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シルワさんが来てしばらく経ったころ、ひとりの聖女様が連れてこられました。

その日は月が明るくて、オークたちはことのほかしっかりと布をからだに巻き付けておりました。

真っ黒な集団に取り囲まれて、聖女様はただひとり、光り輝いておられました。

そのあまりのお美しさに、おいら思わず、涙を流して拝みそうになったくらいっす。

そりゃあもう、可憐で儚げで、清らかで優しそうで、こんな美人さんは見たことがない、ってほどの美少女でした。

遠目に一目見ただけなのに、そのお姿はおいらの目の裏に焼きついて、四六時中ちらちらと目の前に見えるようになりました。


あの聖女様はオークたちにとっつかまってどうなってしまうんだろう。

その夜は一晩中、そんなことを考えてました。

そのせいで無口になって、グランさんとシルワさんに心配されたくらいです。


長い長い夜が終わって朝の食事のときに、思わずおいらはそれを口にしていました。

グランさんとシルワさんはちょっと目を見合わせてから、それぞれ小さくため息を吐きました。


「あのお嬢ちゃんは、多分、どこかの人間の村が寄越したイケニエやろうねぇ。」


「この娘を差し上げますから、どうか村には手を出さないでください、ってところですかね。」


ふたりは辛そうな顔のまま同じことを言いました。


「い、いけにえっ?!」


おいらはその言葉に驚いて目をむきました。


「って、ことは、あの聖女様は、いったいどうなってしまうんっすか?」


グランさんもシルワさんも話したくないように目を逸らせましたけど、おいらが食い入るように見詰めると仕方なさそうに話してくれました。


「さあねえ・・・

 ワタシもそんなに詳しいは知らんのやけど。

 これまでにも、イケニエに連れてこられた娘さんは、何回か見ましたけどなあ。

 みなさんどこかに閉じ込められてはるんか、二度とお姿を見ませんなあ。」


「鉱山で働かされはしないようですけどね。

 噂では、生きたまま頭からばりばりと・・・」


うっ、と口元を抑えてシルワさんはその先を言いませんでした。

おいらの胸のなかには言いようのないぞわぞわしたものが拡がってきました。


「イキタママアタマカラバリバリ・・・?」


その響きが何とも言えず恐ろしく、うすら寒くて、吐き気すら感じます。

うぅ、ぶるぶるぶる。

いてもたってもいられなくなって、おいらは立ち上がって地団太を踏みました。


「だめっす!そんなのだめっすよ!

 なんとしてでも、聖女様をお助けしましょう!!」


「・・・とはいえ、なあ・・・」


「・・・」


ふたりとも困った顔をして下を向きます。

おいらはグランさんの肩を掴んでゆさぶりました。


「グランさん?

 聖女様をお救いするのになにかいい方法はないんっすか?」

 

今度はシルワさんを覗き込んで言いました。


「シルワさん!

 あんな可愛くて清らかな聖女様がそんな目に合わされてもいいんっすか?」


「まあ、落ち着きなはれ。

 ワタシらかて、聖女様のことをお気の毒に思う気持ちがないわけやないんよ?

 けどなあ、あのお人は、そのために村から差し出されてきたんや。」


「そうすることで村を守るため。

 聖女様ご自身が納得しておられるかどうかはともかく、それがあの方の任務なのですよ。」


おふたりとも聖女様をお助けするつもりはなさそうでした。


「分かりました。

 なら、おいらひとりでやります。」


こうしている間にも、聖女様は頭から・・・もうその妄想が頭にこびりついて離れません。

そうでなくても、聖女様が連れてこられてから、たっぷり時間は経ってしまっています。

もう髪の毛の先くらいは、味見されちゃってるかも?

いやいや、それはまずいっす。

一刻も早くお助けしなくては。

とてもじっとしてなんかいられませんでした。


おいらのズボンの裾を、グランさんはくぃくぃと引っ張りました。


「まあ、ちょっと待ちぃて。

 あんたひとりで何ができるんや?」


「たとえ、一時、助け出したところで・・・

 その後逃げ切れる保証はありませんよ?」


おいらは返事しませんでした。

やる気のない人たちを説得している暇はありません。

おいらの目の前には、可憐な聖女様がおっとりと微笑んでおられます。

その笑顔を黒い手が遮って・・・


ああ!もうダメだ!


気が付くと、おいらは駆け出しておりました。

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