うさぎ--3--
数分前、僕はいつも通り、家への近道である学校の中庭を歩いていた。
そこに、いつもとは違う何かを感じた。
視線。
何処かからの視線。
……上を見ると、僕がいつも見つめている顔があった。
雪村菜子さんが、3階の窓から顔を出し、地上の僕を見つめていた。
最初は思い違いかとも思ったが、
僕が見つめ返すと、菜子さんは乗り出して僕を見つめてきた。
確かに、彼女のその大きな瞳が、僕を見つめているのを感じた。
…だが、僕は彼女と話した事が一度もない。
話すどころか、ほんの少しも関わった事がない。
そんな僕を、彼女が見つめる理由が解らなかった。
しかも、わざわざ3階の窓から。
……理由が解らなかったので、僕は菜子さんを放っておいて帰る事にした。
僕を見ているというのは、もしかしたら僕の思いあがりかもしれないし…。
それに、こんなに離れた距離じゃ、話す事も何も出来ない。
僕は、僕を見つめていると思われる菜子さんの姿を目に焼付け、
普段通り歩き始めた。
…何歩か歩いたところで、後ろから鈍い音が聞こえてきた。
大きな、鈍い音。
草の上に、何かが落下したような音。
一体何事かと、振り向くと――
さっきまで僕が立っていた場所に、菜子さんが倒れていた。