特別試験始まる1
──────────フィレリア王国・王都グレミア──────────
王国軍編入特別試験、当日。
王国軍・中央基地本部、
敷地外れに立つ古い宿舎では、
「起床────────────!!!」
アーノルド軍曹の太い号令が、
宿舎内に響いた。
(う、うるさいなぁ…もう…、
ん…ん…あぁ…、
…もう朝…か…。)
オレは、椅子から立ちあがって、
大きく伸びをした。
(ん…ぐ…ぐ…ぐ…、
ふぅ─────────────────。
やっぱ、机でなんか、
寝るもんじゃないな…。)
試験前日の夜、
オレは真面目に試験勉強に取り組み、
そのまま机で眠ってしまった。
オレは半開きの目をこすりながら、
リゼルの日記に手を乗せた。
<タツヤ、おはよう!>
リゼルの元気なあいさつが、
オレの頭に響く。
(…おはよう…リゼル。)
返事をしながら、
オレは大きくあくびをする。
<いよいよだね!>
(ふぁ…あぁ、うん。)
オレはテキトーな返事で済ます
<もっとシャキッとしてよ!
大事な試験なんだから!!>
(…はーい。)
オレは気の抜けた返事をして、
いったん日記から手を放した。
そして、洗面所で顔を洗い、
着替えを済ませた。
(ふぅ、いよいよか……。
まったく、異世界に来ても試験を
受けさせられるなんて、
つくづく、ついてない転生だよな…。)
オレはブツブツ文句を言いながら、
支給された朝食をとにかく胃袋へ流し込んだ。
ゴンゴン──────
ノックの音がして、ドアが開いた。
「ティターニア、時間だ。」
ごっついアーノルド軍曹のお出迎えだ。
オレは部屋を出る前、
日記に手を置き、
リゼルへ言葉をかけた。
(リゼル、行ってくる。)
<タツヤガンバって!
タツヤに、ゼブル神の加護がありますように!>
(あ、ありがと。)
オレはリゼルの真っ直ぐな応援に、
照れながら答えた。
部屋を出たオレは、
アーノルド軍曹に連れられ、
試験会場のある中央基地本部庁舎へ向かった。
──────王都グレミア・中央基地本部庁舎内・廊下───────
2人組の男性試験官が脇に書類の束を抱え、
早足で廊下を歩いている。
「まったく、勘弁してもらいたいよな…、
こんな時期に…。」
「あぁ……ようやく本試験も終わって、
部隊の編成作業に取り掛からなきゃならんって時に…。」
「しかし、特別試験とは、
…どうなってるんだ……?」
「さあな、お偉いさん方の、
お戯れってところじゃないのか…、
はぁあぁぁ…。」
試験官の一人は、
あくびを噛み殺しながら話す。
「…この受験者、お前はどう思う?」
「どうって…、何者なんだ…えーと…。」
「リゼル・ティターニア、16歳。」
「うーん、本当に16なのか…。」
「さあな、写真だけじゃ、何とも言えんよ。」
「しかもだ、大丈夫なのか……隻眼だってよ……?」
「本来なら、適正審査で不合格だろ……。
この坊や、軍にとんでもないコネでも持ってるとか?
もしかして、名門貴族の御曹司だったりするのか?」
「いいや、資料を見る限り、
貴族籍ではないな。
平民だ…シャペル村出身とある。」
「シャペル村……聞いたことないな…。」
「えーと、…東部中央南境界郡だと。」
「あー、じゃあ…レイクロッサ基地近くの……。」
「へー、そりゃまたずいぶんと田舎からおいでなすった……。」
「おれたちゃ、その田舎もんのガキの為に、
寝る間も惜しんで働いてるってわけだ……。」
「…はぁあぁ…その通り…。」
────────────同基地・学術試験会場────────────
中央基地・大講堂
「すっげー…。」
オレは講堂内を見渡し、
思わず声をあげた。
講堂内の柱や、壁の至る所に、
立派な騎士、ドラゴン、大鷲、ライオン、
様々な彫刻が施されていた。
建物自体が芸術作品のようだった。
広い講堂内は、
ざっと見ただけでも500席以上ありそうだ。
そんなだだっ広い空間に、
オレは一人で座らされた。
ギィィィィ
大扉が開き、
軍服を着た男性2人組が入ってきた。
2人組はオレの席台の傍に来るなり、
ドサッ──────
っと大量の紙束を置いた。
紙束には大きく問題とあり、
その下に小さな文字で、
数学、化学、物理学、神学、古典言語、
気象学、生物学、魔法学、地史、天文学、地質学、
王国の歴史|(なりたち~現在)
ライデンシャフト基礎・応用学、軍規及び行動規則、と書かれている。
(え…!?
この分厚いの……全部…問題…?
いやいやいや、
六法全書とか、聖書並みの分厚さですよ!?
こんな量の問題解くの……??)
「受験生、制限時間は600分だ!」
(6、600分!!!
きゅ、休憩は?
飯とかトイレだって…。)
2人組の小さな方は言い終わると、
黒い大きなかばんから、
これまた大きな砂時計を取り出し、
オレの脇に置いた。
「始め!!」
小さなほうが号令を告げると、
もう一人は、
巨大な砂時計をひっくり返した。
そして、2人組はそそくさと講堂を出て行った。
いつのまにか、
監督官と思われる女性士官がオレの後ろに座っていた。
オレは内心焦りながら、
最初のページをめくってみた。
問題用紙には、
文字がびっしりと書き込まれていた。
(お…お…おいおい…リゼル、
こ、こりゃあ、やべえよ…。)
オレは軽いめまいに襲われた。
さ──────────────────っ
その瞬間も、砂時計は落ち続けた。
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