ミレーネの捜索1
──王国領・レイクロッサ近郊・シャペル村・リゼルの家・夕刻──
「ミレーネ!!」「ミレーネや!!」「おったら返事をしてくれ!!」
オムルじいちゃんの悲痛な叫びが、
家中に響く。
オレはミレーネちゃんを探すため、
シェルターから家の中へ戻ったのだった。
<タツヤ、ボクたちも探そう!!>
(う、うん…。)
(…さっきのは一体?、
…なんで体が勝手に動いたんだ。)
<タツヤ!早く!!>
リゼルに促され、オレも、
「ミ、ミレーネ…ちゃん!」
声に出して呼びかける。
<声小っちゃいよ!!!もっと大きな声で!!!
あと”ちゃん”はいらない!!!>
(わ、わかった、わかりました。)
オレはリゼルに怒られ、
「ミレ──────────ネ!!!」
ヤケクソ気味に大きな声を出す。
しかし、ミレーネちゃんからの反応はなかった。
「ミレ──────────ネ!!!」
大声で何度も名前を呼んだ。
ダダダダダッ
すると、オレの声を聞いたじいちゃんが、
あわててオレたちの元にかけてきた。
「リ、リゼル!?
ここで何をしておる…!
早く戻りなさい!!」
<じいちゃん!!ボクも一緒に探す!!>
「………。」
<タツヤ声に出して!!!>
(あっ、そうだった。)
オレはリゼルの声を、
「じ、じいちゃん、ボクも一緒に探す…よ。」
代弁する。
「………」
じいちゃんは困りはてた表情でこっちを見つめる。
<タツヤ、まずは1階を探そう!!>
(あの…、じいちゃん困ってるみたいだけど…。)
<そ、そうだけど、早く探さないと!!>
(……)
ドゴオオオオオオオオ!!!
爆音が響くと同時に家が大きく揺れる。
「わぁぁぁ!!」
その瞬間、じいちゃんがオレに覆いかぶさる。
ドゴオオオオオオオ!! ガシャ──────────ン!!!
近くの棚が倒れ、花瓶や水差しが割れた。
「…リゼル、大丈夫か!!」
「う、うん。」
じいちゃんのおかげでオレは無事だった。
<タツヤ!じいちゃんの腕!!>
じいちゃんを見ると、
右腕から血が出ている。
「じ、じいちゃん、血、血!!」
じいちゃんは腕の傷を見るなり、
「何、このぐらい、かすり傷じゃ。」
着ていたシャツの左袖を引きちぎり、
傷口に巻き止血をした。
むき出しになったじいちゃんの肩に、
鎌のイラストと数字が見えた。
「これで大丈夫じゃ。」
(す…、すげぇ、
とタトゥー!?)
<さすがじいちゃん!>
「リゼル、いいから戻りなさい。」
<……>
(そうだよリゼル、
ここはじいちゃんの言うとおり、
シェルターに戻ろう。)
<……>
(リゼル、これだけ呼んでもダメってことは、
もう…。)
<そ、そんなことない!
ボクあきらめないよ!!>
動かないオレを見かねて、
「リゼル、お前の気持ちはよく分かった。」
じいちゃんは優しく諭す。
<……っ!>
(………!
あのさ…、もしかしたらだけど、
ミレーネちゃん家にいないんじゃ…。)
<…えっ!?>
(入れ違いでシェルターに…。
行ってるとか…。)
<そうか!!
そうだよ!!タツヤ!!!>
(じゃ、じゃあ、シェルターに戻ろう。)
オレはシェルターへ向かった。
<タツヤ違う違う!
そうじゃないんだ!!>
(えっ!?
どういうこと…?)
オレは走りながら、
リゼルに聞いた。
<僕が言いたかったのは、
外の家畜小屋のこと!!>
「家畜小屋!?」
オレは足を止め、
思わず声を出した。
「何じゃリゼル、家畜小屋じゃと!?」
じいちゃんもオレの声に反応する。
<家畜小屋へ行ってみよう!!>
リゼルの提案を聞いて、
オレとじいちゃんは進路を変え、
急いで外に出た。
(いきなり家畜小屋って、
わけがわからないんだけど…。)
<ぬいぐるみのボボだよ!!>
(ボボ!?
…あぁ!ミレーネちゃんが持ってた、
ボロボロのぬいぐるみ。
それが何で家畜小屋なんだよ。)
<あれはメリーおばさんが、
ミレーネのために作ってあげたんだけど、
本物がいるんだよ。
ミレーネと一番の仲良しなんだ。>
ドゴオオオオオオ!!!
再び大地が揺れる。
「うわぁぁ…」「むっ…」
衝撃があった方角を見ると、
家が吹き飛んでいる。
「リゼル、わしから離れるんじゃないぞ。」
オレたちは急いで家畜小屋に入る。
「モ──────────────!!!」
「ヴェ─────────────!!!」
「コーッコココー!!!」
家畜小屋は、
興奮した、牛やヤギ、鶏の鳴き声で
あふれていた。
そんな大混乱の小屋の片隅で、
1頭のロバが、
小さな女の子を守るように立っていた。
<いたっ!!!>
「ミレーネ!!!」「ミレーネちゃん!!!」
じいちゃんがミレーネを抱き上げる。
<よかったー!!>
(はぁ…ほんと無事で良かったよ。)
しかし、ミレーネは、
「いや──────────!!ボボといるのー!!!」
泣き叫んだ。
駄々をこねるミレーネを、
「よしよし!ミレーネ!
大丈夫じゃ!大丈夫じゃ!!」
じいちゃんがしっかりと抱きかかえる。
「リゼル戻るぞ!!」
オレたちは、
じいちゃんの掛け声で小屋を出て、
シェルターに戻る。
シェルターの入り口まで来た時だった。
<タツヤ、じいちゃんに伝えて、
すぐ行くから、先行っててって。>
オレは嫌な予感がした。
(え!?ミレーネちゃん見つけたんだし、
他に何が……。)
<まだ大事なことが残ってるんだ!!>
(大事なこと…?)
<タツヤお願いだから!!>
(そ、それは…、内容次第で…。)
<早く!!!>
(は、はい…。)
オレはリゼルの気迫に負け、
渋々じいちゃんに伝える。
「えーと、じ、じいちゃん!
すぐ…行くから、
先に行ってて。」
「リ、リゼル!!!!?」
オレはじいちゃんの呼びかけに、
何も答えないまま、
扉を閉めた。
(本当にこれで良かったのだろうか…。)
オレは自問せずにはいられなかった。
<タツヤありがとう!
帰ったら、絶対じいちゃんに怒られちゃうね。>
「『…怒られちゃうね』、
じゃないよまったく。」
オレはボソッとつぶやく。
<はいはいはい。>
(くっそー、年長者としての威厳が…。)
<タツヤ、ゴチャゴチャ言ってないでさ、
もう一回外に出よう!!>
(目の前には安全なシェルター…。)
<少しだけだから…、
ライデンシャフト同士の戦闘、
少し見るだけ。
今回見逃したら…、
もう二度と見れないかもしれない。>
(いやいやいや、
オレが思うに、
かなりの頻度で現れてるっぽいよ。
だから絶対また見れるって!!)
オレはリゼルのお願いを無視して、
シェルターの扉取っ手に手をかけた。
「うっ…うう…!!」
すると、再びオレの手が、
オレの意識とは関係なく
扉の取っ手を放した。
「さっきから、どうなってんだよ!!
リゼルお前がやってんだろー!!」
<………>
リゼルからの返事はなかった。




