決着
前回のあらすじ
フィレリア王国アルレオン領、
軍付属学校・第一機兵演習場。
昼刻、大勢の観衆が見守る中、
演習場では、軍学校教官・アリーシャ・レリウスと、
パイロット選抜クラス ”リンド・ブルム”
に在籍する少年、リゼル・ティターニアによる、
決闘が始まった。
勝負は、教官アリーシャ・レリウス、
圧倒的優勢のまま、
一方的な展開で進んだ。
―――アルゴ・コックピット内―――
”アルゴ”の左腕が宙を舞った。
「あ”っ――――――!!!」
オレたちが繰り出した反撃の代償は、
とてつもなく大きかった。
オレたちは機体の左腕を失い、
反撃どころではなくなった。
「や、やばいよ!!」
オレは絶体絶命のピンチに、
あわてにあわてた。
<ちょっとタツヤ!落ち着いて!!>
「だ、だって、左腕が……、
左腕が…………。」
<もー!!ぐだぐだ言ってないで、
追撃がくるよ!!>
「つ、追撃…!?」
オレはリゼルに言われ、
必死で態勢を立て直す。
「と、とにかく、
ここでやられるわけには…、
…って、えっ……!?」
そんな中、ゼクウは追撃を仕掛けるどころか、
オレたちから離れ始めていた。
「????」
<何で…何で下がっていくんだろう?>
「さ、さぁ…。」
オレたちは予想外の展開に、
戸惑うしかなかった。
さらにゼクウは遠ざかる。
そしてそのまま、
「ゼクウの動きが……。」
<……止まっちゃった。>
ゼクウは動きを止めた。
―――ゼクウ・コックピット内―――
”アルゴ”の左腕が宙を舞った瞬間、
軍教官アリーシャ・レリウスは、
我に返った。
「…危なかった。」
レリウスは狭いコックピット内で、
一人狼狽した。
理由は、アルゴからこの日初めての反撃を、
受けたことではない。
アルゴの反撃に対し、
条件反射で想定外の攻撃を加えてしまった。
そのとっさの攻撃が、
もう少しずれていれば、
アルゴのコックピットを貫き、
少年の命を奪っていた可能性があった。
「ふぅ……。」
レリウスは息を整えた。
とどめを刺す絶好機だったが、
レリウスは無意識にアルゴから離れていた。
かなりの距離を取ったところで、
レリウスは機体の動きを、一旦止めると、
魔導無線に手を伸ばした。
―――アルゴ・コックピット内―――
オレたちが、
ただただ戸惑っていると、
『…ティターニア…聞こえるか?』
魔導無線から、
レリウス教官の声が届いた。
「…………。」
オレが何も言えずにいると、
<タツヤ返信!!>
すぐさまリゼルから注意が入る。
オレは急いでアルゴの無線交信を使い、
「あっ…、は、はい…聞こえています。」
あわてて答えた。
『あらためて告げる、
きさまに勝ち目は無い、
今すぐ機体から降りろ。』
レリウス教官からの、
今日2回目の降伏勧告だった。
「そ、それは……、
……出来ません!」
オレははっきりと答えた。
『何故だ!?』
教官は激しく問い返してきた。
「オレ……あっ、すいません、
自分は…、どうしても、
この決闘、負けるわけにはいかないんです。」
オレとレリウス教官の間に、
しばしの沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは教官だ。
『……そうか。』
と、一言だけ言うと、
そこで通信が切れた。
<レリウス教官、なんであの時とどめ刺さないで、
それで、また機体から降りろなんて言うんだろ。>
「さ、さぁ…そんなこと言われても、
オレに…わかるわけないじゃん。」
<…まっ、そっか。>
オレもリゼルも、
教官の行動をいまいち理解できなかった。
ここでオレは、
あらためてリゼルに話しかけた。
「そ、そうだリゼル…、
昨日は…ごめん。」
<どうしたの、急に…。>
「こ、これで最後かもしれないから、
ちゃんと…謝っておこうと思って。」
<タツヤ…。>
オレは胸のつかえが下りて、
とりあえずホッとした。
しかし、
<って、まだ終わってないんだから、
最後とか言わないでよ!!
まるで僕たちが負けるみたいに!!
ホッとしてる場合じゃないんだから!!!>
オレの余計な一言は、
リゼルに火をつけてしまった。
「ごめんごめん!!
だからって、そんなにキレなくってもいいじゃん。」
<大事な時だから言ってるんだよ!!
この決闘、絶対に勝つんだから!!>
オレはリゼルと言い合いをする中で、
さっきまでの不安は消えてしまった。
―――ゼクウ・コックピット内―――
「降伏は…せぬか、
リゼル・ティターニア、
どうやら、私が見くびりすぎていたようだ。」
レリウスは、
コックピットのモニターに映る、
アルゴを見つめた。
「まさか、完全に性能で劣る機体ながら、
ここまでやるとは…、
相当な…腕前だ。」
レリウスはこの戦いを振り返り、
少年の評価を再考せざるを得ない。
「しかし、操縦技術だけが、
パイロットに求められる資質ではない、
だからこそ、
私がここで引導を渡す!!」
ゼクウは再び動き出すと、
リゼル・ティターニアが搭乗するアルゴへ向け、
機体の速度を上げた。
―――アルゴ・コックピット内―――
ゼクウが土煙を巻き上げ、
猛スピードでこちらへ突進する。
ビィィィィィ!!!ビィィィィィ!!!ビィィィィィ!!!
その時、
コックピット内に聞き覚えのある、
警告音が鳴り始め、
モニターには≪警告≫の文字が点滅する。
「え”――――っ!!!
こんな時に!!!」
<ルーンリアクターが限界!
きっと、負荷かけ過ぎちゃったんだ…。>
「オ、オレ悪くないよ…、
だってそうでもしないと、
まともに戦えなかったじゃん。」
<そんなことわかってるよ!
別にタツヤを責めてないでしょ!!>
「と、とにかく…、
もうオレたちには、時間がない…。」
<うん、決闘の勝敗は…、
……次で決まる。>
「………ふぅ。」
オレは操縦桿を強く握りしめた。
「最小限の動きで、
…勝負を決める。」
そして、オレはゼクウを迎え撃つため、
”居合”の構えを取った。
―――演習場・管制塔―――
演習場を見つめる、
リンド・ブルムの生徒たち。
「ちょっと何、あの構え!?」
リコは、見たことのない構えに、
驚きの声を上げる。
「ふーん、ずいぶんと思い切ったな。」
クラヴィッツ兄弟、弟のトロイは、
その構えに感心し、
「なかなか面白いじゃん、
捨て身のカウンターってわけだ。」
兄のデュロイは面白がった。
―――特別貴賓席―――
リゼルたちの奮闘を、
高所に設けられた特別貴賓席から見守る、
領主ミルファ・ダリオンは、
隣に座る軍学校新校長サンダース・ヒルへたずねた。
「ねぇサンダース、
あのチビに勝ち目はありそう?」
「普通に考えれば勝ち目はないでしょう。
しかし、先ほどのミルファ様の話、
もしそれが事実ならば、可能性は有ります。」
「……ルーンリアクターの、
……オーバードライブ。」
ミルファはサンダースからの返答に、
ぼそっとつぶやく。
同じく貴賓席に座る、
侯爵将軍ギル・ドレは、
「ようやく終局か、
獲物は獲物らしく、
さっさと狩られればよいものを…
まったく、滑稽な構えなどしおって、
見苦しい…。」
最後まで決闘にケチをつけなければ気が済まない。
「そうですとも、
まこと往生際が悪いですな。」
横にいる取り巻きのリトマイケ中将は、
わかりやすく同調した。
―――アルゴ・コックピット内―――
ゼクウが至近距離に迫る。
ビィィィィィ!!ビィィィィィ!!ビィィィィィ!!
コックピット内では、
相変わらず警報音が鳴り響き、
モニターには≪警告≫の文字が点滅している。
<タツヤ…。>
「リゼル…。」
オレは左目(FCS-EYE)に浮かぶ照準と、
迫り来るゼクウが重なるタイミングを図る。
ゼクウは近づくにつれ、
今回も不規則な挙動を始める。
しかし、オレたちは慌てなかった。
冷静にゼクウの動きを見定める。
そして、照準とゼクウが重なる。
<「今だ!!!」>
オレたちはハイヒート・グラディウスを、
超速で振りぬいた。
―――ガキィィィィィン!!!!!
レリウス機の右腕が飛んだ。
<「…!!?」>
と同時に、モノ凄い衝撃が、
オレたちを襲った。
―――軍学校・第一機兵演習場―――
決闘会場である軍学校・第一機兵演習場は、
この日一番の大歓声に包まれた。
演習場中央、重なる2体のライデンシャフト
アルゴとゼクウ。
アルゴの振り上げたハイヒート・グラディウスが、
ゼクウの右腕を斬り飛ばすも、
ゼクウの左腕から伸びたヒドゥン・ブレードが、
アルゴのコックピット脇を貫いた。
ゼクウがアルゴに突き刺さった、
ヒドゥンブレードを引き抜くと、
アルゴは崩れるようにして、
大地へ両膝をつき、動きを止めた。
演習場を取り囲んだ大歓声は、
万雷の拍手へと変わっていった。
―――特別貴賓席―――
「……負けちゃった。」
機兵決闘の壮絶なラストに、
ミルファは呆然とする。
「…(オムルどの、申し訳ない)…。」
サンダースは、
オムルへの謝罪の言葉を、
心の中でかみしめた。
ミルファやサンダースとは対照的に、
リトマイケは興奮し、
観客と同じように拍手喝采をゼクウに送る。
ギル・ドレは、
「ようやく…終わったか。
まったく、時間のかけすぎだ。」
言葉とは裏腹に、いやらしく笑った。
ミルファは、そんなギル・ドレたちの姿に、
いらだちを覚えた。
「…!?」
その時、ミルファは、
アルゴから発せられる不安定な魔力を感知した。
「ま、まずい…!!」
ミルファはすぐに席を立ち、
演習場へ向かう。
「そんなに慌てて、
いかがなされました。」
サンダースは
冷静にミルファへ付き添った。
ミルファは早口で、
「教官の最後の攻撃で、
アルゴのルーンリアクタが損傷してる、
この感じだと…いずれ爆発する。
急いで機体を魔導障壁で囲わなきゃ!!」
サンダースへ状況説明をする。
「それでしたら、
軍所属の魔導士が待機しておるはずです、
奴らに任せては。」
「それはわかってるけど、
十分な人数が確保出来ていないと思うから、
ボクも参加する!!」
「あまり無茶をなさらんでくださいよ。」
「わかってるって!」
ミルファは演習場内で停止するアルゴへ向かった。
―――第一機兵演習場・簡易観客席―――
「ラストすごかったな!!」
「学生はあんな機体でよく戦ったよ!」
「まぁ、予想通りの結果だったか。」
「僕、将来絶対パイロットになる!!」
演習場の周囲に設けられた観客席では、
千を超える観客が、壮絶な決闘の結末に、
いまだ興奮冷めやらぬ様子だ。
そこへ、軍学校の教官たちが駆け寄り、
「みなさん、この場からの退避をお願いします!!」
観客の避難誘導を始めた。
「万が一のための避難です、
慌てずに前の人についていってください。」
「走る必要はありません、
落ち着いて移動してください
「小さな子は、出来る限り抱き上げるか、
おぶってあげてください。」
その中にはリンド・ブルムの生徒たちの姿もあった。
サンダースは遅れて観客の誘導に加わった。
―――演習場・アルゴ周辺―――
演習場、停止したアルゴ周辺では、
軍所属の魔導士たちが、
アルゴを中心に、不安定な魔力の拡散を防ぐため、
結界の印を詠唱している。
その後方で盾を構えた複数のツヴァイが、
さらに取り囲む。
アルゴの周囲に、
幾つもの魔法陣が浮かび上がる。
浮かび上がった魔法陣は、
巨大で半透明な魔導障壁へ姿を変え、
アルゴを取り囲んでいく。
その現場へミルファが到着した。
「ボクもやる!!」
すぐにミルファは詠唱を始めた。
ミルファがつくる魔導障壁は、
他の魔導士が作るものに比べ、
はるかに分厚く、高密度だ。
詠唱中、そばにいる若い男の魔導士が、
ミルファへ尋ねてきた。
「ミルファ様、いかがですか、
ルーンリアクターは制御可能でしょうか?」
「うーん、完全に抑えこむのは難しそう。」
ミルファの顔は険しかった。
若い男の魔導士はさらに尋ねた。
「ということは…。」
「爆発は……避けられないかな、
あとは、魔導障壁内で、
爆発をどの程度まで抑え込めるかが、カギになる。」
「でしたら、ミルファ様、
万が一のため、この場からのご避難を。」
若い男の魔導士はミルファに避難を促した。
魔導士たちの詠唱によって、
幾重にも重ねられる魔導障壁だが、
内側から次々とヒビが入り、
割れてしまっている。
その状況に、ミルファは、
「もっと魔導障壁を作り出して!!」
魔導士たちへ指示を出しつつ、
自らも分厚い魔導障壁を作り出す。
その光景を目の当たりにした、
別の年配の女の魔導士は、
「さすがはミルファ様、
外部への爆発の衝撃は防げそうです。」
安堵の声を上げた。
ミルファはそう言われて、
「これぐらい出来て当然。」
まんざらでもない。
「そういえば、パイロットのチビは…
誰か見た?」
その問に対し、年配の女の魔導士は、
「パイロット…ですか?
おそらく…まだコックピットの…中かと。」
口ごもりながら答えた。
「えっ………!?
ちょっと待ってよ、あのチビ、
まだコックピットから出てきてないの!?」
ミルファは、魔導障壁を作るのを止め、
アルゴへ向け走り出していた。
「ボクが助けにいく!!」
走り出したミルファの前に、
若い男の魔導士が立ち塞がった。
「どきなさい!!」
「ミルファ様、おやめください!!
今からでは危険すぎます!!!」
ミルファは、
その制止を振り切りアルゴへ向かった。
「ミルファ様!
お戻りください!!」
その声を無視して、
ミルファは走った。
その時だった、
アルゴのルーンリアクタから、
強烈な光が放射状に放たれ始めた。
「な、何が起こったの…。」
光はどんどん強まり、
ミルファはアルゴを直視出来なくなる。
と同時に、大地は揺れ、地響きが轟く。
さらに強まる光は、
アルゴを完全に包み込んだ。
ミルファは何が起こっているのか、
まったく理解できなかった。
しばらくすると、大地の振動は止み、
徐々にアルゴを包んでいた光は弱まっていった。
「……何…これ…!?」
光が収まると、
ミルファの目の前には、
見たこともない、
異様な”ライデンシャフト”が、
そびえたっていた。
次回
決闘はまだ終わっていなかった…!?
突如としてミルファの前に姿を現した、
謎のライデンシャフト…その正体は?
機体に取り残された、
リゼル・ティターニアの命運は…?




