シャペル村では3
しばらくすると、
オレはまだ病み上がりだからということで、
みなが帰る前にベッドへ戻された。
ベッドに入ると、リゼルが頭の中で話しかけてくる。
<僕、じいちゃんのおかげで、
ライデンシャフトが好きになったんだ…。
だから、じいちゃんを恨むなんて…。>
(リゼル…。)
おれは、フォローの言葉をかけたかったが、
すぐに思い浮かばなかった。
<タツヤ、ごめんね。
なんか心配かけちゃった…。>
(え…、いや、心配だなんて、
こっちこそ、
いきなりリゼルの体に、
お邪魔しちゃったわけで…。)
二人の間に微妙な空気が流れる。
<……>
(……)
オレはこの微妙な空気を変えようと、
話題を変えてみる。
「屋根裏のあのオンボロってさ、
リゼルのじいちゃんが作ったって…。」
<またオンボロって……、
確かにそうだけど。>
リゼルは少しムッとしながらも、
オレの話に乗ってきた。
「リゼルのじいちゃん、
どうしてあんなの作ったんだろ?」
<そういえば……、
作った理由、教えてもらったことないや。>
「そうか…、リゼルは知らないんだ。」
<どうやって作ったのかも、
詳しく教えてくれないし。>
「何か言えない事情でもあるのかな?
リゼルの話じゃ、
昔、軍の整備兵だったって…。」
<うん…軍の整備兵を辞めて、
この村に引っ越してきたんだって。>
「屋根裏に隠されたオンボロ装置と、
軍を辞めた理由、
…何か関係あるのかな。」
<うーん……、
そんなの僕に聞かれてもわかんないよ。
じいちゃん軍隊にいた時のことは、
ほとんど話してくれないんだ。
整備兵してた事だって、
僕とじいちゃん二人だけの秘密だぞって。>
「秘密なの?」
<うん、村の人は知らないみたい。
じいちゃんの過去とか、
あの装置のこととか、
秘密を守ることが、
屋根裏部屋を使わせてくれる条件なんだ。>
「…なんか気になってきた。」
<最初に、あの装置を、
屋根裏部屋で見つけた時、
僕、じいちゃんにすごい怒られたんだよ。>
「あの優しそうなおじいさんが?」
<うん、今まで見たことない、
すっごい怖い顔してた。>
「想像できない…。」
<二度と屋根裏部屋へ、
来ちゃダメって言われたんだ。>
「…だけど…。」
<行っちゃった!
あはは、やっぱりわかる!?>
「ま、まぁ、そうなるかなと。」
<最初はね、
じいちゃんにまた怒られると思うと、
怖くて行けなかったんだけど、
どうしても、もう一回さわってみたくて、
行っちゃった。>
「あ…、それ気持ちわかるかも。」
<それで、何回か行ってたら…。>
「…また見つかった。」
<うん、見つかっちゃった。
僕が全然言いつけ守らないから、
じいちゃん怒るのあきらめて、
このことは絶対誰にも言っちゃダメだぞ!
二人だけの秘密だって、
それで使う事を許してくれたんだ。>
「あのオンボロ装置に、
そんな物語があったとは…。」
<もう!!
いちいちオンボロって、
言わなくてもいいでしょ。>
「あ、いや、その、
べ、別に悪気はないんですけど
気をつけます。」
<う、うん。>
「あ、あとさ、、
屋根裏にあった、あの本は?」
<本!?
本は…軍隊に入る前から集めてたみたい、
辞めてからは、
なかなか手に入れられないんだって。
屋根裏部屋で、少しだけど、
軍隊で整備兵やってたこととか、
王立科学院の話とかしてくれたんだ。>
「王立科学院…。」
<ライデンシャフトの研究してるところだよ。>
「なんか…すごい立派そうな名前。」
<何その感想。>
「え!?お、おかしかったかな…。」
<だけどさ、
僕がどんなにあの装置で練習しても、
パイロットは無理だって、
じいちゃん言うんだ。>
「じいちゃん厳しい…。」
<僕は生まれつき視力が弱くて。
僕の視力じゃ、
パイロット候補生試験の、
受験資格もらえないって。>
「………。」
<でもね、絶対無理だって言われて、
僕、悔しかった。
だから、いっぱい努力したんだ!!
視力が良くなるように、
いろんなことを試したし
それから、すっごい勉強もしたし、
あの装置でたくさん練習して、
だから、僕絶対パイロットになるんだ!!>
(そ…その前向きなガンバり…、
オレと……正反対。)
<左目は見えなくなっちゃたけど、
視力は良くなったんだから、
タツヤ、パイロット目指そうね!!>
(えっ!?オレが…?
パイロット…目指すんですか!?)
<うん!!>
(いやいやいや、
オレはもっと楽して、
活躍できる異世界ファンタジー希望、
…なんです。)
◇◇◇
一方、宴の終わった食堂では、
オムルやメリー、残った村の人たちが
宴会の後片付けをしている。
「リゼルが…、
パイロットに憧れなければ、
あんな事故は起きなんだ…。
わしのせいじゃ。」
それを聞いた年配の女性が、
「オムルさんのせいじゃありませんよ…、
あのぐらいの年の子なら、
パイロットに憧れて何の不思議もありませんよ。」
優しくオムルに声をかける。
「…そうですよ。」
メリーおばさんもあいづちを打つ。
メリーおばさんは続ける。
「私じつは…、
もうダメなんじゃないかと、
諦めかけていましたから…。
今日はホントに嬉しかったです。」
そしてそのまま、みなは片付けを続けた。
オムルは、
「ルビア…。」
ポツリとつぶやいた。
───タツヤとリゼル───
(オレ、もっとリゼルの事、
知らないといけないな…。)
<あ…ありがとう。>
リゼルはどこか照れくさそうだった。
オレはあらためて、
部屋の中を見回した。
そこで、
タンスの上にある、
写真立てに目がとまる。
そこには、
今よりもずっと小さなリゼルが写っている。
<あれは、7歳ぐらいの時かな。>
写真の中のリゼルはメガネをかけ、
嬉しそうに機械をいじくっている。
(楽しそうじゃん。)
<うん、楽しかったよ。
じいちゃんが言うには、
時計とか、作業用の工作機とか、
身の回りの機械を、
勝手に分解して、
村の人たちを困らせてたって。>
(ん…?あれ?)
その時、突然
頭の中に映像イメージが流れてきた。
その映像は、
オムルじいちゃんと一緒に、
機械を直している
リゼル目線のモノだった。
「…何だこれ……。」
それから、次々とリゼル目線の映像が、
頭の中に流れる。
───機械を分解して、じいちゃんに怒られているリゼル───
───高い木に登って降りられなくなるリゼル───
───分厚い学術書のページをめくるリゼル───
───原っぱを駆けるリゼル。
───屋根裏部屋のオンボロ装置に座って操縦桿を動かすリゼル───
リゼルの記憶が、オレの記憶と重なっていく。
「リゼル…!!」
<タツヤ…!!>
二人が互いに名前を呼んだ時、
キュオンキュオンキュオンキュオン!!!!!
ゴオオオ! ゴオオオオ!!
「───!? 何だ、この音!?」
オレは飛び起きた。
<タツヤ!!警報だ!!>
(え”────────────!!)
<近くで戦闘が発生したんだ…!>
(マ、マジで……!?)
そこへ、
「リゼル!避難じゃ!!」
オムルじいちゃんが駆け込んできた。
「逃げる…ってどこに?」
オレは驚きの声を上げる。
「何を言っておる、
シェルターに決まっておるじゃろ!!」
「…シェルター…」
<タツヤ!!急いで!!>
オレはオムルじいさんにおぶられ、
下の階へ降りた。
そして物置部屋にやって来ると、
「よし、リゼル降ろすぞ!!」
オムルじいちゃんは、
オレを背中から降ろし、
物置部屋の床下にある鋼鉄製の扉を引き上げた。
扉の奥は真っ暗だった。
オレはオムルじいちゃんの手をしっかり握り、
真っ暗な階段を一段一段下っていく。
少し降りたところで、
前方に小さな光が見えてくる。
うっすら見えてきたシェルター内部。
そこは地下に掘られた大きな穴ぐらで、
天井や壁などいたるるところを、
大小さまざまな木材や石で補強してある。
階段の先は、
少し開けた空間になっていた。
先に着いた村の人たちは、
シェルター内をわずかに照らすランプを中心に、
輪になって身を寄せ合っている。
ゴゴゴゴゴゴ……
地響きが起こると、
シェルターは大きく揺れ、
天井から木くずや土ぼこりが落ちてくる。
(いま外で、戦闘が…。)
<うん。王国軍と帝国軍のライデンシャフトがね。>
「みな集まってきておるか…?」
オムルじいちゃんは小さな声で尋ねた。
真っ先に答えたのはメリーおばさんだ。
「オムルさん、ミレーネは?」
「メリーさんと一緒じゃないのか?」
「わたしは…、
てっきりオムルさんと一緒だと…。」
「………」
二人は顔を見合わせたまま、
黙ってしまった。
しかし、すぐにオムルじいちゃんが、
沈黙を破る。
「わしが探してくる。」
オムルじいちゃんが戻ろうとすると。
その時、シェルターの中に、
一人のおばあさんが降りてきた。
「ひいっ……はあっ……ひいっ……」
「おお、二ームばあさんか、
無事じゃったか…。」
オムルじいちゃんは、
ニームばあさんの背中をさする。
「た、大変じゃ!!
…王国軍が、…やられておる!!」
「!!!」
その場にいる全員に衝撃が走った!
<う、嘘だー!!>
オレの頭の中でリゼルが叫ぶ。
重くるしい雰囲気の中、
オムルじいちゃんが口を開く。
「この地方の王国軍部隊は精鋭ぞろいじゃ、
…それが、そう簡単にやられるとは…。」
「間違いない…この目ではっきりと見た…。」
そういうと、二ームばあさんは倒れこんだ。
メリーおばさんが、
二ームばあさんを介抱する。
「しまった!!
今は話をしておる場合ではなかったんじゃ!!
ミレーネ待っとれよ!!」
じいちゃんは来た道を戻り、
家へ向かった。
<タツヤ!!!>
(!?)
<ボクたちも行かなくちゃ!!!>
唐突なリゼルの申し出だった。
(……えっ……!?
え────────────!!!)
オレは驚くしかなかった。
オレの身体がオレの意思とは無関係に、
じいちゃんの後を追っかけていた。
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