最終試験2
────ジグバ巨大密林演習場・B区画・及び中央基地本部庁舎内・作戦指令室────
参謀本部・作戦指令室に集まった、
王国軍関係者。
彼らは息をのみ、
最終試験開始の号砲を待った。
このリゼル・ティターニアの試験には、
多くのものが賭けられていた。
あるものは、自身の生死を。
あるものは、組織での出世や保身を。
あるものは、この国の未来を。
ドンッ!!ドンッ!!
定刻、試験開始の号砲がなった。
号砲と同時に、
森に生息する多くの鳥達が、
いっせいに羽ばたき、
動物たちは様々に鳴き声をあげた。
タツヤとリゼルの命運をかけた最終試験が始まった。
(と、とにかく、集中しろ…オレ。)
オレは自分自信に言い聞かせた。
「す─────っ、は─────!」
オレは大きく深呼吸をして、
それから周囲をじっくりと観察した。
(始まったのはいいけど、
相手がどこにいるかわかんないし、
下手に動けないよ…。)
<うん、そうだね、
相手のことは何もわかんないし、
派手に動かないほうがいいよ。>
珍しくリゼルと意見が一致した。
オレたちは、ジグバの巨大密林の中で、
ジッと相手を待ち構えることにした。
─────ジグバ巨大密林演習場・非戦闘区域─────
「…まったく…、引き受けるんじゃなかったかな…。」
”炯眼のマズロー”、
マズロー・シャゴール准将は演習林非戦闘地域を、
一人さまよっていた。
マズローは、自分の背丈ほどある草むらを、
かき分けながら進んだ。
歩くには不向きな草むらで覆いつくされた周囲の環境が、
マズローを愚痴っぽくさせた。
マズローはサンダースとの会話を、思い出した。
─────回想・昨日のサンダース<ベルディア>中将執務室─────
───「マズローよ。おぬしを見込んで、頼みがある。」───
そう言うと、サンダースの表情から先ほどまでの笑みが消えた。
マズローはその変化を見逃さなかった。
───「…なるほど…、相当に面倒な仕事…、ってわけですか。」───
───「ふはははっ、相変わらず、察しがいいな。」───
───「褒められても、素直に喜べませんよ。」───
マズローは真顔だった。
───「おぬしには、明日、ジグバ演習林を探ってもらいたい。」───
───「演習林ですか…?総合実技試験が行われる。」───
───「そうだ。…出来るか?
昇進してからは、専らデスクワークばかりであろう。」───
それを聞きマズローは軽く笑った。
───「ちょうど、軍の施設を出て、
新鮮な空気が吸いたかったところですよ。
なにしろ、本部の空気はよどんでいますんで…。」───
マズローは、サンダースから簡単な地図を受け取ると、
すぐに部屋を出ようとした。
そこへ、サンダースは声をかけた。
───「理由は聞かんのか…?」───
マズローは、一瞬立ち止まったものの、
振り向くことなく、
───「知らない方がいいこともあります。」───
そのまま部屋を出た。
───「…頼んだぞ。」───
サンダースは、閉じられた扉に向かいつぶやいた。
─────────────────────────────────
───ドンッ!!!ドンッ!!!
マズローは試験開始を告げる号砲を聞いた。
「ふぅ…、始まってしまったか…。」
マズローは森を見上げ、つぶやいた。
「…将軍、こんな所に、一体何が…?」
マズローは、近くのジグバの巨木の幹に手を置いた。
「!!!?」
マズローはジグバの木を使い周囲を感知する。
これはマズローが持つ特殊能力だった。
マズローが触れるジグバの幹、枝、根、葉、
巨木のあらゆる部分がマズローの五感と重なる。
「これは……誰かいる…?
近いな……。」
マズローは、注意深くジグバの森を進んだ。
──────ジグバ巨大密林演習場──────
魔導機兵・第33部隊・隊長シングウェルは、
前方モニターに演習場のマップを表示し、
部下に進行ルートを説明する。
「我々はこれより、目標のいるポイントBへ、
反時計回りに旋回しながらアタックをかける。」
「「了解!」」
部下のイアニス、テオが返答する。
「じっとしているのは性に合わんのでな。」
シングウェルはやや砕けた口振りで話すと、
「お偉方も見ているんでしょう。」
テオがすぐさま反応する
「だからこそ、迂闊な所は見せられません。」
イアニスの声にも熱が入る。
「まぁ、そんなに気負うな、
いつも通りやれ、動くぞ!!」
魔導機兵・第33部隊は進軍を開始した。
─────────中央基地本部庁舎内・作戦司令室─────────
「おお、33部隊が動いたぞ。」
指令室にどよめきが起こった。
将校達は、食い入るようにモニターを見つめた。
「ティターニアは、動かんか…。」
サンダースは一人呟いた。
「賢明な判断だ。」
「いや、臆病なだけじゃないのか…?」
「この状況じゃ、動けんだろう」
中央基地・参謀本部本部・作戦指令室に、
様々な意見が飛び交った。
─────────タツヤとリゼル─────────
オレは、機体を膝まずかせたまま、
静かに敵試験官機を待ち続けた。
じっと待つ中で
ふとした疑問がオレの頭をよぎる。
(……そういえば、
オレの異世界スキルって、
どうなってるんだろう?)
<タツヤ、まだそんなこと気にしてるの。>
リゼルは呆れ気味だ。
(えっ…いや、
だってさ…。)
その時だった。
ガサッ
待ち伏せするオレたちの前を、
突然、茶色がかった大型生物が横切った。
「わわっ!! 何か動いた。」
オレは、機体の動きを最小限にとどめながら、
搭載レンズのズームを使い、黒い影を追った
「う、馬!?」
<ううん、違うみたい…、
えーと、あれは……。>
「あれは…」
<一角鹿だ!!>
「えっ…!? 何??
一角鹿?」
<うん、この森にしか生息しない、
特別な鹿なんだ! 僕初めて見た!!>
「あ、あれが…鹿なの!?
鹿にしては、ちょっとでかすぎない…?
3m以上はある…。」
一角鹿は、
立ち止まりこちらを見ると、
再び駆けだした。
<タツヤ、いいこと思い付いた!
あの鹿に付いていこう、
エリアの中心に移動しているみたいだし。>
「えっ!?
いや、あの…、
まだ心の準備が…。」
<もう、ぐずぐずしないで!!
早く追って!!>
「あっ、はい!」
オレたちはホバー推進の出力を出来るだけ抑えて、
一角鹿のあとに続いた。
(あっ…なるほど、
あの鹿に、囮になってもらうのか!)
<もう…、遅いよ気づくの。>
(うっ…………。)
オレは何も言い返せず、
黙って一角鹿<ディアコーン>を追った。
────────33部隊────────
ゆっくりと、そして確実に獲物を追い詰める。
33部隊は、3機の間隔を広げ、
獲物を確実に網に掛けようと前進した。
「しかし、まさかこの機体に、
もう一度乗ることになるとはな…。」
シングウェルは余裕の口ぶりで、
試験機について語った。
「自分もこの旧機は、
予科生時代以来であります!」
テオは搭乗する試験機を、
小バカにした。
「隊長!!」
3機編隊の内側を任されたイアニスは、
前方で何か動きを、察知した。
「10時の方向に動きあり!!」
「よし、直ちに戦闘態勢に入る!」
「了解!」
3機は速度を緩め注意深く身構える。
「隊長!」
イアニスから再び通信が入る。
「どうした?」
「動いていたのは…巨大な鹿でした。」
「…ふぅ、驚かせやがって。
このあたりは一角鹿<ディアコーン>の生息地なんだ。」
「あれが…。」
そう言いかけて、
突如、イアニス機は動きを止めた。
「───!!?」
「イアニス!!!」
シングウェルは叫んだ。
──────タツヤとリゼル──────
オレはペイント砲を構えたまま、
一角鹿の後を追った。
いつ敵機が現れてもおかしくない、
体中の神経を研ぎ澄ました。
ジグバの木や大きな茂みに隠れながら進むと、
鹿のはるか先の草むらが不自然に揺れた。
<タツヤ!!>
(リゼル!!)
オレは機体を止め、低い姿勢をとる。
そして、息を整えペイント砲のトリガーに指をかける。
機影が現れた瞬間、オレはトリガーを引いた。
ドシュン!!!
(やった!?)
<わかんない!!>
衝撃ペイント弾は、
構えたイアニス機のシールドに命中した。
(防がれた!!?)
<タツヤくるよ!!!>
(う、うん!!)
イアニス機は直ちに反撃する。
ドシュン!!!
総合実技試験、戦闘の幕は切って落とされた。
衝撃ペイント弾の閃光に、
シングウェルは即座に対応する。
「私が、イアニスを支援する、
テオは後方へ回り込め!挟み撃ちにするぞ!!」
「了解!!」
ドシュン!!!ドシュン!!!
シングウェルは、蛇行しながらティターニア機に迫る。
ドシュン!!!ドシュン!!!ドシュン!!!
イアニス機は、ジグバの木を盾に砲撃を打ち込む。
(リゼル! 相手は2機いるよ!!
ずるいじゃん!!)
オレはペイント弾を撃ちながら、リゼルに文句を言う。
<そんなこと言われたって、僕も知らないよ!
試験なんだから、相手が何機いようが、戦わなきゃ!!>
(ちょっと待ってよ、じゃあ他にもいるの!?)
<だから、僕に聞かないで!!ちゃんと集中してよ!!!>
(うわー!! なんだか、あの時みたいになってきたー!!!)
オレは、グチグチ言いながらも、
機体を動かし続けた。
気がつけば、オレは的確に相手と距離を取り、
しっかりとやりあっていた。




