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レリウスの覚悟

―― 前回までの簡単なあらすじ ――


 主人公リゼル・ティターニア(ヒビノタツヤ)は、

 フィレリア王国・アルレオン領、

 基地付属軍学校へ編入した。


 アルレオン軍学校新校長に就任した、

 将軍サンダース<ベルディア>ヒルは、

 着任の諸行事が済むと、

 パイロット養成クラス、

 ”リンド・ブルム”の剣術授業を視察した。


 そこでサンダースは、

 リゼル・ティターニアが、

 ボコボコに打ちのめされる姿を目撃した。









――アルレオン軍学校・食堂前掲示板――



 新校長がリンド・ブルムの授業を視察した翌日、

 軍学校食堂の掲示板に一枚の通知書が張り出された。



”明後日 午前9時より

 機動第一演習場にて、

 機兵決闘を、以下の両名により執り行う”


 アリーシャ・レリウス大尉(リンド・ブルム教官)

 リゼル・ティターニア(リンド・ブルム生徒)








――アルレオン軍学校・校長室――


 時は一日さかのぼり、

 剣術の授業が終わったばかりの校長室。


 その校長室の前に、

 リンド・ブルム教官、

 アリーシャ・レリウスの姿があった。


「アリーシャ・レリウス大尉です。

 将軍、入室許可をお願いいたします。」


 レリウスは毅然とした声で許可を求めた。


「入れ。」


 サンダースが短く告げると、

 レリウスは緊張した様子で校長室へ入り、

 サンダースへ向かって敬礼をした。


 席を立って出迎えたサンダースは、

 レリウスへ答礼をし、再び椅子へ腰を下ろした。


「先ほどは授業の解説ご苦労であった、

 おかげでパイロット候補生たちのことがよくわかった。」


「恐縮であります。」


 レリウスは背筋をまっすぐ伸ばし、

 サンダースと対峙した。 


 サンダースは机の上に置かれた煙草入れへ手を伸ばし、

 中から一本取り出すと、レリウスへ勧めた。


「将軍お気遣いありがとうございます、

 自分はタバコをやりませんので、

 けっこうです。」


 レリウスはハッキりと断った。


「…そうか。

 率直な物言い大いに結構。」


 サンダースは差し出した煙草に火を点け、

 ゆっくりと口へ運んだ。


 レリウスは無言でその様子を眺めた。


 サンダースはゆっくりと煙草を吸い、

 大きく煙を吐いた。


「それで、わざわざ何をしにこちらへ参った、

 ワシとしては、大尉からのデートの誘いであれば、

 嬉しいのだがな。」


 サンダースは真剣な顔つきでレリウスを見つめた。


「………。」


 サンダースの意地悪な問いかけに、

 レリウスは何も答えられなかった。


「はっはっは、冗談だ。」


 サンダースは茶目っ気たっぷりに笑った。


「………。」


 ここでレリウスは経験したことのない、

 凄まじいプレッシャーを感じた。


 サンダース自身は笑っていたが、

 レリウスは試されているよう気がしてならなかった。


 今、目の前にいる相手は、

 伝説のパイロットにして、

 身分を超えて将軍にまで上り詰めた王国の英雄、

 レリウスが緊張するのも、当然といえば当然だった。


 レリウスは異様なプレッシャーの中、


「…お話があります。」


 話を切り出した。


「…だろうな。」


 レリウスの真剣な態度に、

 サンダースから笑みが消えた。


「大尉、一応確認しておくが、

 誰に向かって言っているか、

 わかっておるのか?」


 その声に先ほどまでの明るさは微塵もなく、

 低く重い口調に変わった。


「…はい。」


 レリウスは圧を感じながらも、

 何とか声を絞り出した。


「その心意気は買う、

 しかしだ、今ワシは真面目な話をする気分ではない、

 部屋から出て行きたまえ。」


 言い終わると、

 サンダースはレリウスから視線を外し、

 手にした煙草を灰皿に押し付けた。


「………。」


 レリウスはその場を動かなかった。


「大尉、何度も言わせるな、

 出て行きたまえ。」


 サンダースは笑顔でレリウスを促した。


 レリウスは歯を食いしばり、

 身体をひるがえして、

 校長室のドアへ向かった。


 ドアへ向かいながら、

 レリウスは自分の新人時代を思い出した。






―― レリウスの回想 ――



 軍学校を卒業したアリーシャ・レリウス、

 新人の彼女が配属されたのは、

 王国南部、帝国軍と激しい戦闘を繰り返していた、

 カランコル地方アリスト基地・機兵守備隊。

 

 レリウスが配属されたアリスト基地は、

 度重なる帝国軍の侵攻を受けながらも、

 守備隊の奮闘により、攻撃をことごとく跳ね返していた。


 レリウスが基地へ着任して、

 数日が経過した。


 この日、基地では、

 新人隊員による実機演習がおこなわれた。


 レリウスはライデンシャフト・”ブルージュ・EINS(アインス)”へ搭乗し、

 先輩隊員たちから手洗い歓迎を受ける。

   

 この演習でレリウスは、

 先輩隊員たちと互角以上に渡りあった。

 しかし、上官はレリウスの操縦の癖を見逃さなかった。


「退くなアリーシャ!!」


 上官は後退ばかりするレリウスの戦い方を、

 厳しくいさめた。

 

 それから数週間が経過。


 レリウスはアリスト基地東部に位置するビウ平原に、

 最終防衛ラインを守るライデンシャフト部隊の一員として

 戦闘に参加していた。

 

 数か月ぶりとなる大がかりな帝国軍の侵攻である。


 アリスト基地機兵守備隊を上回る、

 帝国軍ライデンシャフト部隊が、

 第一、第二防衛網を突破し、

 レリウスたちのいる最終防衛ラインに迫っていた。


 レリウスは、


「た、隊長、

 戦況は明らかに自軍不利な状況です、

 ここは一旦引いて基地に立て籠もり、

 時間を稼ぐのが得策かと。」


 新人ながら進言した。


 それに対し上官は、


「黙れ!!

 我々は王国の盾だ、

 盾は敵を弾き返してこそ盾なのだ!!

 退くことは許されん!!」


「隊長!お言葉ですが…。」


「黙れ!!

 必ず帝国を押し返す!!

 守備隊、斬り込むぞ!!

 我に続け!!」


 劣勢の中、

 レリウス属するアリスト機兵守備隊は、

 守りの陣形を崩し、一斉に機体出力を上げ、

 帝国軍ライデンシャフト隊へ突進した。



 結果としてこの判断が功を奏し、

 多大な損害を出しつつも、

 アリスト基地機兵守備隊は帝国軍を退けた。


 基地へ戻ったレリウスを待ち受けていたのは、



「アリーシャ・レリウス、

 勝手な発言に対し罰を与える。

 そこへ立って、歯を食いしばれ。」


 上官による厳しい体罰だった。


 上官の拳がレリウスの無抵抗の顔面へ飛んだ。


「………。」


 一発、二発、三発


 レリウスの口や鼻からは、

 鮮血がこぼれ落ちた。


「よいか、我ら機兵守備隊は、

 カランコル基地最後の砦、

 決して退くことは許されん、

 肝に銘じておけ。」


「……はっ。」


 レリウスは流れ落ちる血をふき取ることなく、

 顔を上げ、正面の上官へしっかりと敬礼をした。


 上官はポケットからハンカチを取り出すと、

 何も言わずレリウスへ差し出した。


 そして、ハンカチ手渡すと、

 何も言わずその場から立ち去った。







――現在・校長室 ――


 再び現在の校長室。


 レリウスは扉の前で立ち止まった。


「どうした。」


 サンダースの声に苛立ちが滲んだ。


「…退くなアリーシャ。」


 レリウスは自分に言い聞かせるようにつぶやくと、

 身体を反転させ、さらに一歩前へ出た。


「将軍、やはり言わせていただきます。」


 レリウスは覚悟を決めた。


 サンダースは、


「そうか…、

 それは相当な覚悟あってのことだろうな。」


 厳しい表情だった。


「覚悟はいつだって出来ております。」 






 ―― 再びレリウスの回想 ――


  レリウスの初陣からしばらく経った、

 アリスト基地機兵守備隊、夜間待機詰め所。 

 

 数名の隊員たちが、

 敵の襲来に備え簡素な部屋で待機していた。


 上官はレリウスの姿を見つけると、

 自分の近くへ呼び、


「アリーシャ、強さとは何だ。」


 問いかけてきた。


「つ、強さですか…。」


 レリウスは唐突な問いに、

 すぐに返答できなかった。


「そうだ機兵戦における強さとは何だ。」


「機兵戦における強さですか…。」


 レリウスは考えた。


 そして自分なりの答えを見つけた。

 

「やはり、パイロットの技能、

 ではないでしょうか。」


「なるほど、パイロットの腕か…。」


 上官はレリウスを真っ直ぐ見つめた。


 レリウスは自分の答えに、

 自信が無かった。


「ち、違い…ますか。

 では、パイロットの腕に加え、

 機体性能も大切だと考えます。」


 慌てて答えをを付け加えた。


「機体の性能…本当にそう思うか。」


 上官はさらにレリウス見つめた。


 レリウスは思わず視線を外した。


 すると、上官はゆっくりと話始めた。


「いいか、アリーシャ、

 パイロットの技量、機体のパフォーマンス、

 どちらも大きな要素であることに違いない、

 さらに数の多さも考慮せねばならん。

 しかし結局のところ、

 勝負を左右するのは、

 ”結束力の強さ”、

 そこに懸かっていると私は思う。」


「結束力の強さ…ですか。」


「今話分からずとも、

 お前が上の立場となればきっとわかる。」


 この時のレリウスには、

 いまひとつピンとこなかった。


 それから数か月が経過。 


 王国南部の政治的な状況により、

 アリスト基地は補給が滞る中、

 帝国の大がかりな侵攻を受けた。


 兵士たちの奮闘虚しく、

 基地守備隊は壊滅的な状況に置かれた。 


「アリーシャ、戦線を離脱しろ!

 お前だけでも生き延びるのだ。」


「嫌です、退きません!!」


「これは命令だ。」


「退くなと教えておいて、

 何を今さら…。」


「ただ退くのではない、

 伝令としてカヘラ駐屯地へ向かい、

 詳細な戦況を伝え応援を要請するのだ。」


「ならば私ではなく、他に適任者が…。」


「お前が適任者だ!!

 後退しながらの戦闘ならば、

 お前は守備隊一だ!!

 加えて若い、我らの分も生きるのだ!」


 レリウスは、


「了解しました!」


 唇を強く噛んだ。

 このやりとりを聞いていた他の隊員たちから、


「おいおい、オレ達まだ負けたわけじゃないぞ!!」

「アリーシャ心配するな、帰って一杯やるぜ!!」

「マズい戦況なんて今までもあったろ、ビビってんじゃねえ!」


 次々と威勢のいい言葉が湧いた。


 しかし、敵の進軍は止まることなく、

 守備隊は完全に包囲された。


 アリスト機兵守備隊は、

 レリウスの退路を確保するため、

 最期の戦いに臨んだ。


 レリウスは

 傷だらけの機体で、

 何とか生き延びたが、

 この戦闘で大怪我を負い、

 視力の大部分を失った。


 しかしレリウスにとって、

 それは大した問題では無かった。


 彼女にとって、

 絆を深めた多くの仲間、

 上官を失ったことが、

 最もつらい現実だった。


 その後、レリウスは

 故郷にほど近いアルレオン軍学校に転属となり、

 これから戦場に出る生徒たちを鍛える為、

 鬼教官となった。


 多くの仲間を失った時、

 レリウスは誓った、

 仲間に恥じぬように生きると。







――現在・校長室――


 再び校長室


「では、言ってみろ。」


 サンダースはレリウスを促した。


「リゼル・ティターニア、

 彼を今すぐ、”リンド・ブルム”から、

 他の兵科へ転籍させて下さい。

 あの少年はパイロットとして不適格です!!」


 レリウスはリゼルティターニアの転籍を願い出た。

 

「やはり…、そのことか。」


 サンダースは大きなため息をついた。 















お読み頂きありがとうございます。


次話の投稿は12月1日の予定です。

何卒、よろしくお願い致します。

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