特別試験が終わって1
───フィレリア王国・王都グレミア・王国軍・中央基地本部───
オレたちの命運が懸けられた最終試験は、
途中から激しい実戦闘へ変わった。
オレたちは必死に戦い、
どうにか敵を倒すことが出来た。
オレたちはその後、
すぐさま試験用演習機から降ろされ、
物々しい警護に囲まれながら、
演習林を後にした。
馬車の中、
(はぁ………リゼル…、
あれって…結局何だったんだろ……、
オレたちの試験どうなるんだろ……?)
<……うーん……、
……試験……、
僕…、あんなの絶対試験じゃないと思う。>
(試験じゃない…ってのは、
オレもそう思うけど…、
あの襲ってきたヤツ、
オレたちって…誰と戦ってたんだろ…?)
<そ、それは………、
……わかんない。>
(はぁ……、わかんないことばっかりだ。)
<はぁ……、わかんないことばっかりだね。>
オレたちを乗せた馬車は、
基地内居住区域の一画へ入った。
そこでオレたちは馬車を下ろされた。
オレたちはアパートのような建物の一階の部屋へ、
連れていかれた。
部屋に入ると、生活感があり、
誰かが使っている部屋なのは間違いなかった。
「ティターニア、今日はここで休め。」
部屋にいたのは、
仏頂面のアーノルド軍曹だ。
「あのー…、この部屋は?」
「ここか、ここは私の部屋だ。」
「ぐ、軍曹の部屋!?」
「気にせず使いたまえ。」
「気にせず…、って…。」
「上からの指示だ。
それから、このカバンに、
下着などの着替えが入っている。」
そう言いながら軍曹は、
オレにカバンを手渡した。
「いつものように、外に警護の者がいる、
用があれば呼びたまえ。」
軍曹は手短に用件を話すと、
すぐに部屋を出ようとした。
オレはその背に向かって、
「あ、あの…!
アーノルド軍曹!
今日の試験!!
あれはいったい…何だったんですか?」
今日起きた戦闘について尋ねたが、
軍曹はオレの質問に答えることなく、
部屋を出た。
軍曹が部屋から出ると、
オレはベッドに腰かけた。
(くっそー、何が起きたのか、
少しぐらい教えてくれたっていいじゃん。)
オレは心の中で不満を吐き出す。
<そうだよ、何があったのか、
ちょっとは説明してほしいよね。
僕たち当事者なんだから!>
リゼルも同じ意見だった。
<それにしても、
なんか軍曹っぽくない部屋だね。>
軍曹の部屋は、
家具やモノがキレイに片付けられてて、
テーブルには黄色い花が生けられていた。
部屋の隅には、
何の植物かわかんないけど、
大きな鉢植えもある。
(確かに、あの軍曹の感じからすると、
もっと武骨な部屋かと思った。)
<それは勝手に決めつけすぎだよ。>
(そうかな。)
<そうだよ!>
オレは、リゼルと頭の中で会話をしながら、
日記をパイロットスーツの中から取り出し、
ベッドへ置いた。
それから、スーツを脱ぎ、
汗だくの下着のまま、
ベッドで横になった。
(はぁ…、もう…疲れた…、
なんでこうも次から次へ、
トラブルが起こるんだよ…。)
オレは寝ころんだまま、
何もする気が起きなかった。
<ちょっとタツヤ!!
シャワーぐらい浴びたら、
そのまま寝てたら、
さすがに軍曹に悪いよ。>
「え~、…面倒くさい。」
<……はぁ、すぐにこれだ。>
オレは、リゼルに呆れられ、
「……わ・か・り・ま・し・た、
浴びればいいんだろ、
シャワー!」
渋々、体をおこし、
シャワー室へ入った。
オレはシャワーを浴びながら、
大きな傷跡の残る、
左のまぶたに触れた。
そして、演習林からの移動中、
リゼルと交わした会話を思い出した。
<ねぇ、今も左目は見えてるの?>
(今、左目が見えてるかって?)
オレは右目を閉じて、
左目の視力を確かめてみる。
(やっぱりダメだ…、
今はまた見えなくなってる。)
<そっか…。>
(そういや、…この左目、
事故で……。)
<あ……、うん。>
(ごめん…、
嫌なこと思い出させちゃった。)
<ううん、気にしないで!
僕が聞いたんだから。>
(…確かに…、戦闘の終盤、
この左目はあの時みたいに、
見えたんだ…。)
<あの時って、
最初にライデンシャフトに乗って戦った時?>
(そう。)
<…うーん…、
タツヤには見えて、僕には見えない…、
いったい僕の身体に、何が起きてるんだろ…?>
(リゼルには見えなかったのか、
左目に映ったアレ?)
<アレ?>
(えーと、見えるようになったとたん、
そこに、照準線が現れたんだ…。
なんていうか敵の軌道、
予測位置がわかるっていうか…。)
<??>
(うーん、なんて説明すればいいんだろ…、
”FCS”、射撃統制システムっていうのかな、
…知ってる?)
<”FCS”?…知らない。>
(ま、まぁそうだよな…。
何でも通じるわけないもんな。)
オレはリゼルにわかるよう、
説明を始める。
(オレのいた世界には、
”FCS”射撃統制システムってのがあって、
まあ簡単に言うと、目標を探知して、
捕捉、追尾、そして未来位置修正角を算定、
それをもとに弾道計算を行い砲撃が行われる、
っていうシステムのこと。)
<すごい!タツヤ詳しい!!>
(ま、まぁ…そういうゲームが好きだから、
自然と覚えただけなんだけど…。
その”FCS”が、
あの時左眼に浮かび上がってきたんだ。)
<撃つポイントの…弾道計算…、
それってもしかして、
初めての操縦で、
タツヤが全弾命中させたのは…?>
(うん、この左目の、
”FCS”射撃統制システムのおかげ。)
<そ…それって…すごい…、
タツヤすごいよ!!
敵機の位置を予測して、
撃てばいいポイントが見えるってことでしょ!!>
(そ、そう、
やっぱこれって、すごいのかな…!?)
<すごいよ!!
すごいに決まってるじゃん!!>
(そ、そうなんだ、あはははは!!)
オレは何だか誇らしかった。
<タツヤ!!
じゃあ僕たちのこの左目は………。>
(左目は………?)
<”FCS-EYE”だ!!!>
オレは汗を洗い流すと、
シャワー室から出て、
軍曹から渡された下着に着替えた。
そして、ベッドに戻ったオレは、
勢いよく大の字で倒れこんだ。
(色々ありすぎて、…マジ疲れた、
まだ昼すぎだけど、
とりあえず…、寝よ。)
オレはそのまま眠りに落ちた。
───王都・王国軍中央本部───
その頃、王都では…。
ジグバ演習林で起きた、
”特別試験襲撃事件”により、
軍施設、及び王宮全域に、
特別厳戒態勢が敷かれていた。
厳戒態勢の王都・王国軍中央本部
真紅の制服を身にまとった男たちが、
中央本部の建物へ入って行く。
その制服は、王国軍のモノとは、
ハッキリ異なっていた。
彼らが身に着けている制服の胸元に、
隊のシンボル”ジグバ葉紀章”が光る。
彼らは、国王直属・王室親衛隊
”ヴァーミリオン”の隊員たちだ。
中央本部にいる王国軍関係者たちに緊張感が走った。
”ヴァーミリオン”の一人は、
本部にいる当直士官たちに向かい、
「これより、ジグバ演習林一帯は、
我々ヴァーミリオンが捜査の指揮権を受け持つ。」
用件を告げると、国王印の入った書類を見せた。
「はっ!!!」
当直士官たちは、
緊張した面持ちで、
返事をした。
親衛隊員はさらに続ける。
「現場は引き続き完全封鎖!
軍関係者であろうとも、
いかなる人物も出入りを禁ずる!!
急ぎ憲兵隊へ通達したまえ。」
「了解しました!!」
お読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価していただき誠にありがとうございます(*'ω'*)




