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泣き出したグランさんをなだめるのは、それはもう!それはもう!!大変でした。

聖女様も何度も謝られましたし、シルワさんとおいらも両方から必死になってなだめましたけど。

ずっと毎日重労働で、手に入る食材も限られていて、そんななかでお腹をすかせて頑張って。

いつも平気そうな顔をしていたけど、グランさんだって辛かったんだなって、思いました。


聖女様は、本当に、悪意なんかこれっぽっちもなくて、ただ、美味しいスープを作ろうとしただけみたいでした。

まったく、こんな可憐な美少女つかまえて、暗殺者だなんて、シルワさんもひどいっす。

けど、あのスープが毒物だ、ってのには、申し訳ないけど、同意します。

ひとくち飲んだだけっすけど、おいらもなんだかお腹の調子がヤバイ感じになりましたからね。

お腹なんか滅多に壊したことのないこのおいらが、っすから。

いや、そりゃあもう、よっぽどのよっぽどっす。

これで、あのお椀全部飲み干していたらって考えたら・・・ぶるぶるぶる・・・恐ろしいっす。


しかしまあ、このスープのおかげで、オークたちがお腹を壊して、それで聖女様はご無事だったのかもしれない、って考えたら・・・ま、まあ・・・それはそれで、ありだった、ん、っす、かね?


っとまあ、なんだかなごんでしまいましたけど、よくよく考えたら、おいらたち、聖女様をここから救出しに来たんでした。

今日は、たまたま?聖女様はご無事でしたけど、明日もこのままご無事だとは限りません。

お腹の治ったオークたちが、今度はお前を食べてやるぅ~と聖女様に襲い掛かったら!

ぶるぶるぶる。そんなのいけません。

オークたちは、お腹を壊したのはお前のせいだ!と聖女様を酷い目に合わせるかもしれません。

やっぱり、こんなところからは一刻も早く逃げ出すに限ります。


おいらはそう聖女様に言ったのですが、聖女様は逃げ出すことにはあまり気が進まないようでした。


「なんでっすか?ここにいたら危険なんっすよ?」


おいら、泣きそうになりながら聖女様を説得しようとしました。


「お腹いっぱいになれば、オークさんたちもわたくしを食べようとはなさらないのではありませんか?」


聖女様はそう悲しそうにおっしゃいました。


「わたくしひとりをここのオークさんたち全員で分けたら、それこそ一口ずつもありませんでしょう?

 それよりも、みんながお腹いっぱいになるだけのご飯を作ってさしあげたらよいのではありませんか?」


「けど・・・流石のオークもその毒物はもう食べないのではありませんか・・・?」


シルワさんは困ったように首を傾げました。


「いや、そうやな。お嬢ちゃんの言うことも一理あるかもしれん。」


そう言ったのはグランさんでした。


「フィオーリでも一口でおかしな味やと見破ったもんを、オークたちはみんな全部飲み干したんやろ?」


フィオーリでも?

その言い方にはなにか引っかかるものを感じましたけど、とりあえず黙って話しの続きを聞きます。


「まあ、そのおかげで、あの有様なんでしょうね?」


シルワさんもうなずききました。


「それだけオークどもは飢えとったちゅうこっちゃ。」


おいらは意外なことを聞いたと思いました。


「オークたちが?飢えてるって言うんっすか?

 おいらたちにもろくな食べ物をくれないってのに?」


おいら、オークは毎日ご馳走食べてるって思ってたんっすけど。


「・・・オークは自分らで畑を作ったりせんからね。

 いっつも腹すかせて、そんで村を襲ったりするんや。」


グランさんは聖女様の大鍋を横目で見てため息を吐きました。


「そやのに、こんなによーけ、食材を無駄にするなんて・・・」


「すみません。」


聖女様はうなだれます。


グランさんも聖女様に悪気はなかったことはもう分かっているので、それ以上は言わずに、ふん、とひとつ荒いため息を吐きました。


「いや。あかん。やっぱ、あかん。これだけのもんを無駄にするなんて、そんなん許されへん。」


ぶつぶつと独り言のように呟きだしたかと思ったら、決意のこもった目をしてみんなの顔を見回しました。


「まずは、これ、食べられるようにするで!

 逃げ出すのはそれからや!」


「ええっ???」


いやいや、そんなことをしている場合では・・・


「ですね。」


ええっ?シルワさんまで、同意するんっすか?


「とりあえず、オークたちがお腹いっぱいになったら、聖女様はご無事みたいですし。」


「ちょっと待ってください。

 この料理が食べられるようになんて、なるもんなんっすか?」


「そこは、ワタシがなんとかします。」


グランさんは、でん、と腕組みをして仁王立ちになります。


「今ここで、この鍋見捨てたら、ワタシは一生、後悔して生きていかなあかん。

 そのくらいなら、いっちょ、命、かけたろやないか!」


いやいやいやいや。それ、本当に命がけになりますって。


「そんなことしてる間に、早く逃げたほうがいいっすよ。

 そんなの、もしうまくいかなかったら・・・」


「やる前からそんなこと言っててどうするんです?

 やらずに後悔するくらいなら、やって後悔しろ。

 うまくいくかどうか心配する暇があったら、なんとしてもうまくいかせるんですよ!」


シルワさんも胸を張って宣言なさいます。


「大丈夫。グランさんの腕はわたしたちが一番よく知っているじゃないですか?」


「いや、それは、そうっす、けど・・・」


「それに、この毒物を食べられるようにするなんて・・・

 もし本当にそんなことが可能なら、ちょっと食べてみたいって、思いません?」


いやそれ、怖いもの見たさ、とかいうやつじゃないっすか?

おいらはわざわざ命がけで怖いもの見たくはないんっすけど・・・


ですわね、と、とうとう聖女様までうなずいてしまいました。


「それなら、折角ですし、たくさんお料理を作って、オークさんたちだけでなく、働いていらっしゃるみなさんにも食べていただきませんか?」


おいおいおいおい。

お願いですから、聖女様、これ以上話しをややこしくしないでくださいっす。


「宴ですか。いいですね。」


「食材ならまだたーんとありますわ。」


「ほんまか!それは助かるなあ。

 どれ、何があるか見せてもらおか。」


あああああ。なんかみんなすっかり乗り気になってるし。


「まあ、仕方ありません。ここまできたら、とことんつきあってさしあげましょ?」


シルワさん、おいらのこと説得にかかってます?


「だああああっ!もうっ!分かりましたよっ!

 そんで、おいらは何すればいいんっすか?」


とうとうおいらもそう叫んでおりました。



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