総合演習試験3
─────────兵舎の一室・試験2日目・夜─────────
オレは重い足取りで宿舎に戻り、
そのままベッドで横になった。
(はぁ…、転生して、
数々のスキルを手に入れて、
戦ったら無敵で、
もちろん女の子にモテて、
異世界でスーパーヒーローになる…。
そんな、薔薇色の転生ライフ…、
オレには縁がなかったのか…。)
宿舎に戻ったオレは、
試験の散々な出来を引きずって、
何もする気がおきなかった。
ゴン、ゴン
ノックの音がして、部屋のドアが開いた。
「ティターニア、夕食だ。」
アーノルド軍曹は夕食を机に置き、
部屋を出かけたところで足を止めた。
「ちゃんと、食べろよ。」
軍曹は去り際、
こちらを見ることなく、
声をかけてくれた。
(軍曹が……、
業務以外のことを…、
しゃ、しゃべった…。)
初めてのことにオレは驚いた。
その後、オレは、
出された夕食を黙々と食べた。
夕食は、固いパンに、薄味の野菜と豆のスープ、
独特な匂いのするセミハードチーズ、
それから木の実と干しブドウだった。
いつもとたいして変わらない献立だったが、
今日の夕飯は少しだけ美味い気がした。
オレは腹いっぱいになると、
なんだか少しやる気がでてきた。
(…はぁ…、…やるか…。)
オレは、避けていたリゼルの日記に手を伸ばした。
(……)<……>
(……)<……>
(……)<……>
しかし、オレもリゼルも、
気まずいまま、話し出せずにいた。
(あ、あのさ…)<えーと…>
ようやく、話しかけても、
タイミングが合わない。
(…ごめんよ)<ごめんなさい…>
(そんなつもりじゃ…なかったんだ)<タツヤのせいじゃないのに…僕…>
話もなかなかかみ合わない。
(リゼル、オレの話を…。)<タツヤ、ちょっと聞いてよ。>
(オレのほうが、年上なのに、大人げなかった…)<子供扱いしないでよ、年なんて関係ないじゃん!>
(リゼル、もうちょっとおれのことを…)<もっとタツヤが僕の話を…>
(なんだよ、人がせっかく仲直りしようと…)<タツヤは本気でライデンシャフトに乗る気が…>
(そうやっていつも上から目線なんだって…それが…)<それは、タツヤが文句ばかり言うから、僕だって…>
(オレだってリゼルの体で…)<僕だって自分で…>
気がつけば、お互い遠慮なく、
言いたいことを言っていた。
どうやって、話をしようとか、
悩んでいたことが、
バカバカしく思えた。
話は進み、自然と話題は、
この日の実技試験のことになった。
<……そうなんだ、あの時みたいには、
うまくいかなかったんだ…。>
(あの時は、必死だったからさ、
どうやって”左目のスキル”を使ったのか、
考えもしなかったし。)
<うーん、どうしてだろう。
僕もタツヤの”左目のスキル”のこと、
よくわからないからなー…。>
(……明日も…、
今日みたいな結果だったら…、
はぁ………、…おしまいだ…。)
オレは大きくため息をついた。
<おしまい…って、
まだ終わってないんだから!
あきらめちゃダメだよ!!>
いつものリゼルの前向き発言だった。
(…リ…リゼル……。)
オレはこれを聞いて、
何度も腹を立ててきたが、
この日は違った。
<どうしたの?>
どん底にいる今のオレには、
とても頼もしい言葉だった。
(……ありがとう……。)
オレはリゼルに礼を言った。
<……タツヤ……。>
そして、オレが日記から手を放そうとした、
その瞬間、
<ねえタツヤ!!
明日は僕も連れて行ってよ!>
リゼルから驚きの提案だった。
(つ、連れて行くって!?)
<僕もタツヤと一緒に試験を受けるんだよ!!>
(ど、ど、どうやって???)
<えーと………、
うーん………そうだ!
こっそり僕の日記を、
服の内側に忍ばせればいいんじゃない!!>
(服の内側???)
<どこだっていいよ、
タツヤとふれてたら、
こうやって話もできるし、
外の世界も見えるんだから!!>
(…もう1度…、
リゼルと一緒に、
ライデンシャフトに乗れる……。)
<そうだよ!!>
オレは散々だった試験のことを忘れて、
リゼルと一緒に戦ったあの日のことを思い出した。
(…なんかオレ、
少しやれるような気がしてきた!!)
オレの中で小さな希望が生まれた。
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