シャペル村では2
そうこうしているうちに、
部屋に大人から子供まで、
大勢の人が集まってきた。
(ちょ、ちょっとリゼル、
いきなりこんな人数、
誰がだれやら、
オレわかんないんですけど…。)
<大丈夫、みんないい人たちだから安心して。>
(いや、そういうことじゃなくてさ……)
「おお、リゼルー…!」「よかったのお……」「ううっ…うう……」
「リゼルー、ようやく起きたか!!」
ご近所さんたちは、
かわるがわるオレの側へやってきては、
頭をなでてくれたり、
ハグをしたり、手を握ってくれたり、
いろんな愛情表現を見せてくれた。
(リゼル君…、
キミみんなから、
愛されてるんだね……。)
<そ、そう。
別にふつうだと思うけど…。>
(こ、これが、ふつうなのか…。)
オレは言葉がでなかった。
そんなわけで、宴が始まった。
みんなは、陽気に食べて、飲んだ。
目の前には、
うまそうなローストされた肉がある。
(一体何の肉だろう。
めちゃくちゃ香ばしい、いい匂い!)
ゴクリ
(早く食べたい。)
<ねぇ、食べて大丈夫かな?
僕けっこう長い間寝てたみたいだよ、
いきなりお肉とか、食べられるかな…?>
(───す、少しだけだよ……少しだけ。)
<うーん。めったにないごちそうだから、
タツヤに食べてもらいたい気もするけど…。
お腹痛くなって、
苦しむのもタツヤだよ。>
(───うっ…確かに…、
お腹壊すのは、嫌かも…。)
「リゼル、今日はおまえの大好きな、
村特産チーズのフォンデュもあるのよ。」
メリーおばさんはそう言うと、
チーズの入った鍋をオレの前に運ぶ。
(シャペル村特産チーズ…
これもすげーいいにおい…。)
(───なぁ、これなら、いいんじゃないか?)
<もう、チーズだけだよ。>
(───やったー!!)
<…はぁ、すごい食い意地…。>
(何か言った。)
<ううん、何でもない。>
「いただきまーす!!」
オレは、トロトロのチーズを、
木製スプーンですくって食べた。
「あっつ!!あっつつつ!!!」
<もう!!何やってんの!!>
チーズはオレの想像以上に熱かった。
「リゼル大丈夫か!?」
みんながいっせいにオレを見る
オレは無理やり笑顔を作って、
「あ、あっつくて、おいしいー!!」
なんとかその場をやり過ごす。
<驚かせないでよ!>
(ごめんごめん、
初めて食べる料理なもんで…。)
<少し冷ましてから、食べなよ。>
リゼル回復祝いの宴は、
こうして和やかに進んだ。
少したって、オムルじいちゃんが、
ティンティンティン!!
グラスをナイフで叩いた。
じいちゃんは立ち上がり、
挨拶を始める。
「ここで、あらためて一言、
ええかの。
みなには、大変心配をかけた……。
じゃが、今日、わしらの祈りが通じ、
我が孫リゼルは、目を覚ました。
村のみな、本当にありがとう。
みなの励ましや、協力には、
いくら感謝しても感謝しきれん。
せめてものお返しじゃ、
今日は存分に、食べて、飲んでくれ。
……ムームー《かんぱーい》……!」
「「「ムームー《かんぱーい》……!!」」」
食堂に集まった人々は、祝杯をあげた。
オムルじいちゃんは座って、オレに声をかける。
「リゼル、休みたくなったら、
遠慮せずいつでも言いなさい。」
「え、あ、はい。」
「お兄ちゃん、ごちそうだよ。」
はしゃぐミレーネ。
「ミレーネ、リゼルに、
あまり無理をさせちゃあいかんぞ。
リゼルもじゃ、しばらく無理は禁物じゃ。」
「オムルさん、スープが出来ましたよ。」
台所からメリーおばさんの声がする。
「そうじゃった、
いきなり普通の食事は出来んかもしれんと思ってな、
リゼル用のスープも作っとったんじゃ。」
そう言いながら、じいちゃんは台所に行く。
「オムルさん特製のスープよ。」
メリーさんが解説してくれる。
(へぇー、リゼル楽しみだな。)
<うん。>
じいちゃんのスープを待つオレに、
「お兄ちゃん、いつパイロットになれるの?」
ミレーネがたずねる。
ミレーネは、オレをじーっと見つめる。
ガシャーン!
台所から戻る途中、
オムルじいちゃんは鍋を落とした。
<じ、じいちゃん。>
(どうしたんだ?)
「オムルさん!」
「……」
「だ、大丈夫ですか!?」
メリーおばさんは、
大慌てでかけてくる。
オムルじいちゃんが、ゆっくりと口を開く。
その顔は真っ青だった。
「すまん、すまん
手が滑ってしまっての。」
じいちゃんは、こぼしたスープを
ふき取ろうとする。
メリーおばさんは、そんなじいちゃんを制し、
「いいですよ、ここはやっておきますから、
オムルさんは座って一息入れて下さい。」
椅子に座らせた。
じいちゃんは、イスに腰かけると、
「本当に、ひどい事故じゃった………、
あの事故は…、わしのせいなんじゃ……。」
ドン!!!
テーブルをどんと強くたたいた。
そして、うつむいたまま、黙り込んでしまった。
その場は静まり返った。
(ひどい事故、じいちゃんのせい…?
リゼル、一体、どういう事?)
<どういうことって言われても…、
僕ホントに覚えてないんだ。>
(うーん、なんか重い雰囲気になっちゃったな…。)
<…ねぇタツヤ、じいちゃんに聞いてみてよ。>
(聞いてみて、って何を?)
<その事故のこと。>
(え!?
聞くの、オレが?)
<もぅ!!
タツヤ以外に誰が聞くのさ!!>
(あ、はい、そうでした。)
「あ、あの、オムルじいちゃん…、
事故って、何が…あったの?」
「!?」
じいちゃんは驚いた表情でオレを見る。
「リゼル!?事故の事…憶えとらんのか?」
じいちゃんは、オレを見たまま固まった。
(リゼル、この先は?)
<こうなったら、全部聞こうよ>
(じゃ、じゃあ、次はどう言ったらいい?)
<事故の事は、何も覚えてない、
って言って。>
オレは、リゼルの言われたとおり話す。
「あの…僕さ…事故の事、何も覚えてないんだ。」
「…そうなのかリゼル……」
「何が、あったの…?」
「そうじゃな…」
オムルじいちゃんはそう言ったきり、
黙り込んでしまった。
(おいリゼル、オムルじいちゃん、
黙っちゃったぞ?)
<事故の事、話したくないのかな>
(そういや、じいちゃんは、自分のせいだって…、
…何か事故と関係あるのか…?)
<じいちゃんと事故が…?>
オレとリゼルが、
頭の中でやり取りをしていると、
となりのテーブルに座っていた、
長髪のおじいさんが話し始めた。
「オムル…もう済んだことじゃ。
リゼルも目を覚ました。
そう自分を責めるな。」
<ホメットじいちゃん…。>
(ホメットじいちゃん?)
<うちの隣で、羊を飼ってる。>
「リゼル、事故はな…、
半年ぐらい前の日没の頃じゃ。
……ワシは一人で、
古くなった柵の点検をしておった。
その時じゃ、北の山の方角から、
もの凄い音がしてな、
村上空に帝国のライデンシャフトが現れたんじゃ。
その帝国機が現れてすぐに、
王国のライデンシャフトも飛んで来ての、
村のはずれで戦闘がはじまってしまった。」
(ちょ、ちょっとぉぉぉお!
話ちがうじゃん、
村、全然安全じゃない!!)
<……>
「ワシは急いで、シェルターに向かった。
そこに、オムルとリゼルもおった。
リゼルは必死になって、
オムルに何かせがんでおった。
オムルは、興奮するリゼルを、
懸命になだめておったんじゃが…。
ついに…リゼルはオムルの制止を振り切って…、
シェルターを飛び出してしまったのじゃ。」
(リゼル…、)
<……>
「わしらはすぐに、リゼルの後を追った。
しかしな、老いぼれ二人の足では、
なかなか追い付けんでな。
わしらが、お前を見つけた時にはもう……、
リゼルは頭から血を流し、意識を失っておった…。」
(おいリゼル…、
大丈夫、…か…?)
<…………>
「すまんな、リゼル…
あの時、わしが…止めておれば…。」
オムルじいちゃんは、顔を上げた。
<…そう…だったんだ……。>
リゼルの小さな声が、 オレたちの頭に響く。
「もうなんですか!
せっかくのリゼルの回復祝いですよ!!
みなさん、ほらもっと食べて、飲みますよ!
ほら、リゼルあなたも、ミレーネも!!」
メリーおばさんの力強く陽気な声は、
その場の雰囲気をガラッと変えた。
メリーおばさんの勢いに、他の村の人たちも続く、
「そうじゃそうじゃ!」「よし、歌じゃ、踊りじゃ!」
食堂は、再び朗らかな歌声や大勢の笑い声、
踊りの手拍子や、掛け声に包まれた。




