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アリエス一行の調査 4

———シャペル村近くの森の中———


 突如、アリエスたちの前に現われた、

 正体不明のフード集団。 


 フードからのぞく彼ら彼女たちの顔や、

 腕、足、あらゆる箇所に、

 無数のタトゥーが彫られていた。


「…幻術使い。」

 カイルは小さな声でつぶやくと、

 即座に警戒態勢を取った。


 謎のフード集団と、

 カイルたちの間に不穏な沈黙が生まれた。


 そうこうしているうちに、

 倒れたフェンリルが、

 ゆっくりと起き上がった。


「!?」


 カイルはとっさにレ・アーダスを構え、

 フェンリルと対峙する。


 その時だった。


「”デナン”!」


 謎のフード集団の女性が大声をあげた。


 女の声に反応するように、

 フェンリルは動きを止めた。


「何故、貴様らが我の邪魔をする。」


 フェンリルの声には、

 怒りが滲んだ。


 大声を発した女性は、

 フェンリルの前に毅然と立ちはだかった。


「この場に、異様な魔力を感知した。

 どうやら、我らの目の前にいる者たちが、

 関係しておるようだ。

 それ故、お前に殺されては困る。」


 女は深くかぶったフードを下ろし、

 その下の素顔をカイルたちにさらした。

 顔中にびっしりとタトゥーが刻まれた、

 若い女だった。


 しかし、フェンリルは女を無視して、

 前へ進んだ。


 ”デナン”と呼ばれたフェンリルの怒りは、

 簡単には収まらなかった。


「いきなり姿を見せたかと思えば、

 変なことをぬかしおって。

 我の仲間が大勢あの者たちにやられたのだ、

 手出しは無用ぞ。」


 その姿を見た女は、

 何やらつぶやく。


「…大気に宿りし光の子らよ…

 我、そなたらを束ねる、

 今ここに(いかづち)となりて

 …ほとばしれ…。」


 女が宙で指を動かすと、


バリバリバリィ!!!!


 雷が再びフェンリルの近くへ落ちた。


「まずは話を聞け、

 いくつかの質問が済めば、我らは去る。

 その後はお前の好きにしてかまわん。」


 フェンリルは憮然としながら、

 歩みを止めた。


「それならば、さっさと済ませろ。」


「その前にデナン、

 お前は大きな勘違いをしている。

 この場の灰狼たちは氷漬けにされているだけで、

 完全には死んでおらん。

 おそらく、我らが治療すれば元通りになる。」


「…………。」


 フェンリルは黙ったまま、

 若い女を睨んだ。


「調べろ。」


 若い女が指示を出すと集団の者たちは、

 一斉に氷漬けにされたダークウルフの元へ散った。 


「どうだ。」


「はい、やはり仮死状態です、

 治癒可能です。」


 年配の男が答えた。

 

「これではっきりしたな。」


「…ではさっさと治せ。」


 フードの集団が治療を始めると、

 凍っていたダークウルフたちは、

 次々と息を吹き返した。


 すべてのダークウルフの治療が終わると、

 フェンリルはカイルたちへ顔を向けた。


「わずかばかり、命拾いをしたな、

 小さきものたちよ。」


 言い終わるとフェンリルは、

 ダークウルフの群れを引き連れ、

 森の闇へ消えた。


 フェンリルが去ると、

 謎の集団のリーダーらしき女が、

 話しを始めた。


「では、本題に入らせてもらおうか。」


 女はカイルの前へ歩み出た。

 

「先ほども言ったが、

 この場に異様な魔力を感知した。」


 女の視線はカイルの手にする、

 氷槍レ・アーダスへ向けられた。


 カイルは、


「異様な……魔力。」


 手にしたレ・アーダスを見つめた。


 その場にいるみなの視線がカイルの持つ、

 レ・アーダスへ集まった。


「これが、そうだというのか。」


 カイルは手にした氷槍を胸の前に掲げた。


「………!?」


 女はレ・アーダスをしっかりと確認すると、

 より険しい表情に変わった。


「王家に代々伝わる氷槍レ・アーダスじゃ。」


 カイルに代わり、

 アリエスが答えた。


「”王家”だと……、

 お前たちは…何者だ?」


 女はアリエスへ近づいた。


 そこへ、カイルが割って入る。


「その前に、そなたたちこそ何者なのだ!」

 

 女とカイルがにらみ合った。


「カイル!!

 今はこのようなことをしとる場合ではない!」


 アリエスが叫んだ。


「我は、王家親衛隊・隊長アリエス・フィズ・フィレリア、

 貴公らに頼みがある。」


 アリエスは自身の身分を女へ伝えた。


「…殿下。」


 カイルは複雑な心境だった。


「カイルよ、我らには時間がない、

 わかっておるだろう。」


 アリエスはルカを抱きかかえたまま、

 カイルを制した。


 女はアリエスへ近づく。


「時間がないか…、

 それはおぬしの腕の中におる兵士のことか。」


 女はアリエスを見下ろした。


「そうだ。先ほどの狼たちのように、

 我が兵士の治療もしていただきたい。」


 アリエスは深々と頭を下げた


「殿下!顔をお上げください!!」


 カイルはアリエスの元へ駆け寄った。


「カイルよ!黙っておれ!!」


 アリエスはさらに頭を下げ、

 額を地面につけた。


「ほう……そこまでするか、

 しかし何故、

 こちらがおぬしらを助けねばならん。」


「貴様ら…!」


 普段、冷静沈着なカイルも、

 主の屈辱的な態度を目の前にして、

 いきり立った。


 そこへ、フードの集団の中から、

 背の曲がった年配の男が近づいてきた。


「若者よ、別にこちらはそなたらを、

 侮辱しておるわけではない。」


 女は黙って年配の男の話を聞いた。


「………。」


「こちらに協力する道理がない、

 お頭はそう言いたいだけなのだ。」


「道理じゃと、目の前で人が死にかけているのだぞ!!」


 アリエスは顔を上げ叫んだ。


 それを聞いた年配の男は、


「おぬしたち…、

 生きてこの森を出られると思っていたのか。」


 驚きの声をあげた。


「何じゃと!!」「何だと!!」


 アリエスとカイルは同時に声を上げた。


「この森に足を踏み入れた時点で、

 そなたらの運命はすでに決まっておったのだ。」


 年配の男は淡々と語った。


 その言葉を聞いたカイルは、


「なるほど…、

 だから助ける道理など存在しないと。」

 

 さらに怒りをにじませた。


「待て…。」


 二人の話にリーダーの女が割り込んできた。

 

 なにやら、女は思案しているようだった。


「…助けてやってもよい。」


「お頭!?」


 年配の男はリーダーの女の発言に、

 明らかに戸惑いを見せた。


「考えてみよ、

 こやつらは灰狼たちの命を奪わなかった、

 ならば、我らもこやつらの命までは取れぬのではないか。」


「しかし、森に足を踏み入れた者、

 特にこのようなよそ者を許すなどとは…。」


「私の決定が不服か?」


 女は男を睨みつけた。


「いえ………。」


 年配の男は黙った。


「本来、森への侵入者を始末するのは、

 デナンや灰狼たちの役目。

 その灰狼たちがああも見事にやられたのだ、

 この侵入者たちに、

 多少の敬意をはらってもよかろう。」


「…わかりました。」


 年配の男は素直に引き下がった。


 それを見たアリエスとカイルは安堵した。


「ただし、その槍は渡してもらう。」


「何じゃと!?」「何ですと!?」


 安堵したのもつかの間、

 アリエスとカイルに再び試練が訪れた。


 女は二人の困惑をよそに、


「そもそも、

 お前らを始末して手に入れるつもりだったからな。」

 

 簡単に言い切った。

 

 年配の男が補足する。


「残念だが、お前らに選択肢はないということだ。」


「くっ…。」


 カイルは唇を噛んだ。


 アリエスはほんの少し目をつぶった。


「カイル…、渡せ。」


 アリエスの答えは決まっていた。


「殿下!?」


 カイルはアリエスの決断に、

 ためらいを見せた。


 そんなカイルに対し、


「少尉の脈が弱まっておる…。」


 アリエスは腕の中のルカを見つめた。


 リーダーの女は、


「どうした、仲間を見殺しにするのか。」

 

 決断を迫る。


 年配の男がカイルへ近づく。


「お頭の気が変わらぬうちに渡したほうが、

 お前らのためだ。

 先ほどの雷を見たであろう、

 お前らに勝ち目などない。」


「………。」


 カイルは歯を食いしばり、

 レ・アーダスを筒の状態に戻した。

 

 そして、レ・アーダスを男へ渡した。


 女はそれを見て、


「治療してやれ。」


 フードの集団へ命令を下した。


 集団から年配の女性が一人、

 ルカの元へ駆け、治療を始めた。


 リーダーの女はその様子を確認すると、

 アリエスたちへ、問いかける。


「何故、森に入った。」


 カイルが口を開く。


「その前に貴殿らは何者なのです、

 私は親衛隊・副官カイル・ラドニック。

 貴公の名を教えていただきたい?」


 言葉は丁寧だが、

 口調には明らかな怒りが滲んでいた。


「悪いが、教えるつもりはない。

 それよりも我の問いに答えよ、

 何故、禁忌の森に足を踏み入れた。」


「………。」「………。」


 カイルとアリエスは互いを見合った。


 アリエスが小さくカイルへうなづく。


 カイルは森に入った事情を話し出した。


「ある兵士を探しています、

 ”グレン・グレアム”という中年のパイロットです。」


「………。」「………。」


今度はリーダーの女と年配の男が顔を見合わせた。


「知っておるのか。」


 アリエスはすかさず二人へ問うた。


「………。」「………。」


 二人は何も答えなかった。


 カイルは、


「答えるつもりはありませんか…。」


 怒りをにじませながらつぶやいた。 


 年配の男は、


「その通りだ。」


 表情を一切変えることなく言葉を返した。


「治療終わりました。」


 ルカの治療に当たっていた、

 年配の女性が声を上げた。


 それを聞いたリーダーの女は、


「では、ただちに森から出るがよい。」


 カイルたちの元を離れ、

 フードの集団へ戻っていった。


 最後に、年配の男が口を開いた。


「道は示してやる。」


 そう言い残し、

 フードの集団は一瞬にして、

 アリエスたちの前から姿を消した。


 フードの集団が消えると、

 森の中に小さな光の道が現れた。



 残された三人は、光に沿って森の中を歩いた。



 ◇



 歩き出してしばらくは、

 誰も何も話さなかった。

 

 道中、ルカ・ミトイは、

 神妙な面持ちを崩せずにいた。


 彼女には二人に、

 どうしても伝えたいことがあった。

 

 しかし、アリエスとカイルの二人が、

 明らかに気分を害していることは、

 二人の顔を見れば一目瞭然だった。


 それでも、伝えなければ…。

 

 彼女は意を決して、

 二人へ話しかけた。 


「あ、あの…、

 こたびの件、

 何とお詫びをすればよいか…。」

 

 ルカは懸命に声を絞り出した。 


「気にするでない。」


 アリエスからの淡泊な返答だった。


 アリエスにそう言われても、

 ルカの謝罪は終わらなかった。


「大変貴重なモノを、

 私のような者の為に…、

 本当にすみませんでした!」


 ルカはひたすら頭を下げた。


「頭を上げよ、

 民あってこそのフィレリアじゃ、

 よく亡き兄上に言われたものよ。

 もう一度言うぞ、気にするでない。」


 アリエスは優しく笑った。


「あ、ありがとうございます!」


 ルカの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。


「それから、まだお伝えしたいことが…。」


「まだあるのか…。」


 アリエスはこの状況で話を続けるルカに対し、

 半分笑い、半分呆れた。


「グレアム中佐のことなのですが…。」


「!?」「!?」


 グレアムの名を聞き、

 アリエスとカイルに緊張が戻った。


「”鷲鼻の男を探せ”と、

 その男がグレアム中佐を、

 連れ去ったみたいです。」


「どういうことです?」


 これまで黙って、

 二人のやりとりを聞いていたカイルが、

 素早く反応を示した。


「治療している女性から、

 直接意識に語り掛けられたんです。」


 アリエス、

「魔法…か。」


 カイル、

「あるいは、幻術の類でしょう。」


 それぞれ、考えを口にした。


「ただ、鷲鼻の男といわれてもな…。」


「それだけでは探し出すのは困難でしょう。」


 二人は困惑するしかなかった。


「顔に大きなあざのある、

 中年の大柄な細身の男です。」


「多少詳しくはなりましたが…。」


 カイルは出来る限り、

 二人に失望を悟られまいと、

 感情を表に出さないよう努めた。

 

 ルカはそれでも続ける。


「顔も見ました!

 私の意識に直接その人物の姿が浮かんだんです。」


 それを聞いたカイルは、


「唐突ですが少尉!絵は得意ですか?」


 すぐに確認をせずにはいられなかった。 


 ルカは少し照れながら、

「は…、はい、

 基地ではよく仲間の、

 似顔絵を…描いていました。」


 アリエスとカイルは視線を合わせると、

 無言で強くうなづいた。


「基地に戻り次第、鷲鼻の似顔絵の作成じゃ。」


 三人の足取りが、はっきりと軽くなった。


「あ、、あと最後に…、

 こんなことも伝えられました。」


「なんじゃ。」


「”娘を助けてほしい”と。」







三人が森の出口まで来ると、


「アリエス様~!!」「ルカ~!!」


 帰りが遅いアリエスたちを心配し、

 捜索に出ていたレイクロッサ基地の隊員たちの声が

 三人の耳にしっかりと届いた。








———フィレリア王国・アルレオン・上空———


 巨大な月明かりに照らされた、

 真夜中のアルレオン。


 その上空に、

 北の方角から一羽の大ガラスが飛来した。





 



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