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不穏な動き 4

 エレノアもいるのに、いつも通りダスティンはアパートまで送ってくれた。曰く、さっきのストーカーが報復に来る可能性もあるだろ?とのこと。そんな怖い事言わないで欲しい。

 アパートに帰るとエレノアと一緒に夕飯を作り、一緒に食べた。

「美味しいー!エラって料理上手よね」

「そう?ありがとう」

 エレノアも一緒に作ったので半分はエレノアのおかげのはずだが、それでも料理を褒められると嬉しい。

 夕食後はそれぞれシャワーを浴びて、エラはエレノアが凍えないようにありったけのブランケットや毛布を取り出した。

 そうしたらクローゼットの奥に母が滞在していた頃に使っていた折りたたみ式の簡易ベッドが出てきたので、エラはテーブルを端に寄せてそれを開いたスペースに出すとエレノアに使わせた。

 そしてベッドに寝そべりながらおしゃべりに興じたが、エレノアの興味は専らエラのストーカー被害についてだった。

「ストーカーって嫌よね。私もカレッジに通い始めた頃に被害に遭ったから分かるわ」

「そういえばエレノアも経験あるんだっけ?」

「ええ。それでフランマの魔石にお世話になったんだもの」

 二人でストーカー被害の怖かった事を話していると共感できる事が多くて、エラの恐怖心が少しだけ薄れていく。たぶん簡易的なカウンセリングみたいになったのだと思う。

 ただ、家がバレていて家まで着いてくる点に限ってはエレノアは眉を吊り上げて引っ越ししろと言った。

「絶対に引っ越ししなきゃダメよ!危ないわ」

「でも…そんなお金ないもの」

 朝と同じ話になって、エラは同じ言い訳をした。

「お金なら貸してあげるわ。勿論無利子で」

「ダメよ!友達とお金の貸し借りはしないって決めてるの」

「じゃあ親に頼みなよ。引っ越さなきゃ危険過ぎる。ストーカーがいつまで追い回すだけかなんて分からないんだから」

「……でも…」

 エレノアが正論を言っている事は分かっている。ストーカーが諦めてくれない限り、ここは危険だ。

 それでも引っ越しはしたくない。

 だって、万が一にでもアルフィーが来てくれるかもしれない。

 来ないと分かっているのに、納得ができなくて、今引っ越しなんてしたら一生後悔する気がする。

 黙り込んでしまったエラにエレノアが気づき、一度口を閉じた。

「もしかして、ホークショウ君が来る事考えてる?引っ越ししたくない?」

 そろりと尋ねられて、思わず瞠目してしまう。

 それだけでエレノアには伝わったらしい。

 呆れたように溜め息を吐かれて、つい肩を丸めて小さくなる。

「そんなに気になるなら、家まで行けば?場所、知ってるんでしょ?」

「……一回しか行った事ないから…しっかり覚えてるわけじゃ…」

 枕元に置いている猫のぬいぐるみを抱えて言い訳をする。

 でも実際にエラは正確にはアルフィーの家を覚えていない。彼の家は当然軍によって警備されているからお招きでもなければ行くのは失礼だろうと思って、ホームパーティーで招かれたあの一回しか行ってないのだ。

 それに二人でゆっくりしようとするとどうしても一人暮らしをするエラの部屋になった。

「……迷惑もかけたくないし…」

「あのねえ…いつまで」

「お願い。何も言わないで。……馬鹿な事してるのは分かってるから」

 これ以上アルフィーの悪口や余計な助言は聞きたくなくて、エラはエレノアの話をぶった斬った。

 でもエレノアはムッとした顔で諦めなかった。

「ホークショウ君と何で別れたのか知らないけど、いつまでそうやってウジウジ落ち込んでるつもり?自分から会いに行く事もせず、ただ待つだけ?」

「…………だって…撃たれた原因、私かもしれないじゃない」

 ぽろ、と言葉が勝手に出てきた。

「え?」

「アルフィーは用心深いから、誰かに私とどこか行くなんて言いふらしたりしないもの。私も気をつけてたよ?でも……アルフィーと出掛けるって、旅行行くって……嬉しくてアルフィーの事を知ってる何人かには話しちゃった……話す人は限定してたつもりだけど、もしかしたらどこかで余計な事話したかもしれない。そのせいで狙われたんだとしたら……」

 急に言葉となって溢れ出した考えに、エラは戦慄した。

 そうよ。アルフィーが余計な情報を第三者に漏らすわけがない。

 それなのに狙われたとしたら。原因は。

「…わ、私が……私の……」

 ーーー私しかいないじゃない。

「…私のせいで狙われたのかもしれないじゃない…」

「エラ……」

 何故突然そんな風に思ったのか分からないが、そう考えれば辻褄が合う気がする。

 だって旅行先で狙われるなんておかしい。結果的に撃たれたのはエラだったけれど、本当にアルフィーを狙ったのだとしたらどこでそんな情報を手に入れたんだろう。

 アルフィーが漏らさないのなら、後はもう自分しか。

 ほろ、と涙が零れ落ちた。知らぬ間に嗚咽が喉の奥から迫り上がり、胸に抱いたぬいぐるみに顔を押し付けるようにして肩を震わせた。

 そんなエラを見て、さすがにエレノアもそれ以上責める事はしなかった。

「…ごめん…エラ。そんな風に考えてるとは思わなくて……」

 ひっく、ひっくと引き攣った呼吸をしながらも、エラは首を振った。エレノアに悪意が無い事くらい分かってる。

「エラのせいじゃないわよ。大丈夫。大丈夫だから…」

 先程とは打って変わってエレノアが弱りきった態度でエラを励ます。

 本当に私のせいじゃない?

 ーーーいいえ、分からない。

 分からないから、自分のせいだと思えてくる。

 もし自分のせいだったらどうしよう。

 苦しくて悔しくて、どうにかなってしまいそうだ。

 その時やっとエラは気がついた。

 ーーーアルフィーもこんな気持ちだったんだ。

 十中八九、自分のせいだと、そのせいでエラが撃たれたのだと彼も苦しんでいたのだろう。

 こんなに苦しい心に、彼は何かの被害に遭うたびに毎回耐えていたのだろうか。

 私は何も知らずに、能天気に、励ましていただけ。

 アルフィーの苦しみなんて何も理解できていなかった。

「…アルフィー……ごめんなさい……」

 小さく小さく、エラはもう届かない謝罪を吐き出した。





「ぎゃああああああああっ!!」

 感じた事のない痛みに女は叫び声をあげて身悶えた。

 だが、縛られ、固定された体は小さく痙攣するだけで自由になるのは悲鳴だけだ。

 しばらく悲鳴は響いたが、じきに女は動かなくなった。

 男はそんな女に頓着せず、女の目を大事そうに両手に抱えながら目を閉じた。

 けれどしばらくして、男は手の中の女の目を投げ捨てて、血が付いた手で頭を掻きむしった。

「…ああ、やっぱりダメだ。何がダメなんだ?何でできない」

 死んだ女を見る。理想に近い女を手に入れたと思ったのに。二人目なのに。

「どうして万能の魔石ができない。……できるはずだ。できるはずなんだ……こいつじゃダメだ……やはり条件を完璧に満たさなければならないのか……」

 男は近くの壁に乱雑に貼ってある写真の中から一枚の写真を乱暴に取り上げた。

 そこに写る一組の男女。

「やはり…この目でなくちゃ……」

 幸い、居場所は分かっている。

 男は女の死体を処理すると、必要な物を集めて車に積んだ。

 そして車は動き出した。





 次の日、トレーラーパークの住宅街の細い裏路地で目をくり抜かれた女の死体が発見された。

 目玉をくり抜かれた死体は二人目で、緑眼ハンターの活動が再開されたのだとニュースは報道した。

 この情報を入手した軍はすぐに緑の目を持つ王族の護衛を強化し、マテウスからアルフィーにも警告がなされた。




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