魔法少女はロボットがお好き!?1
────アルレオン・ライデンシャフト広場────
王都を出発し、
アルレオン軍学校に到着したオレ。
学校について早々、
オレはアルレオンの領主から、
呼び出しを受ける。
オレは待ち合わせの広場へ向かう道中、
一緒だった軍学校の大人たちとはぐれ、
一人で広場へやってきた。
広場にはまだ軍学校の人たちの姿は無く、
オレが広場に置かれたライデンシャフトを見ていると、
すぐそばから機体を解説する女の子の声が聞こえてきた。
女の子と至近距離で見つめ合うオレ。
「…!?」「…!?」
(………………。)
オレの緊張は一気に最頂点へ達し、
頭は真っ白、思考停止、どういうわけか、
ものすごくぎこちない不気味な笑顔を作ってしまう。
「…は…は…、
…ははっ…は…。」
女の子は、
不自然極まりないオレとは正反対に、
ニッコリ!!
ステキな笑顔を返してくれた。
(う、うわ―っ……!
この子……、
ちょ、超可愛い────────!!)
オレの隣でライデンシャフトの解説をしてくている女の子は、
”オレ史上最高の超ド級の美少女”だった。
限りなく女性免疫がゼロに近いオレにとって、
いきなり訪れたこの幸運な状況は、
テンパるには十分すぎた。
(ど、ど、ど、どうしよう…。)
オレはどうにか平静さを取り戻そうと、
いったん美少女との間に十分な距離を取る。
しかし、美少女はすぐさまその距離を縮めてくる。
(ちょっ、ちょっ、ちょっととこれは!!
ラ、ライデンシャフトどころじゃない!!)
オレの心拍数は跳ね上がった。
(お、お…、お…落ち着けオレ、
オレ…落ち着け。)
オレは呼吸もままならない中、
横目で女の子を観察する。
(か、顔はすごく小っちゃくて、
ぱっちりした大きな目!!
鼻筋も通ってるし、
それから、つやつやの髪(薄緑)、
その髪は長くて腰まである。
うわ…足めっちゃ細っ!
スタイルも抜群!!
間違いない…、
本物の…美少女だ!!!)
オレはライデンシャフトそっちのけで、
隣の女の子にくぎ付けになる。
(か、かわいいなー……!!
年齢は、おそらく10代か。)
オレはさっきまでのテンパり具合も忘れて、
隣の美少女に夢中になった。
オレはちらちらと横目で、
女の子を見ていると、
あることに気づいた。
(あれ……!?
この娘の着てる服って…。)
どことなく
王国軍の制服のようだった。
(ってことは……、
この女の子も王国軍の人!?)
「ねえねえ、あの機体は知ってる?」
女の子は、オレの妄想など知る由もなく、
マイペースにオレの手を引っ張って、
次の機体のところへ連れていく。
「ちょちょちょっと────!!!」
(あわわわわわ……、
な、なんなんだ、この展開は!!!
オ、オレ、今女の子と手をつないでる…!?)
オレは転生前の記憶をざっとたどる。
最後に女の子と手をつないだのは、
一体いつだったろうか……。
オレの脳裏に、
おぼろげな記憶がよみがえる。
それは遥か昔、
保育園時代の記憶だった。
(せ、切なすぎる……。)
オレが感傷にひたる中、
女の子はオレを次のライデンシャフトの前へ、
案内する。
案内するなり、
女の子はオレの顔をジーっと見つめる。
(こ、今度は何……、
なんなの、この間は…。)
オレは初体験のシチュエーションに、
思考が追い付かない。
とにかく、何をすればいいか分からないので、
オレも女の子を見つめ返す。
(…き、緊張…するな…。)
すると、
「私じゃなくて、
この子(機体)をしっかり見てよ!!」
女の子は少しキレ気味で、
オレの顔を両手で掴み、
ライデンシャフトへ顔を向けさせる。
(し、幸せだ…。)
オレはこの状況に感動すら覚える。
「どう、この子を見た感想は!?」
「か、感想ですか…。」
オレはすぐに現実へ引き戻される。
どうやら、さっきの沈黙は、
このライデンシャフトについての感想を、
求めていたみたいだ。
オレは美少女への最高の回答を見つけるべく、
目の前のライデンシャフトを、
あらためてじっくりと見た。
目の前の機体は、
さっき見た機体に比べ、
相当年季が入っていた。
かなりの部分で塗装は剥がれ、
深い傷がいくつもある。
ぶっちゃけて言えば、
ボロボロに見えた。
そもそも、機体の外観から大きく異なっていて、
さっきのブルージュシリーズにくらべ、
だいぶ武骨な印象を受けた。
オレは見たまんまの感想を、
恐る恐る女の子に告げた。
「おおおおー!!
そうそうそうそう!!!
このボッロボッロのフォルムに、
魅力のすべてが詰まってるってわけ。
この子はMNー1・最初期型メトシェラ。
シンプルなデザインに秘められた渋さ、
カッコ良さの極みだよね――!!」
オレの返答を聞いて、
女の子はとびっきりの笑顔で、
さらにテンションを上げた。
「は、はぁ……。」
(と、とりあえずオレの答えは、
気に入ってもらえたようだ。)
オレはホッと胸をなでおろした。
「何を隠そう、王国軍の応用型ライデンシャフトは、
この”メトシェラ”から始まったのだ。」
「は…始まった…。」
────ここでちょっとした歴史解説────
第二次・聖神機大戦
この大戦は、
量産型ライデンシャフトの開発、実用化に成功した、
帝国軍の王国領侵攻によって、火ぶたが切られた。
”帝国軍量産型ライデンシャフト・ガーランディⅠ”
その実戦投入により、
王国軍は開戦後すぐに窮地に陥ることとなった。
王国軍は、帝国軍から遅れること一か月あまり、
かねてから開発を進めていた、
ライデンシャフト”メトシェラ”の早期投入を決断。
こうしてライデンシャフト”メトシェラ”シリーズは、
王国軍反撃の旗印となっていく。
この機体の存在なくして、
王国軍ライデンシャフトは語れないのである。
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目の前のボロボロになったライデンシャフト、
”メトシェラ”を見上げながら、
女の子は、
「この子の動いてる姿、
一度でいいから、
見てみたかったな…。」
ボソッとつぶやいた。
そして今度は、
黙って機体を見つめ続けた。
「………。」「………。」
何とも言えない沈黙が、
オレと女の子の間に漂った。
(こ、こういう時って、
なに話せばいいんだろ…。)
オレは、突然やってきた未知との遭遇に、
頭を悩ませた。
(何でもいいから、
ホメたほうがいいのかな…。
服装とか髪型とか…、
いやいや、いきなりそんな話はおかしいだろ。
ここはもっと無難に、天気の話とか、
当たり障りのない話題で取り繕って
だけどなぁ、今さら天気の話っていうのも…。
何かもっと気の利いたことを……。)
考えても考えても、
ベストといえる解答は見つからなかった。
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ミルファ・ダリオン魔導少佐




