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未確認機出現

 前回のあらすじ


 アリーシャ・レリウスが搭乗する

 ”ゼクウ”の右腕から伸びたヒドゥンブレードが、

 リゼル・ティターニア搭乗

 ”アルゴ機”の胸部コックピット脇を貫き、

 今回の機兵決闘は決着したと…、

 この場にいる誰しもが思った。


―――アルレオン軍学校・第一機兵演習場―――


 レリウスは、アルゴ機の胸に突き刺さした、

 ヒドゥンブレードを引き抜き、

 大きく息を吐いた。


 アルゴ機が崩れ落ちると、

 機体の周りに軍所属の魔導士たちが、

 集まってきた。


 駆け寄った魔導士たちは、

 ”アルゴ機”の破損したルーンリアクターの爆発を

 最小限に抑えるため、

 すばやくアルゴの周囲に、

 何重にも魔導障壁を作り出していく。


 その魔導士の中に、

 領主ミルファ・ダリオンの姿もあった。


 この瞬間、レリウスの心中を、

 激しい後悔の念が襲う。

 

 アルゴ機のパイロット、

 リゼル・ティターニアが、

 爆発寸前の機体に取り残されたまま、

 未だ脱出していない。


 レリウスは、自身が招いた最悪の結末の中、


「ティターニア!!!」


「応答しろ!!」


「今すぐ機体から出るんだ!!!」


「ティターニア!!!」


 とにかく、ひたすら声を上げた。


 ゼクウ・コックピット内に、

 レリウスの悲痛な叫びが空しく響く。


 もとはといえば、

 この決闘自体、リゼル・ティターニアを、

 リンド・ブルムから追い出すために、

 レリウス自身が持ちかけたものだ。


 リゼル・ティターニアの操縦技術を、

 レリウスは知らなかった。


 しかし、操縦経験の少ない学生相手に、

 自分が苦戦するとは、

 微塵も考えられなかった。


 圧倒的な実力差を見せつけ、

 ティターニアを無傷で機体から降ろす。


 レリウスはこのことを、

 密かに自身へ課した。


 しかし、それは、

 レリウスの慢心だったのかもしれない。


 軟弱な少年は、

 熟練のパイロットをもしのぐ、

 驚異の操縦を見せた。


「ティターニア!応答しろ!!」


 レリウスは何度も何度も、

 大声でアルゴへ呼びかけ続けた。

 

「ティタ――ニア―――!!!」



 しかし、”アルゴ”は、

 沈黙を続けた。



 その時だった。


 アルゴが強烈な光に包まれた。



「う”あ”ぁぁぁ――――!!」


 その光景にレリウスは絶叫し、

 両拳を何度も何度も、

 操縦管に叩きつけた。


「わたしは…おおバカ…やろうだ…。」


 レリウスは自分を責めた。


 光が弱まり、

 レリウスが顔を上げると、


「な…何が……起きたのだ…。」


 アルゴのいた場所には、

 爆発の形跡は見られず、

 見知らぬライデンシャフトが現れていた。



挿絵(By みてみん)



 レリウスは、困惑するしかなかった。




◇◇◇◇◇




 今、若きアルレオン領主・ミルファ・ダリオンは、

 いまだかつて見たことのない、

 ”謎のライデンシャフト”と対峙する。


 謎の機体は、血のような赤と、

 漆黒のカラーリング、

 特徴的な尖ったパーツで構成されている。

 

 その赤いライデンシャフトは、

 消えた”アルゴ”と同じく、

 両膝をついた姿勢のままで現れた。


 ミルファはその機体を見た瞬間、


「…こんなの…ウソでしょ。」

 

 心拍数がはね上がった。


「…機体のデザイン、

 …色彩構成…

 この()()()()()()()じゃん……、

 ”ルーツ・オブ・ライデンシャフト”に!!」


 謎の機体を見上げるミルファの周囲に、

 軍所属の魔導士たちが集まってきた。


「ミルファ様、これは一体…?」


「正直…ボクにもわかんない。」


(よーく見たら、”ルーツ”とは違うけど…、

 雰囲気はすごい似てる!

 だけど、どうなってるの

 腕は再生してるし…、

 外見が完全に別の機体になってるし…。

 詳しくは、機体を調べないとわかんないか。)


 ミルファの中で、興奮、戸惑い、不安、

 様々な感情が混ざり合う。


「ミルファ様…、

 この場はどういたしましょう?」


 ミルファは老魔導士の一言で、

 現実に引き戻された。


「えっ…!?あっ…そっか、

 機体からの放出魔力は…なくなってる。」


 側にいる若い魔導士が、


「はい、あの機体の出現と同時に、

 ”アルゴ機”で見られた不安定な魔力の流出は、

 収まっています、爆発の可能性はありません。」


 落ち着いて状況を補足した。


「…爆発の心配は無くなった、

 それはひとまずは良かったけど…。」


 ミルファには気がかりがあった。


(こいつから感じる魔力…、

 なんか…異様…。)


 ミルファはじーっと赤い機体を見つめると、

 機体の正面へ走り出した。


 ミルファは謎の赤い機体の前に出ると、

 両手を大きく広げ、頭上でぶんぶんと振った。


「おーい!リゼル・ティターニア!!

 今すぐそこから、降りてきなさい!!」


 ミルファの突然の行動に、

 周囲の魔導士たちは


「ミ、ミルファ様!?」


 あっけにとられた。


 周囲の心配もよそにミルファは続けた、


「ちょっと!!聞こえてるの、

 至急その機体から降りてきなさい!!」


 さらに赤い機体へ近づくミルファ。


 すると、赤い機体はゆっくりと立ち上がり、

 目の前のミルファを無視して片足を上げた。


「ミルファ様!危ないっ!!!」


 若い魔導士が叫ぶ。


「えっ…え―――っ!?」


 ミルファは慌てて横へ飛んだ。


「痛ててて……。」

 

 ミルファは着地の時に、

 地面で擦った右肘をさすりながら、


「ちょっと!!いきなり何すんだよ!!!」


 赤い機体へ大声で吠えた。



 そこへ、


「まったく何をしておられる!!!」


 演習場内へ入ってきたサンダースが、

 ミルファを抱え起こした。


「ちょっ、やめろ、サンダース!!」


 サンダースの腕の中で暴れるミルファ。


 そんな二人の元へ、

 周囲の魔導士たちが駆け寄ってくる。


「ベルディア公、

 このまま演習場内に留まるのは危険です!」


 魔導士たちの助言にミルファは、


「ダメダメ、あの機体を調べないと!!」


 ミルファはサンダースの腕の中で、

 暴れながら必死に食い下がる。


 サンダースはそんなミルファに構うことなく、

 軽々と肩に担ぎあげ、

 魔法の詠唱が出来ぬよう口を塞ぎ、


「今はわからぬことが多すぎます、

 その中で機体の側にいる事は得策ではありません、

 一度場外へ出ましょう。」


 強引に外へ連れ出した。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!



 その時、大地が揺れた。


 謎の赤い機体が、

 大地を蹴った。


 その衝撃は場外の観客席にも届く。


 謎の赤い機体が、

 レリウス機”ゼクウ”に襲いかかった。






―――ゼクウ・コックピット内―――


「ティターニア!

 無事なのか!!」


「応答してくれ!!」


「その機体に乗っているのは、

 お前なのか!?」


「答えてくれ!!」


 レリウスは、

 突然現れた謎の赤い機体に対し、

 交信を続けた。


 しかし、先ほどのまでのアルゴと同じく、

 一切返答はなかった。



ドゴオオオオオオオ!!!!!



 赤い機体が大地を蹴った衝撃が、

 ゼクウ・コックピット内にも伝わる。


「来る!!!」


 謎の赤い機体は、恐るべきスピードで、

 一気に間合いを詰めてきた。


ガゴゴゴゴゴンッ!!!!!


 赤い機体は、

 レリウス機”ゼクウ”に対し、

 肩で体当たりを敢行する。


「ぐっ………!!!」


 レリウスは、ギリギリのところで、

 わずかに機体をずらし直撃を防いだ。


 しかし、その衝撃の強さにより、

 装甲の一部が吹き飛んでしまう。


(な、なんというパワーだ、

 一撃でも、まともに食らったら、

 お終いだな…。)


 レリウスは自然と、

 赤い機体から距離を取った。


 戦い方が逆転した。


「第2ラウンド…開始か…。」


 レリウスは

 操舵管を強く握りしめ、

 唇を噛んだ。


 赤い機体が再び突進を始める。


ギャリギャリギャリ!!!


 凄まじい衝撃が演習場全体を包む。


「…速い!!」


 レリウスは、正確な距離を測れぬまま、

 反撃をあきらめ、回避に集中する。


「!?」


 赤い機体は前回同様、

 動きに変化をつけることなく、

 ただ真っ直ぐ突撃を仕掛けてくる。


「ほ…本気か!?」


 その後も、

 謎の機体は凄まじい突撃を繰り返す。


 レリウスはギリギリのところで、

 持ちこたえていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…、

 スピード、パワーは桁違いだが…、

 …操縦が荒い。」


 繰り返される突撃の中、

 レリウスは入念に、

 反撃のタイミングをはかった。

 

「…次で決める!!」


 赤い機体は、

 また同じ突撃を繰り出してくる。


 レリウスはそれに合わせ、

 完璧なタイミングで、

 敵の脚部へ、ヒドゥン・ブレードを突き下ろした。


ゴガガガガガッ!!!!!


「何っ…!?」


 完璧にタイミングを合わせ、

 攻撃を繰り出したはずが、

 ゼクウのヒドゥン・ブレードは、

 赤い機体の手でガッチリと掴まれていた。


バキメキバキバキ…!!!


 そして、そのまま、

 謎の赤い機体は、

 掴んだヒドゥン・ブレードを根元から折り、

 折ったブレードを大地へ叩きつけた。


 敵のあまりの荒々しさに、

 レリウスにある疑念が生じた。


「何だ…この戦い方は…、

 リゼル・ティターニア…、

 本当にお前なのか……!?」






―――第一機兵演習場・特設場外観客席―――


 レリウス機ゼクウの()()は、

 誰の目から見ても明らかだった。


 完全に()()()()した。


 ミルファは隣にいるサンダースへ、


「これ…、あの赤い機体、

 応援しても…大丈夫?」


 正直な思いをぶつけた。


「…何故ですか。」


「動きを見る限り、

 同一人物の操縦には、

 思えないんだけど。」


「確かに…そうですな。」


「でしょ。それとさ、

 気になってたことがあるんだけど…。」


 ミルファは自身が気になっていることを、

 口にしかけた。


 その時、


「一体何事だ、()()は…!」


 場外観客席で戦闘の続きを見守る、

 ミルファ、サンダース達のもとへ、

 ギル・ドレとリトマイケが、

 軍関係者を引き連れてやってきた。


 ギル・ドレは、明らかに不機嫌だった。


 ギルドレの問いに、

 サンダースが、


「一応…()()()()()と、

 なりますかな…。」


 落ち着いて答えた。


 ここで、リトマイケは


「ミルファ殿、貴公は、

 ライデンシャフトに非常に精通されておる、

 あの”赤い機体”のことも、

 何かご存知なのではないか?」


 ミルファに助言を求めた。


「それは軍としての正式な命令ですか?

 そうでなければ、

 答える義務は無いと思いますが。」


 ミルファは、

 ここぞとばかりに虚勢をはった。


「ミルファ殿…、

 もう少し口の利き方を、

 学ばれたほうがよいですぞ。」


 リトマイケは、面子を潰されながらも、

 平静をよそおう。


「これはこれは、

 有意義な助言、

 ありがたく傾聴いたします。」


 ミルファは、さらにいやらしく答えた。


「くっ………。」


 悔しがるリトマイケを、

 ギル・ドレは無視し、


「おい、あの”赤い機体”を停止させろ、

 今すぐにだ!」


 軍関係者の一人、

 キノム・シモン中佐へ指示を出す。


「そ、それが…何度も通信を試みておりますが

 パイロットと連絡が取れておりません。」


 この命令にキノム・シモンは、

 恐る恐る答えた。


「ならば、周囲に配置した、

 ”軍ライデンシャフト”を使えばよかろう、

 即刻停止させろ。」


 ギル・ドレは不敵な笑みを見せた。


「で、ですが…

 それでは決闘は…。」


 ギル・ドレはシモンへ微笑む。


「決闘はもう済んでおる、

 ()()()()()だ、

 これ以上の戦闘は認めん。」


 ギル・ドレとキノム・シモンのやりとりに並行して、

 ミルファはサンダースへ、小声で話し始めた。


「ホントに決闘…続けさせていいのかな?」


「いきなりどうされました、

 ここで止めてしまえば、

 リゼル・ティターニアの負けが、

 決定してしまいます。」


「そうだけど…。」


「それは…、

 何としても避けたいのです。」


「それはわかるんだけど…。」


「続けさせましょう!」


 サンダースはギルドレたちに向かって、

 

「くどいようですが、

 決闘はまだ…決着しておりません。」


 あらためて自身の考えを述べた。


 それを聞き、リトマイケは、


「な、何を言い出す、

 明らかに先ほどまでと、

 ()()()()()ではないか!!」


 声を荒げた。


 サンダースは、

 リトマイケを気にすることなく続ける。


「確かに、見た目は全く違いますが、

 パイロットが()()()()()()は、

 十分考えられます。」


 キノム・シモンが、

 この説明に割って入る。


「パイロットと、

 連絡が取れていないので、

 その可能性は排除できません。」


「通信機能が破損、

 故障している可能性も…。」


「…ありえます。」


()()()()()()()()()()以上、

 ()()()()()()とは、

 言えないのでは、ないですかな。」


 このやりとりに、ギル・ドレは、

 

「やかましい!!

 決着はとうについておる!!」


 感情をむき出しにした。


「そうだ、女教官の勝ちだ

 貴様らも、とどめの一撃を見ておったろう!!

 この決定に異論は許されんぞ!!」


 リトマイケもギル・ドレに同調する。


「よいか、これ以上の意見は認めん、

 黙っておれ。」


 ギル・ドレは、

 ミルファとサンダースを睨みつけた。


 ここで、ミルファは、

 あの赤い機体について気づいたことを、

 言うかどうか迷った。


「…………。」


 しかし、言われた通り、

 ここでは何も言わなかった。


「早く出せ!!」


 ギル・ドレは苛立ちを隠すことなく

 指示を出した。


「待機中のツヴァイ部隊に告ぐ、

 あの”赤い機体”を確保せよ!!

 繰り返す、あの”赤い機体”を確保せよ!!」


 キノム・シノンの指示のもと、

 演習場・外周部で待機していた、

 軍ライデンシャフト・”アルレオン基地・第一守備隊”が、

 次々と演習場内へ進入を始めた。

 







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― 新着の感想 ―
この第2ラウンドは想定外の延長戦ですね。 形勢は逆転しましたが暴走感がますます強くて心配です。
決闘の戦況が一気に逆転する様子は気持ちが昂らずにいられません。さらに戦闘の結果が様々な人物の思惑によって、勝敗が左右されそうな不確実さも魅力的です。まったく先の展開が読めず、ますます続きが気になりまし…
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