新九郎!
秀吉アンド信孝より先に明智を討伐したいが、身動きがとれない状態じゃないか。家臣ズを前にして何の指示も出せない俺。みんな、待っているぞ、俺が何か言うのを。この指示待ち人間どもめ。
脇汗をかいている俺の目の前に一人の家臣が慇懃に進み出て書状を差し出した。
「御本所様、これをお読みください」
深々と頭を下げる。この書状は誰からのものだ? もしかしたらこの窮状を打開する糸口になるやも…
「むっ⁈」
書状を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、嫌な文字が見えた。
『怨』
の一文字。書状の宛名が書かれるべき所になんと不吉な文字。
「北畠信雄ぅ! ここで会ったが百年目! 我らの怨み、晴らしてくれるわ!」
「ひいぃっ」
書状を差し出した家臣がとたんに刃を光らせ襲いかかってきた!
「御本所様!」
別の家臣がすばやく俺の身体を突き飛ばし、間一髪俺は刺されずに済んだ。俺に襲いかかった曲者はというと他の家臣ズによって取り押さえられていた。
「ぐぬぬ!北畠信雄! 我らの仲間が必ずや貴様を…!」
そう言い残して絶命した。かなり信雄を憎んでいる、しかもまだ仲間がいるらしい。もしかして伊賀の…?
「伊賀の忍びが術を使って我々家臣ズに紛れ込んでいたようです。気づかなかったのは我らの失態。おゆるしください」
先程俺を突き飛ばして守ってくれた家臣が倒れていた俺を介抱しながら謝ってくれた。ガタイのいいひげもじゃの男。ひげもじゃ、いいんだ、グッジョブだったよ、助けてくれてありがとう。ちょろい俺はこの家臣を気に入った。
「ヒゲモジャ、ありがとう。ところで、君の名は?」
「……お忘れで? 新九郎ですよ。小川新九郎です」
「新九郎! ありがとう!」
……小川新九郎? 信雄にそんな家臣いたっけ?聞いたことないな。マイナーな武将なのかな。まぁ、有能そうな家臣だし、ラッキー!
それにしても、さっそく伊賀の者が俺の命を狙いに来るとは……。信長が死んだことによって、反織田の奴らが息をふきかえしたごとく躍動し始めているぞ。