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総大将

泣き喚く幼児をなんとか静かにしたくて俺と家臣ズは必死に変顔をしたりしてあやした。しかし、なかなか泣き止まない。この子を連れて行軍か。はぁ。


「名前はなんて言うの?」

「うわああ!」


泣き止まない幼児に代わって傍にいた乳母が「茶阿ちゃあ」という呼び名だと教えてくれた。


「ちゃあちゃーん、泣かないでー?今から父上と母上のいる所に行くよー? 大丈夫だよー?」


俺は必死に茶阿ちゃんをなだめた。客観的に見たら戦国武将が何やってんだ。


 ぐずる茶阿ちゃんを連れて俺たちは東海道を進む。

 休憩中に家臣ズと相談した結果、土山に俺たちの陣を置く予定になった。土山は日野城に近く、蒲生と連携しながら明智勢を攻撃するにはちょうどいい。

 上手く勝利して、俺は天下人に──ん、じゃあ、明智攻撃の総大将、責任者のような立場の人間は信雄オレ

 え、なんか、プレッシャー感じてきた。バイトリーダーの経験もない俺だぞ……?


 乳母に背負われていた茶阿ちゃんがいつの間にやら寝息をたてていた。行軍中とは思えない穏やかな寝顔だ。子どもは可愛いな。寝てたら天使だ。

 信雄妻のお腹にも子どもがいるんだよな。生まれるのはいつ頃なんだろう。俺の子どもになるんだよな。

 もし、俺がこの戦に失敗したら、お腹の子はどうなるんだろう。

 信雄はわりと長生きして大名家を残したんだよな、たしか。だから俺が死ぬことはないだろうと思…いたい。

 

 日が沈みすっかり暗くなった頃、俺たちは土山に着いた。まだ戦が始まる前なのに疲れてしまっている。とりあえず配下の兵たちに食事をとらせ休ませることにした。

 信雄は本能寺の変が起きなければ備中に出陣する予定だったらしい。だから信雄の手元に残っていた兵たちはいつでも松ヶ島を出発できる準備ができていたし行軍中の兵糧も足りていたのだ。順調に進んできた。だが、この先はどうなるかわからないな。兵糧も尽きるだろうし、蒲生と上手くやれるかどうか……


 その蒲生が俺の陣を訪ねてきた。親父の賢秀じゃなく、氏郷の方だ。娘の茶阿ちゃんは眠ったままだ。

 歴史上の有名人との対面に密かにときめきつつ、俺は総大将面をして迎え入れた。


「明智勢がすでにすぐ近くまで来ているそうです。彼らが安土に着いたところを狙って攻撃しませんか?

着くのはおそらく夜中、夜襲ということになります」


氏郷からの提案は夜襲だった。

 

「日野の方が安土に近い位置にあります。ですから、先ずは蒲生がしかけます。土山の信雄様には後方支援をお願いしたいのです」


うーん、後方支援か。

上手く勝てたとしても、「信雄オレが勝った」と世間は認識せずに「蒲生が勝った」と認識しないか?

総大将は俺…のはずだが、蒲生が敵討ちしたという印象になるんじゃ…?



この頃の蒲生氏郷はまだ「氏郷」ではありませんが、この物語ではわかりやすく氏郷表記にしてます。

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