隻眼の少年1
──────異世界・目覚め──────
────ん…ここは…
暗いな…
ぼんやりとだけど、何か見えてきた…
何だろ……天井かな…
そうか…オレ、…仰向けに寝てるんだ…。
オレは、右手の指を動かしてみた。
動く…。
左手も…動く。
足の指も…動く。
オレ…生きてるのか…。
さっきまでぼんやりしていたオレの視界は、
少しづつ周りの明るさに慣れ、
だいぶハッキリとしてきた…・
今、オレの視界には板張りの天井が映る。
少し、目を動かしてみる。
薄暗い部屋の中に、光が差し込んでいる。
きっとそこには、窓か何かがあるんだろう。
ここは、どこか建物の一室なんだろうか…。
あたりを見渡すと、
オレの周りには、机や、装飾が施されたタンスがある。
どちらも年季が入っている、
きっとアンティークってやつなんだろう。
オレはさらに顔を動かして、
窓の向こう側に目をやる。
窓の外には、広大な畑が広がっている。
舗装されていない農道を、
馬車がゆっくりと通り過ぎてゆく。
そこはのどかな田舎の景色だった。
(ここは…どこだ?
オレは…どうなったんだ…。)
そういや、さっきから口元が生温かい…。
呼吸をする度に、なんか音が聞こえてくるし。
一体なんだろう、
オレは口元に触れてみる。
固くなめらかな感触が指先から伝わる。
それは酸素マスクみたいだ。
(そういや、オレ…車にはねられて…。)
だけど、体のどこにも痛みを感じない。
意識がまだはっきりしない中、
オレは自分の記憶を呼び起こす。
(えーと、オレの名は……、
…日比野達也…。)
30数年、呼ばれ続けていた名前が浮かぶ。
(そうか、記憶はある…。)
オレは続ける。
(思い出せ、オレはあの時…、
信号無視の車に衝突して……。)
(……死ん……だ……。)
「!?」
オレは、頭をふり、
自分の身体に触れてみる。
(あの時オレ、死ななかったのか…。
いや…違う!
そうだ、変な声がしたんだ…!!)
「”異世界転生!!”」
オレは思わず声を出した。
(そうだ!異世界転生だ!!!)
(や、やったー!!
ついにオレにも、異世界転生現象が起こったんだ!)
(思い出したぞ!!
その異世界転生の途中で、
誰かと会話をしたんだ。
あれは神さま…?
それとも…なぞの存在Xとか…?
その後、意識を失って…。)
(───と、とにかく、
今度こそ冴えないぼっち生活とはおさらばだ!!)
これから始まる異世界ライフを想像して、オレは興奮した。
オレは呼吸器をはずし、
ゆっくりとベッドから足をおろす。
(うわっ…。)
オレは思わずよろける。
(この体どうなってんだ。)
寝巻のズボンの上から足を触ってみる。
(ほ、細っえ…、
この体、長い間寝たきりだったのだろうか…?)
オレは、おぼつかない足取りで部屋の中を見回ってみる。
板張りの部屋に、
タンスや机、古い家具が置かれている。
机の上に小さな鏡があった。
(ど、どんな…姿なんだろ…。)、
オレは机にある鏡を覗き込んだ。
「!!!」
(なんとまあ、可愛らしい…。)
つやつやの金髪に、
透けるような白い肌、
瞳はぱっちり、色彩はルビーのようだった。
オレは異世界の少年になっていた。
(年齢は11、12歳ぐらい…かな。)
(ただ、これは…。)
オレは鏡越しに顔の左側を凝視する。
頭部から左目にかけて包帯が巻かれている。
(…痛そうだなー。
これがオレの新しい体か…。)
オレは包帯がまいてある部分をさわってみた。
痛みはなかった。
オレは、恐る恐る包帯を外す───
「…マジかよ。」
…そこに、左目は見当たらなかった。
火傷あとの目立つ皮膚が、
左目のあった所をふさいでいる。
「あわわ、見てらんね───!」
オレは、すぐに包帯を巻きなおす。
最後にオレは、自分の手足をあらためて見る。
水色の寝巻から出た手足は、
驚くほど細かった。
(ブロンドに、きゃしゃな体、隻眼…。)
新しい体を確認し終わると、
オレはもう一度ベッドで横になる。
(はぁ、次は…、何をしようか。
ま、自分の体もわかったことだし、
とりあえず、ゴロゴロするか。)
オレはベッドで横になったまま、
妄想をふくらませてゆく。
(この姿から想像すると、
村人無双モノは難しいよな。
弱そうだし。
賢者の子孫系は有るかもな。
はたまた 美少女エルフと異世界スローライフもの。
まさか、異世界ハーレム物…、
そ、それはまずいな…どう見たって、
まだ未成年だし。)
妄想は止まらず、オレはついにやけてしまう。
(よおし、つまらない人生とおさらばしたんだ。
思う存分ゴロゴロしてやる!!)
(あ!!その前にスキル(特殊技術)の
確認だけはしておくか。
スキル次第で異世界でのオレの生活が決まるんだから。)
(確認してから、ゴロゴロするか!!)
(えーと、転生時の状況から察すると、
いろんなスキルを獲得してるはずだよな。
その中に、あらゆる攻撃に対する耐性
ってのがあったな。)
オレはあらためて、新しい自分の身体を見る。
(うーん、でもな、こんなひ弱な少年だろ。)
オレは、もう一度ベッドから起き上がり、
スキルの確認に使えそうなモノがないか、
部屋の中を探す。
(うーん、都合よくナイフとか、
ハンマーなんて、すぐ見つからないか…。)
オレはゴチャゴチャモノが置いてある、
机に目をやる。
机の上には、古そうな本や、
筆記用具が転がっている。
オレは、その中から、
キレイな装飾が施された万年筆を手にする。
「これでいいか。」
そして、その万年筆を大きく振り上げ、
自分の腕に向かって勢いよく下ろす。
<───てよ!?>
オレは途中で動きを止めた。
(ん?…声が…した?)
幻聴だろうか、オレは気を取り直し、
もう一度万年筆を振り上げる。
<ちょっとおお!!!>
「わ─────────!!!」
(き、気のせいじゃない!?
やっぱり…声が…する。)
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リゼル・ティターニア(日比野達也) 12歳
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