入学なんてしたくない2
そこにはすでに、
大勢の軍服を着たおっさん達が、
横一列に並んでいる。
(うぅぅ……とうとうこの時が……、
……来てしまった……。)
正直オレは逃げ出したくてたまらなかった。
「さ、降りるんだ。ティターニア」
そんなオレの気持ちを、
微塵も知らないアーノルド軍曹。
「あ…は、はい。」
(学校かぁああ……、
しかも軍隊の……。)
オレは最悪の気分だった。
「どうかしたのか?
早く降りるんだ。」
なかなか馬車から降りないオレを、
軍曹は急かす。
(わかってますよ、
わかってますって!
もう…こんな転生生活……、
イヤだ──────!!!)
オレは半ばヤケクソになって
馬車を降りた。
「この少年が……」「おい、本当に隻眼だ……」
「思ったより小さいな…… 本当に16歳なのか…?」
軍服を着たオッサン達のささやきが、
オレの耳に入る。
(はいはい…、
信じられないでしょうね。
オレだって、転生してロボットに乗るなんて、
信じられなかったんだから、
みなさんの気持ちは十分理解できますよ、
しかもこんな少年がね…。)
オレはオッサンたちの好奇の目を、
気づかないふりをしてやり過ごした。
馬車から降りたオレは、
アーノルド軍曹と一緒に、
軍学校のオッサンたちの前に立った。
オッサンたちの前に立つなり、
急にアーノルド軍曹は軍隊式の敬礼をした。
(ちょ、ちょっとお…、
聞いてないよ、
やるなら事前に言っておいてよ。)
仕方なくオレも見よう見まねで敬礼をした。
「中央軍・第11歩兵科連隊所属・軍曹アーノルド・ロンド、
及び中央軍第11騎馬科連隊所属・伍長ビム・ジーン
リゼル・ティターニア操縦士候補生を、
連れてまいりました。」
制服を着たオッサンの中から、
ひと際小柄なオッさんが前に出てきた。
「私は王立アルレオン軍付属軍学校・校長代理を務める、
第六王国軍・中佐・キノム・シモン。
アーノルド軍曹、ビム伍長、
護衛任務ご苦労であった。」
軍曹と小柄なオッサンは互いに挨拶を交わした。
(今度の偉そうな人物はちょび髭だ。)
そして、いつのまにか、
オレたちの横に並んでいたビム伍長が、
若めの制服のオッサンに何やら書類を手渡している。
そのやりとりが済むと、
校長代理がオレに対し、
「君がティターニア君だね。
ようこそオルレアン軍学校へ。」
歓迎の言葉をかけてくれた。
それに対しオレは、
(いや…、ようこそと言われても…、
別に来たかったわけじゃ…、
むしろ、どっちかというと、
来たくなかった…。
いや、ハッキリ言って、
全然来たくなかった!!!)
「よろしくお願いします。」
内心とは裏腹に
めちゃくちゃ無難に答えていた。
オレの気持ちを別にすれば、
オレの軍学校編入の手続きは、
無事行われたようだ。
その後、ちょび髭のオッサンが、
仲間に声をかけると
勢ぞろいしたオッサンたちは、
バラバラになった。
取り残されたオレたちは、
校長代理の秘書官らしき人物から、
堅苦しい通達を受ける。
「ティターニア操縦士候補生、
君はこれより王立アルレオン軍付属軍学校・魔導機兵科3時生として、
正規魔導機兵操縦士を目指し、
厳しい修練に励んでもらう。
早速だが、今日の授業、
途中からではあるが参加したまへ。」
(え……!?
今着いたばっかりなのに、
いきなり授業!?)
「では、一度解散だ。」
オレの心の準備は、
そっちのけのようだ。
(こういうのも嫌なんだよな…、
オレの気持ちも聞かずに、
勝手に予定決めてくるし…。)
呆然と立ち尽くすオレの肩に、
アーノルド軍曹が優しく手をかけてくれる。
「ティターニア候補生、
我らの任務はこれで終了する。
本来なら、ここで君のことを、
アルレオン基地軍関係者の後任へ、
引き継ぐのだが…。」
ビム伍長からも、
「どうやら、後任はまだ来ていないようですね。」
後任の話が出る。
(後任……?)
ビム伍長は続けて、
「一体、アルレオン基地の規律というか、
任務に対する姿勢はどうなってるんだか、
こっちはちゃんとゲートで伝えてるんだけどな。」
不満を口にする。
「あの…、後任というのは、
新しい保護観察官のことですか?」
オレは気になったことを二人にたずねた。
「そうだ。」
軍曹が答えてくれた。、
「これからの生活は、
新しい保護観察官へ、
定時報告をすればよいはずだ。
ある程度の自由も与えられると聞いている。
ただし、城外へは出られんだろうがな。」
「じ、自由ですか…!」
(今、軍曹の口から自由って…
転生してから初めての自由が…、)
オレが自由について喜びに浸っていると、
突然、アーノルド軍曹が身をひるがえした。
「う、うわあっああー!!!?」
いきなりオレの顔面に、
”何か柔らかくて温かいものが”がぶつかった。
オレは顔からそいつを引きはがそうと、
その物体に触れてみる。
感触からして、
それはどうやら生き物らしい。
しかし、その”生き物”は、
なかなかオレの顔から離れない。
オレは、そいつを、
顔から引きはがそうと一人でもがいた。
オレが一人で悪戦苦闘していると、
サッとそいつがオレの顔面から離れた。
「はぁ……はぁ……はぁ……。」
オレの視線の先で、
アーノルド軍曹が、
一匹の猫をつまみ上げている。
(まったく人騒がせな猫だ……、
なんだって人様の顔に…、
って……あれ……猫……だよな!?)
よく見ると、
その猫には翼があった。
『マルティーノ広場へ集合!!
マルティーノ広場へ集合!!』
今度は猫が大声でしゃべった。
(こ、今度はなんだよ急に、
うるさいなぁー!
ていうか、この猫しゃべるの!?)
オレは翼の生えた猫に驚かされ続けた。
突然大音量でしゃべったかと思ったら、
その翼の生えた猫は、
普通に、
「にゃーん」
と鳴いた。
(ど、どうなってんだ
今度は普通に……鳴いた?)
『マルティーノ広場へ集合!!』
よく聞くと、声は猫の首輪から聞こえてきた。
「おおぉー、この翼猫は、
”領主様”の翼猫でございますよ!!」
いつの間にか、さっきの秘書官が現れ、
オレたちへ解説してくれた。
そして続々と、
さっきまでいた面子が再集結した。
ビム伍長がさっきの秘書官へ、
「領主様…?
どうして領主様の翼猫が、
こんな所へ?」
率直な疑問をぶつけた。
伍長の疑問に対して、
ちょび髭の校長代理が口を開く。
「そうか、
君たちへ伝えていなかったか。」
「…………。」
オレたち三人は黙って説明を聞いた。
「君の新しい保護観察官は、
このアルレオンの領主、
”ダリオン家”の現ご当主様なのだよ。」
「……!!!?」
オレたち三人は、
驚きのあまり、
言葉を失った。
校長代理は、驚くオレたちを気にせず、
そのまま続ける。
「ではみなさん、
ご当主様のお出迎えよろしくお願いしますよ!」
その場にいる部下たちへ、
号令をかけた。
校長代理は固まっているオレにも声をかける。
「ティターニア君、
君もぜひ行きたまえ。」
「え…、あ…、はい。
でも授業は……。」
「私の話が聞こえませんでしたか。」
ちょび髭は語気を強めた。
「わ…わかりました。」
オレは素直に従った。
そこへ、
「私たちの役目は終わりましたので、
これにて失礼いたします。」
アーノルド軍曹は、
集まった軍学校関係者へ一礼をし、
ビム伍長とともに馬車へ戻る。
戻り際、ビム伍長はオレの耳元でささやいた。
「ここだけの話…、
現ご当主様ってのは、
相当な変わり者らしいぜ…。」
(えっ……!?
うわ─────ずり─────!!!
オレだけ残して帰るのかよ。
この薄情者―――!!!
もう少し一緒にいてくれたって……。)
オレは恨めしく二人を睨み続けた。
そんなオレを見て、
馬車へ戻ったビム伍長が叫ぶ。
「ティターニア候補生!
幸運を祈る!!」
アーノルド軍曹は無言で、
オレに敬礼を向けた。
(……くっそー……、
二人とも………。)
オレの脳裏に、
王都からここまでの、
冒険の記憶がよみがえった。
(……くっそー…ズルいよ……。)
そして、オレは自分でも驚くほどの声で、
「アーノルド軍曹、ビム伍長、
ありがとうございました!」
王都からオレを命懸けで守ってくれた二人へ、
精一杯の感謝を伝えた。
読んでいただき本当にありがとうございます。
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