その名は魔導機兵(ライデンシャフト)2
終わりの見えない説明を止めるべく、
オレは恐る恐るリゼルへ話しかけた。
「あ、あの…ちょっといいかな…。」
<もう、せっかく人が説明してあげてるのに何?>
リゼルは切れ気味に話を止めた。
「簡単な説明じゃ…なかったっけ?」
<このぐらいは簡単に理解できるでしょ。>
「えーと…ま…まぁ…。
今日のところは、
このぐらいで大丈夫……です。」
<ふーん、そっか。>
リゼルは話しを途中で止められて、
少し不満そうだった。
「と、とにかく、
その”ライデンシャフト”が、
とんでもなく凄いってことは、
わかったから。」
<ホントにわかってる?>
「も、もちろん…、
そのすごい兵器の”ライデンシャフト”が、
この大陸に平和をもたらしてるんでしょ。」
<あれ、言ってなかったっけ?
今も、戦争続いてるよ。>
リゼルはごく普通に答えた。
「え…………、
今も…戦争中…。」
<うん、このシルドビス大陸では、
長い間ずーっと戦争してるんだ。
僕が生まれるはるか前からね。
戦ってるのは
僕たちがいるフィレリア王国と、
ギャラス帝国。>
「せ、戦争ってことは…、
その”巨大ロボット”が、
いたるところで暴れまわるの!
それって、すごくヤバいじゃん!!」
オレの中で一気に不安が高まる。
<そんなに心配しなくても大丈夫だよ、
めったにないから。>
「めったに、ってことは、
絶対ないとは言い切れないじゃん。」
<さっきも説明したけど、
うちの村は、地図にも載ってないような小さな村だから、
帝国軍に特別狙われることはないし、
村が巻き込まれるような、
大きな戦闘は何十年も起きてない、
ってじいちゃん言ってたから、大丈夫だって。>
(そ、そうなのか…、
じゃ、じゃあ、今のところは、
そんなに心配しなくてもいいってことか…。)
とりあえずオレは、
いったんネガティブな想像をやめた。
<”ライデンシャフト”について、
もっと詳しく知りたかったら、
そこに関連する書物が
たくさんあるから、読んでもいいよ。>
あたりを見渡すと、たくさんの書物が、
ほこりを被って積みあがっている。
オレは、その中の、
たくさんのメモが差し込んである一冊に目がとまった。
そして、その本を手に取って開いてみる。
パラパラパラ
(わ…、うわー!!
すごい…、読めてる!)
本に書いてある文字が違和感なく、
すんなり読めた。
異世界の文字が、
慣れ親しんだ言葉のように認識できる。
それは、リゼル少年の肉体に、
オレの意識が宿ったことで起きた、
特殊現象なのだろう。
(やったー、異世界の文字が読めるスキル、
ゲットした!!)
オレは近くにある別の本に手を伸ばす。
その時だった。
<その本はダメ!!>
リゼルは慌てた様子でオレを止める。
(えっ……、何で…?)
オレが構わずその本を手に取ると、
<…それ…、僕の日記…。>
リゼルは恥ずかしそうにオレに告げた。
オレは無理やり読んだら悪い気がして、
リゼルの日記を床に置いた。
そして、最初に手に取った本をもう一度手にした。
最初の本のタイトルは、
”現代ライデンシャフトの進歩と未来”、
著者サイ・クラウン博士とある。
一章 ”現代ライデンシャフトに求められる、理想の性能とは?”
一節 まず、ここでは装甲性能について解説する。
打撃、斬撃、砲撃、及び魔導砲撃に耐える装甲性能について。
王国軍が運用する
汎用ライデンシャフトの装甲には、
一部に白銀鋼が採用され…。
パラパラ
この白銀鋼は、
軍の定めた「衝撃耐性」、「爆裂耐性」、「高熱耐性」、
それぞれの試験において、
非常に優れた数値を示し…。
パラパラ
しかし、高水準の耐久性能を誇る反面、
白銀鋼はその重量が大きな課題として残された。
白銀鋼装甲を施された機型は、
「機動力」、「旋回性能」、
の低下が顕著だった。
それらに対する解答として、
王国科学院が導き出した答えが、
「シルフィ二ウム鋼材」の改良である。
我々は、加工技術の革新に取り組み…、
オレは先のページも読んでみる。
「ウィザードシステム(魔導演算機統制機構)」、
「ルーンレーダー」の搭載も、
戦略上、対戦域を拡大する上で必須項目といえる。
中距離戦から拠点制圧までを想定した、
汎用的兵装「魔導砲」をベースにし、
支援用、強襲用への換装が容易に可能な応用性を備えた機体。
それこそが現代ライデンシャフトに求められる性能だといえる”
「あっ……………。」
(…あの時、暗闇で聞こえたのは、
この本の内容だ………。)
オレは真実を知ってしまい、
呆然とする。
(はぁ~ぁ……、
すごい異世界スキル、
手に入れたと思ったのに、
全部オレの勘違いか…。)
オレはわかりやすく、
落ち込んだ。
<…ねぇタツヤ、大丈夫?>
「あは、あははは…、
はぁ…、あんまり大丈夫じゃない。」
オレは幼いリゼル少年の気遣いに、
つい泣き言をもらす。
(はぁぁぁあ……、
もう転生しちゃったのに…、
全然強力なスキル手に入れてない。)
<なんでそんなに落ち込むの?
それと、さっきから言ってる、
スキルって何?>
リゼル少年は転生したオレの不安を、
いまいち理解していないようだった。
オレは今の状況を、
リゼルに少しでもわかってもらうため、
現在判明している事実を口に出してみることにした。
「この体の元の持ち主、
リゼル・ティターニア君12歳病み上がり。
左目を負傷中。
好きなものは、
巨大ロボット”ライデンシャフト”。
オレは、そんなリゼル君の体を
借りることになった。」
リゼル少年はオレの独り言を黙って聞く。
「オレが今のところ入手したスキルは、
この世界の文字が読める、………ぐらいだ。
ちなみにスキルってのは、
特殊技術とか特殊能力と考えてもらえばいいかな。」
<ふーん、特殊なチカラかぁ。>
「そう、すごい力をたくさん手に入れてたら、
生活は楽になるし、簡単に活躍できるし。」
<そんなのズルじゃん。>
「は…はっきり言うね。」
<じいちゃん、いつも言ってるよ、
何かを手に入れたかったら、
とにかく必死でやりなさい、って。>
「う………。」
オレは思いがけず、
12歳の少年に説教された。