特別試験が終わって2
───その日の深夜───
ユサユサ
(…ん…何だ……?)
ユサユサユサ
(…誰かが…オレの身体を、
…ゆすってる!?)
オレはベッドで横になったまま、
アーノルド軍曹の部屋で、
すっかり眠ってしまっていた。
オレは突然の不気味な起こされ方に、
恐怖を感じながら、
ほんの少しだけ目を開ける。
しかし、部屋は真っ暗で何も見えなかった。
ザアアアア ザアアアア…
雨音が部屋に響く。
(…あ、雨が降ってんだ…。)
ユサユサユサ
またゆすられた。
(やっぱりだ…!
間違いなく誰かが、
オレを起こそうとしてる…、
はぁ…きっとまだ夜中だろ、
何この展開!?
嫌な予感しかしない…。)
オレは怖くなって、
寝ているフリを続けた。
すると、
《ティターニア、起きろ!》
今度は、耳元でささやかれた。
(……え……!?
…起きろ…って…、
この声は…。)
聞き覚えのある声だった。
オレは寝ているフリを諦めた。
「軍曹…何すかっ……、
…うっ!!」
オレが声をあげた瞬間、
口元を強くおさえられた。
《しっ!
静かに!!》
軍曹は小声でオレに伝える。
その声にはただならぬ緊迫感があった。
《…は、はい。》
オレも軍曹をまねて、
小声で答えた。
《今からこの部屋を出る。
決して私から放れるなよ!!》
「えっ!?
今から…。」
オレは思わず声をあげてしまい、
再び軍曹に口をおさえられる。
そして、そのまま軍曹の肩に担がれた。
オレを担いだ軍曹は、
玄関へ向かわず、
部屋の隅へ向かった。
《玄関は反対ですけど…。》
オレの問いかけを無視して、
軍曹は進む。
そして、部屋の隅に来ると、
梯子を下った。
(…!?
あの植木の下に、
隠し通路…。)
通路はかなり狭いみたいで、
天井や壁に身体が触れた。
完全な暗闇を、
軍曹は、灯り無しで進んだ。
(なぁリゼル!すごくない?
軍曹、こんな真っ暗の中、
灯りも点けず歩いてるよ。)
オレは無意識にリゼルに話しかけていた。
「あ”─────っ!!」
オレはまたしても声をあげてしまった。
《静かに!!》
すかさず軍曹に注意される。
《ご、ごめんなさい。》
(……やばい……、
リゼルの日記、
…部屋に置いてきちゃった。)
オレは焦った。
《あのぉ…軍曹!!
部屋に日記を忘れちゃったんですけど…、
取りに帰ってもらってもいいですか?》
軍曹の足は一瞬止まりかけたが、
《日記…!?、
ダメだ!!》
そのまま進む。
(あーもう、ほんと融通きかないんだよなぁ!
今取りに帰らないと、
しばらくリゼル無しじゃん…。)
《どうしてもだめですか?》
オレはダメ元でもう一度お願いしてみた。
《ダメだ!!》
軍曹の返答は同じだった。
(……しょうがない、
ここは現実的な対応策を考えるか。)
オレはとりあえず、
《あのー、それでしたら、
これから行くところに、
後日送ってもらってもいいですか?》
無難な方法を提案する。
《……確約は出来ん。》
軍曹はオレの提案に、
なぜか消極的な態度だ。
《…送るだけですよ、
それもダメなんですか?》
オレは無意識に食い下がっていた。
《……送ってやりたいが、
難しいかもしれん。》
(送るのが難しい…、
なんでだよ!送るだけだろ!!
簡単じゃないか!!
この世界の物流はどうなってんだ!!!
待てよ……、
オレ…本も送れないような場所へ連れてかれる!?)
オレがそんな事を考えていると、
焦げ臭いにおいが、
地下通路に漂ってきた。
《軍曹、なんだか焦げ臭くありません…?》
《ああ、私の部屋が燃えている。》
軍曹はさらっと、
とんでもないことを言い放った。
「燃えてる!?」
《今は、余計なことを、
説明している時間はない、
急ぐぞ!!》
軍曹はそう言って、さらに進む。
(に、日記が……、
リゼルが………、
燃えちゃう!?)
軍曹は足取りを速める。
(やばいやばいやばい!
何とかして軍曹を止めないと!!)
オレは意を決して、
軍曹の首にかみついた。
《…………。》
しかし、軍曹はビクともしなかった。
(くっそー!!
なんて筋肉してんだよ!
こういう時ってさ、
不意打ちを食らわせたら
都合よく自由になれるもんだろ!!)
軍曹はさらに進む。
(待てよ…、
噛んでダメなら…。)
”ふっ”
オレは軍曹の耳元に、
優しく息を吹きかけた。
「うっ…うう…!!」
軍曹は奇声をあげながら、
低い天井に思い切り頭をぶつけた。
一瞬オレを掴む軍曹の力が弱まった。
《今だ!!》
オレは軍曹の肩から降りると。
全速力できた道を戻った。
軍曹も追っかけてくるが、
狭い道は小さなオレに有利だった。
出入口の梯子まで来ると、
頭上は赤く燃え盛っている。
(…この中を、
……進む……。)
オレは炎を見てひるんだ。
(逃げちゃダメだ、
逃げちゃダメだ、
…そんなアニメのセリフあったっけ。)
オレは目を閉じて梯子を登った。
登り切ったところで、
オレは目を開いた、
部屋は炎に包まれていた。
オレは必死で火の粉をはらい、
ベッドに近づき、リゼルを探した。
「どこだ、どこだ、どこだ!」
オレが日記を探していると、
「おい、中で何か動いてる!!」「まだ生きてるぞ!!」
外から警護の兵士の声が聞こえた。
(そうだ!助けてもらおう!!!)
オレが助けを呼ぼうとした瞬間、
オレは首をきつくつかまれた。
「うっ……苦しい…。」
追ってきた軍曹だった。
「好都合だ外に出すな!!」「もしもの時は始末して構わん!!」
「中にもう一人います!!」「一緒に始末しろ!!」
兵士たちの声は物騒な内容に変わった。
(ど、どうなってんだよ…。)
軍曹は再びオレを抱え、
猛スピードで梯子を下りた。
(リ、リゼル……ごめん。)
軍曹は、
狭い通路をさっきよりも速く進んだ。
進んでいくと、
「隠し通路です!!」「この先に逃げました!!」
「なんとしても捕まえて始末するのだ!!」
真っ暗な地下通路に、
先ほどの兵士たちの声が響く。
さっきまで外にいた兵士たちが、
隠し通路を見つけ追いかけてきている。
途中、オレは軍曹の肩から降ろされ、
手をつなぎ一緒に走った。
タタタタタタ! タタタタタタ!
足音が暗闇に響いた。
しばらくすると、
ザアアアア ザアアアア
雨音が聞こえてきた。
(出口であってくれよ…。)
オレと軍曹は梯子を登り外に出た。
そこは使われていない古井戸だった。
ザアアアア ザアアアア
外はどしゃ降りの雨だ。
古井戸の周りは厩舎が並んでいて、
ウマの姿が、いたるところにある。
「いたぞー!!!」「動くな!!!」
追っての兵士たちも古井戸から出てきた。
(や、や、やばい!!)
そこへ、
ドシャドシャドシャドシャ!!!
厩舎の間を一台の馬車が、
物凄い勢いでかけてくる。
軍曹はオレを担ぐと、
馬車へ向かって走り出した。
(も、もうちょっと、
優しく扱ってよ─────!!)
軍曹は、
「止まるなビム!
そのまま駆けろ!!
そちらへ飛び乗る!!!」
馬車へ叫んだ、
(マジで!?)
「どりゃ─────!!!」
ドスン!!!
軍曹はオレを抱え、
勢いよく走る馬車へ飛び乗った。
アーノルド軍曹はでかい図体を、
馬車にねじ込むと、
「行先はアルレオンだ!!」
すぐさま馭者へ告げた。
オレは馬車の中から、
炎に包まれる建物を、
ただ黙って見つめた。
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