!人の話聞いてる!?>
< ”ヒビノタツヤ!!”>
オレは自分の名を聞いて動揺する。
(な、なんで、
なんでオレの思考を読み取れるんだ…!?、
あ──────っ!!
<思考走査>スキルの持ち主か。
しかし、だとしても、
いきなり人を呼び捨てとは、
いかがなもんかな!)
<あのさ…、
さっきから何言ってんの。>
(え、な、何って…。)
<君って、かなりおかしな人なんだね。
僕は、”リゼル・ティター二ア”、
この体の持ち主、
って言えばわかってもらえる?>
「??」
<だから、この体の持ち主だって!ヒビノ・タツヤ>
(あ、そういえば…さっき、ぼくの体って…、
それに、どういう訳かオレの名前知っているし、
また呼び捨てだけど。
なるほど、そういうことか!?)
意識の共有───
どういう理論かわからないが、
オレが死んで転生した時、
この少年の体の中に意識が
入り込んだということのようだ。
(そうか、この声は…、
あの暗闇の中で聞いた声だ。)
<はぁ…、ようやくわかってくれた。
はじめまして、ヒビノタツヤ。>
<さっきから”異世界転生”
って何度も言ってるよね、
君は異世界の人なの?。>
「リ、リゼル君、きみ頭いいね、
っていうか、もっと驚かないの。」
オレは出来る限り、
平静を装って答えた。
<驚いたよ!だってさ、ぼくの体のはずなのに、
ぼくの体じゃなくなっちゃったんだよ!!>
「そ、そうだよね、驚くよね、
いきなり自分の体に別人が入ってきたんだから。」
(と、とにかく異世界人を知っている。
ということは、オレの他にも異世界人が存在するということか。)
オレはとりあえず基本的な質問をぶつけてみる。
「あ、あのさ、ここなんて世界なの?
場所というか、時代とかさ?」
<ねえ、早く体返してよ!!>
「え!?
か、返してって…、いきなり言われても…。」
<とにかく、この体はボクの体なんだよ。
ずいぶん変わっちゃったけど…。>
「え、あ、はい…。」
(こ、困ったなぁ、返してって言われても、
どうやって返せばいいかわかんないし…。
異世界転生モノのはずなのに、
転生した体をいきなり返せって…、
それじゃオレはどうすりゃいいんだよ…。)
<…はぁ、そっか…、
ヒビノタツヤも、僕が元の身体に戻る方法、
知ってるわけじゃないんだよね…。>
「う、うん。」
(それって、返した後、オレはどうなるの…?)
二人の間に気まずい沈黙が出来る。
「……………」
<……………>
その空気を破ったのはリゼルだった。
<少しの間だけだよ…。>
「え……?」
<身体、貸してあげる。>
「貸して…あげる!?」
<そう、貸してあげる。
ホントは嫌だけど…、だからちゃんと返してよ。
あと、できたら前の元気な身体に戻してね。>
「う、そんな大事な約束…、
そう簡単には…。」
<タツヤの意見なんて関係ないよ、
ボクの体なんだから、
ちゃんと返してよね。>
「は、はい。」
オレ、少年の勢いに負ける。
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リゼル・ティターニア(オリジナル) 12歳