その名は魔導機兵(ライデンシャフト)1
────前回のあらすじ────
不慮の交通事故により、命を落とした
この物語の主人公”日比野達也”。
彼は異なる世界で、隻眼の少年
”リゼル・ティターニア”に転生し、
目を覚ました。
しかし、主人公”ヒビノタツヤ”は、
ある困った問題に直面する。
本来の体の持ち主、
リゼル・ティターニア少年の意識が、
転生した体に残っていたのである。
ここから、
ヒビノタツヤとリゼル・ティターニアの
不思議な共生関係が始まる。
────転生先の異世界・とある部屋────
「”屋根裏部屋へいこう!”
……と言われても……。」
オレは古ぼけた部屋を見渡すが、
部屋のどこを見ても、
屋根裏部屋へ通じていそうな階段や、
はしごらしきものは見当たらない。
(オレの聞き間違いか…、
まだ転生したてだし。)
オレがそんなことを考えていると、
<あぁっ、ごめんごめん!>
頭の中のリゼル少年が、
オレに話しかけてくる。
「どういうこと?」
オレはリゼルに尋ねた。
<ごめん、言いそびれちゃった!
屋根裏部屋へ行くには、
秘密の仕掛けがあるんだ!!>
「…仕掛け…秘密の…?」
<うん!>
「仕掛けって…、
何だろ…階段とか、
はしごが出る仕掛けがあるってこと?」
<そうそう、その仕掛けが、
あそこのタンスにあるんだ。>
オレは言われた通りに、
部屋のすみにある古いタンスの元へ行ってみる。
<タンスの上から二つ目、
真ん中の引き出しを引っ張ってみて。>
オレはリゼルに言われたとおり、
引き出しを引っ張る。
すると、
ガラガラガラ!!!
天井の板が開き、縄ばしごが落ちてきた。
「うわー!すげー!
忍者屋敷みたい。」
<忍者屋敷??>
「え、えーと…、
それは…、
説明すると長くなるから、
またの機会にしよう。」
<ふーん、ご都合主義ってやつだね。>
「ま、まあ……ね。」
(チックショー、
生意気なガキ!!)
<タツヤ、今何か言った?>
「えっ…いやぁ…、
その………。」
<…あのさ、タツヤが考えてること、
全部僕にはわかっちゃうって、
さっき説明したでしょ。>
(そ…そうだった。)
オレは気を取り直し、
縄ばしごをつかんで、足をかけた。
「うわー、想像以上に不安定ー!!」
縄ばしごを登るのは、
思っていたよりも大変だった。
オレは慣れない縄ばしごに悪戦苦闘するも、
どうにか登りきる。
屋根裏部屋に上がると、
薄暗い室内の隅っこに、
大小さまざまなガラクタが置かれていた。
(なんだアレ…。)
オレはそのガラクタの寄せ集めに近づいてみる。
まず目についたのは、
大きな一枚のガラス板だ。
ガラス板の前には、
ボロボロの椅子。
ガラス板や椅子の周りに、
いくつもの木箱が置かれ、
その木箱に鉄板が取り付けられている。
ほこりをかぶった鉄板をよく見ると、
見るからに手作りの計器類と思しきものや、
スイッチがびっしりと並ぶ。
それから、ガラス板と椅子の間には、
木の棒と針金で造られた、
レバーのようなモノが何本かある。
(なんだコレ…。)
<じゃじゃーん、これは、我が王国軍が誇る
第3世代型ライデンシャフト
量産機MLV-207・ブルージュ・ZWEIのコックピット、
再現版で───す。>
なかなかの勢いで、
リゼルが嬉しそうに説明してくる。
「第3世代型ライデンシャフト…!?
量産機…!?
ブルージュ…!?」
<これ、MLV-207・ブルージュ・ZWEIの
コックピットと全く同じサイズになってるんだって!>
「コックピット……、
なんで、そんなモノがここに?」
<じいちゃんが作ってくれたんだ。>
「じいちゃんが作った…、
そ、それって説明になってるようで、
なってないような気が…。
それにいきなり出てきた、
リゼルのじいちゃん、一体何者?」
<昔王国軍で整備兵をしてたんだって。>
「せ、整備兵……!?
いやいやいや!!
その前に…なんでオレたち、
普通にコックピットの話してんだろ…。」
リゼルは困惑するオレを無視して、
さらに続ける。
<じいちゃんの話だと、
ここについてる機器類は実物と同じサイズだって。
一番スゴイのは、
ウィザード・システム(魔導演算機統制機構)がちゃんと再現されてて、
スクリーンパネルに映像を映し出して練習もできるんだよ。>
「練習!?
じゃあ、このガラクタみたいなのが…、
ホントに動くの!?」
<もちろん、動くにきまってるでしょ!!
ねぇ、あのスイッチ押してみて。>
オレはリゼルに促され、
指示されたスイッチを押してみる。
「………。」
しかし、何の反応もなかった。
<……あれっ……!?。>
「『あれっ…!?』じゃないよ!
動かないじゃん。」
<おっかしいなー、どうしちゃったんだろ…。>
オレはその後、リゼルに執拗にせがまれ、
何度もスイッチを押してみるが、
結果は全く変わらなかった。
(……これホントに動くの?)
<う、嘘じゃないよ!!
いつもはちゃんと動くんだから!!>
(…………。)
強がるリゼルに対して、
オレはそれ以上何も言えなかった。
<じゃ、じゃあさタツヤ、右の壁見て。>
リゼルはおんぼろ装置を諦めたのか、
話題を変えた。
オレは言われるがまま、
右の壁面へ目を向ける。
そこには、一枚の大きな手書きのスケッチが張りつけてあった。
パッと見た感じでは、
甲冑を纏った人が描かれている。
オレは近づいて、
そのスケッチをじっくり観察する。
(へぇー、なかなか上手く描けてるじゃん、
甲冑もなかなかカッコいいし、
だけど何か違和感があんだよな……。)
オレはさらにじっくり観察する。
(………ちょっと待って、
こいつよく見ると、
背景の建物や木に比べて、
相当デカいんだけど…、
てことは人じゃない……。)
<これこそが、僕がずーっと話してる、
”魔導機兵”です!!>
「こ、これが、魔導機兵…。」
オレは思わず驚きの声をあげた。
「なんか”巨大ロボット”じゃん!?
じゃあ、さっきから話してたコックピットて……。」
それは、いたってノーマルな異世界転生を、
願っていたオレにとって、
想定外の代物だった。
<この絵は、軍の施設の近くに行って書いたんだ。>
リゼルは早速イラストの説明をしてくる。
(いやいやいや…、
ちょっと待てって。
ここは異世界。
異世界といえば、
剣とか魔法とかドラゴンじゃん…。
それがまさかの…
”ロボット”モノ展開…、
そんなはずない、
そんなはずない。)
オレは必死になって現実逃避を試みる。
(そ、そうだそうだ、
ここは結論を急いじゃいけない!!
一旦落ち着いて、きちんと確認しよう。
オレの勘違いってこともあるし…。)
オレは頭の中のリゼルに話しかける。
「あ、あのさ、ずーっと気になってたんだけど、
話に出てくる”ライデンシャフト”
”巨大ロボット”なのは一旦置いといて、
なんでこの世界には”巨大ロボット”が存在するの?」
<なんで存在するのか???
そっか、タツヤには、
そこから説明しなきゃいけないんだ。>
「ま、まぁ、この世界の予備知識ゼロなんで…。」
<タツヤのいた世界には、
”ライデンシャフト”存在しないの?>
「存在しない!!」
オレはキッパリ答える。
<へぇー、そうなんだ。>
「アニメとか漫画で、、
巨大兵器とか、ロボットは出てくるけど、
実際に動くヤツとなるとまだまだ。
人間サイズが動くだけでも、
スゴイことだから。」
<タツヤの元いた世界って…、
遅れてるんだね。>
(いや…遅れてるとか、
そういう問題じゃあないような気が…。)
<じゃあタツヤがわかるように、
簡単に教えてあげるね。>
リゼルは嬉しそうに説明を始めた――
<一番最初に発見された”ライデンシャフト”は、
はるか昔、このシルドビス大陸に存在した、
超古代文明が生み出した巨大な人型兵器なんだって。
昔は”神の使い”とか”聖神機”って、
呼ばれてたこともあるみたい。
その一番最初に発見された機体を、
他の”ライデンシャフト”と区別するために、
”ルーツ(始祖型)・オブ・ライデンシャフト”って呼ぶんだ。
そのルーツ・オブ・ライデンシャフトは、
伝説によると、
≪彼目覚めしは、大地が震え、
その歩みは、雷鳴の轟き、
その一振りは、森を薙ぎ、
その炎は、大気を焼く。
その姿……”万物を破壊せし神の如し”≫>
リゼルは続ける。
<その”ルーツ・オブ・ライデンシャフト”を、
長い年月、研究解析して、
姿形、性能、機能を模して造られたのが、
魔導機兵!!
あのスケッチにある、
巨大人型汎用兵器ってわけ。
今、僕たちの大陸で使われてる、
この応用型”ライデンシャフト”は、
”ルーツ・オブ・ライデンシャフト”
に性能面では全然敵わないんだけど、
戦争のやり方を大きく変えちゃったんだ。
その凄さっていったらね、
応用型”ライデンシャフト”で構成された一部隊(3~4機編成)で、
歩兵部隊一個連隊規模(1000名以上)をはるかに凌駕しちゃうんだよ。>
「は…はあ…。」
いきなりの講義に、
オレはかろうじて相づちを打つ。
<ライデンシャフトの登場で、
それまでの魔導兵、魔導騎士、歩兵部隊、騎兵部隊、
砲兵部隊を主力としてた戦争は時代遅れになっちゃった。
やっぱりさ、ライデンシャフトを説明するうえでかかせないのは、
圧倒的な装甲だよね。
熱耐性、爆破耐性、刺突耐性、斬撃耐性、
ほぼあらゆる攻撃に対して、
ばつぐんの耐性を持ってるんだから。云々……。>
気が付けば、リゼルの説明が延々と続いた。




