うさぎ--5--
「雪村さん…もう諦めなよ…」
空が暗くなってきても、菜子さんはうさぎを探し続けていた。
「やだ…絶対に嫌…!あのうさぎがいないと菜子…菜子…」
「どうしたの…?」
「あのうさぎがいなくなったら、菜子はどうやって毎日を過ごせばいいの!?」
…どういう意味だろう。
菜子さんは、ぬいぐるみがないと生活出来ないのか…?
ないと眠れない、とかかな…?
「寂しくて死んじゃうよ…」
寂しさを、ぬいぐるみで埋めているのか…?
「お兄ちゃん…」
「え?」
「お兄ちゃん…助けて…」
…僕は、顔も見た事がない『お兄ちゃん』に、嫉妬し始めていた。
「雪村さん」
「何…?」
「また、お兄さんに買ってもらったら…?あのうさぎのぬいぐるみ…確か結構汚れてたし…」
「…太田くん、よく覚えてるね」
…まずい…。
いつも遠くから見ていた事が、バレただろうか…。
「まぁ、感じてたけどね」
「へ?」
「でも、そんな事はいいの」
「はぁ…」
僕には、かなり重要な事なんですが…。
「お兄ちゃんは、もう菜子にうさぎを買ってくれたりなんてしないよ」
「どうして?」
こんな…中身はともかく見た目は可愛い女の子に…。
ベタ惚れのお兄さんの前なら、多分性格も良いだろうし…。
「どうしてって…」
「うん…」
「もう…もう絶対買ってくれるわけないの!!馬鹿!!大っ嫌い!!!」
そう言って、菜子さんは走って暗闇の中に消えていった。
…今更だけど、体は平気なんだろうか…。
それよりも、僕は一体何をしていたんだろう…。
失礼極まりない言葉を言われた上に、…これは僕が勝手にだが、こんな遅くまで探し物を手伝って…。
仕舞いには、意味も解らないまま『大っ嫌い』と言われてしまった。
…しかも、好きな女の子に。
泣きたい。物凄く。
しかし、虚しすぎて涙も出なかった。
そして、僕はやっと、普通に、普段通り家に帰った。
普段通り、部屋で漫画を読んだり、ゲームをして、ダラダラと当たり前の生活を送った。
その頃、菜子さんがどんな想いをしているかも知らずに。