召喚
「うわっ!なんだこの光」
「キャー!助けて!」
こうしてぼくたち2-Bのクラス全員が異世界に召喚された。
僕の名前は神野宵。青春は謳歌してないが高校二年生だ。謳歌はしてないが好きな人はいる。
ぼくたちは丁度二時間目の授業が終わり、先生が教室から出て行ったところで狙いすましたように召喚された。
みんなはこれは何だと騒いでいたが、僕は中学時代の黒歴史のおかげですぐに状況を理解することができた。
「いったたたた」
召喚されたと同時に僕の左にあった大きな石の柱に頭をぶつけた。
最初からなんてついてない。
僕らが召喚された部屋にはローブを被った魔法使いらしき人たちが僕らの周りを囲んでいた。
ローブの人たちの中に一人大臣ぽい人がいた。
例にもれず少し背の低いおじいさんだ。
「ここはどこだ!!俺たちは教室にいたはずだ!!」
立ち上がってその大臣ぽい人に大声を上げた。
こいつは如月陽。明るめの茶髪でチャラいと思われないギリギリのラインをついている。クラスの中心人物でモテる。
しかも、僕の好きな白瀬亜子さんの幼馴染でもある。
人生は不公平だ。
「ここはルーズリフェルト王国でございます。皆様はこの世界を救っていただくために召喚されました。」
「な、何を言ってるんだ!俺たちは何の力もない高校生だぞ!」
「少しお話を聞いていただけないでしょうか。」
ドレスを着てティアラを付けた見るからにお姫様が大臣ぽい人の後ろから出てきた。
僕にはこの先の展開が何となく読めた。
周りを見渡すと男どもは明らかに鼻の下を伸ばしている。
それは如月も例外ではなく。
「あ、申し訳ございません。名乗るのが遅くなりました。私はこの国の王女リーリア・ルーズリフェルトと申します。この世界は年々魔物が増えてきています。冒険者の方々にも討伐にあたっていただいているのですが、魔物は一向に減らず…。魔物を発生させている元凶の魔王を倒すには勇者様方のお力が必要なんです!どうか引き受けてはいただけないでしょうか。お願いします!」
王女は僕らに訴えかけるように話した後、深く頭を下げた。
僕はさりげなく周りを観察した。
皆、さっきまでの表情とは打って変わりやる気に満ちた表情をしていた。
「分かりました。初めてきた世界とはいえこの世界が滅亡するのを黙ってみていることはできません。俺たちに何かできることがあるならできる限りお手伝いしたいと思います。みんなもそれでいいよな?」
如月は決意を持った表情でこちらを振り返り、問いかけた。
待て待て。
さっきまでの話はどうなった。
予想はしていたが手のひら返しが早いな。
「いいぜ!」
「いいよ!この世界の人たちが死んでいくのをただ見ていることなんてできないよ!」
「ああ!」
こういう展開になったということはどうせ能力も持っているのだろう。
早めに確認しておこう。
僕は黒歴史をほんの少しだけ思い出して唱えることにした。
声に出さなくても大丈夫だよな?
......ステータス
唱えると目の前にウインドウが現れた。
うおっ。
やっぱり出るのか。
どうやら周りの人には見えていないようだった。
とりあえず上から見ていこう。
神野宵 17歳
名前と年齢が書いてあるのはまあ定石だな。
その下には...
HP 30
MP 10
...弱いよな?
HPなんて殴られたら一発で死ぬレベルな気がする。
僕の生命力が弱いってことなんだろうか?
次はスキルか。
スキル:火魔法・水魔法・風魔法・土魔法・光魔法・闇魔法…それぞれの魔法の使用が可能。LVが上がることによってそれぞれの魔法が進化する。MP消費5。LV1。
これは今は初級の例えば火球の魔法しか使えないけどLVが上がることによって上級の火の壁てきな魔法とかが使えるようになるってことだよな?
見た限り全種類使えるっぽいけど果たしてこれはいいことなんだろうか。
でも全種類使えるって言ったって2発しか打てないんだったらレベルが上がる前に死ぬって。
そのほかにもまだスキルがありそうだ。
隠蔽…他者から自分のステータスを隠すことが可能。MP消費なし。LV1。
隠すようなスキルも今のところないけどね。
MP消費がないのはありがたい。
なぜなら10しかない。
あとは最後のジョブか。
えーと、なになに。
厨二
シュン。
僕は瞬間的にステータスを閉じた。
なにやら幻覚が見えてしまったようだ。
心を鎮めよう。
深呼吸スーハースーハー。
よし。
僕はもう一度ステータスを開いてのそれを確認した。
うっ。やっぱり見間違えじゃなかった...。
そこにはこうあった。
厨二病…かっこいいセリフを唱えるとMP消費はそのまま魔法のレベルが上がっていなくてもセリフに応じて魔法の種類や威力が変化する。
グガァァァァ‼
僕の古傷をえぐるなぁぁぁぁ‼
僕は叫びだしたいのを何とかこらえた。
はぁ、はぁ。
ま、まあ最初の部分は置いといてそれ以外を見ればMP消費もないしすごく便利なジョブだと思う。
そう、最初のがなければ…。
でも別に声に出して唱えなくてもステータスだって大丈夫だったし。
ピコン。
ん?
僕はもう一度ステータスに目を向けた。
厨二病…かっこいいセリフを口に出して大声で唱えるとMP消費はそのまま魔法のレベルが上がっていなくてもセリフに応じて魔法の種類や威力が変化する。
ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁ‼
こんなスキル一生使えない。
封印だ!
厨二病なんてこの世でかかったことがばれてはいけない黒歴史なんだ。
ラノベのセリフを言ってみたり、自分は特別だと信じて疑わなかった。
今となってはイタすぎて昔の僕をぶん殴りたいほどだ。
発狂したいのをこらえて少し落ち着いてステータスを見るとジョブ欄の下にまだ何かあった。
称号…女神にからかわれた者
そうか。スキルの説明が変わったのは女神のせいか。
こんなスキル白瀬さんにバレたらひかれるに決まってる。
もう二度とあんな間違いは侵さない。
そうだ!
こういうときのために隠蔽があるんじゃないか!
称号と、ち、厨二病だけ隠蔽しよう。
僕は声に出さずに心の中で唱えて隠蔽した。
「では皆様のステータスを確認させていただきます。ご自身でステータスと唱えていただき、私にオープンと言ってお見せください。」
僕が一人で悶え苦しんでいた中、いろいろと話が進んだようだ。
それぞれがステータスと唱え、確認する。
「俺、魔法使いかよ。剣士とか前衛が良かったのに。」
「戦えるだけマシだろ。俺なんてまともなスキルなんて錬成くらいだぜ?」
「お前ら俺よりよっぽどマシ。俺、スキル1つしか持ってないしそのひとつが鑑定っていう全く戦闘に使えなさそうなやつだ」
鑑定なんてスキルもあるのか。
だったら僕の隠蔽も破られるかもしれない。
早く隠蔽のレベルを上げないと。
でも隠蔽のレベルなんてどうやってあげるんだろう?
「確認できましたでしょうか。それでは前の方から順にわたくしにお見せ下さい。」
最初は1番前にいた如月からだ。
「オープン。」
ステータス画面があるところ辺りに手をかざして唱える。
「おお!あなた様が勇者でございましたか!HPが300、MPが150とは!初期でこのポテンシャルの高さは見たことがありません。称号も我々とは違って女神に愛された者になっております。」
大臣は見せられたステータス画面に顔を近づけて興奮した様子で話した。
HP300って僕の10倍はあるじゃないか!
それに如月は魔法使いなわけでもなさそうなのに僕よりMPが多いとか反則すぎる。
しかも女神に愛された者ですか・・・。
僕とは天地の差だ。
頑張れ自分