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疑惑の魔石 1

久々投稿。

 アルフィーは自分の身分を全く知らせないわけではない。自分の身分の危険性を知らなかったから教えてしまったような子供の頃はともかく、思春期以降は自分自身で信用できると判断した友人に聞かれたら答えている。

 カレッジにもアルフィーの身分を知る友人は二人いる。

 その二人しかいない一人に、深刻そうな顔で話しかけられた。

「アルフィー、悪いんだけど時間あるか?」

「どうした?バッカス」

 バッカス・ベイン。世が世なら伯爵家の次男だったかもしれない友人だ。彼の祖父が最後の伯爵で、祖父が在位中に貴族制度は廃止されたため、バッカスもバッカスの父も伯爵を名乗った事はない。

 ちなみに、アルフィーと友人になったきっかけは講義でたまたま隣りに座ったから。同じ魔術科に所属し、バッカスも魔法が得意だ。

 そんなバッカスが聞く体制をとったアルフィーに「ここじゃちょっと…」と言葉を濁すので、アルフィーは他の友人と別れてバッカスと人気のない校舎裏へ向かった。

「で、どうしたんだ?」

 開口一番に本題を切り出すと、バッカスは弱りきった顔をして鞄を探り、手の平に収まるほどの小さな袋を取り出し、袋を逆さにして中身を自分の手のひらの上に出す。

「これ、どう思う?」

 アルフィーはバッカスが差し出した手の中を見た。そこには赤く丸い石があった。

 それを見た途端、アルフィーは顔を顰め、バッカスが弱りきった顔をする理由を察した。

「…ティモシー王の紋章……」

「…やっぱりそうだよな…」

 バッカスの手の中の石には四百年前に実在した王の簡易紋章が刻まれていた。

「似てるからもしかしてと思ったけどやっぱり違ったか…」

「まあ紋章は似てるけど、これはうちの紋章じゃない」

 ラピス公国王家の紋章は王冠と妖精の月、そしてツルハシが描かれているが、石の紋章はどう見てもツルハシではなく棍棒なのだ。

 四百年前より以前、現在のラピス公国の国土は二つの国に分かれており、北側がティモシー王、南側がアルフィーの先祖が王として君臨していた。その頃のラピス公国は今の国土の半分以下で、魔法使い達の防御魔術と自然の作り出した要塞で守られてた小さな国だった。強大な帝国があった南側からは攻められにくい国土ではあったが、帝国との戦争を避けるために帝国に忠誠を誓い、公という身分のもと公国となった。歴史の中で帝国は滅び、ラピス公ではなくラピス国王と名乗るようになっても国名に公国がつくのはその辺りの歴史が原因だ。

 そんな帝国の庇護下に入ったラピス公国だったが四百年前帝国崩壊し始めた頃にティモシー王がラピス公国に対して開戦し、実に三十年の月日を要する戦争が幕を開けた。

 最終的にアルフィーの先祖が勝ち、領土を併合したため今まで続くラピス公国になったのだ。ティモシー王とその息子達はアルフィーの先祖によって処刑された。

「はああああ…万が一、もしかして、今の王家の紋章ならって思ったのに……」

 バッカスが思いっきり肩を落とした。

 と思ったらキッとアルフィーを睨む。

「何でこんなに今の王家とティモシー王の紋章が似てるんだよ」

 アルフィーは肩をすくめて説明した。

「北側は二百五十年続く王家だったからな。国民も長く続く王家の国だという矜持があった。それに対してラピス公国は帝国に屈服した小さな国。北側の反発を和らげる為の措置の一環として、ティモシー王に敬意を表してうちの紋章はティモシー王の紋章にわざと似せたらしいぞ」

「わざわざ紋章を似せたのか…」

「北側にはまだ傍系が生きてるのもその政策の一環」

「そういえばティモシー王の孫娘は処刑を免れたんだっけ?」

「そう。孫娘の一人はうちの先祖に嫁いでさらに体裁を整えた。もう一人は北側の伯爵家だったかに嫁いでて、そこの直系はまだ生きてるから、そういう意味ではティモシー王の血は絶えてないかな」

「あれ?お前もティモシー王の血が入ってるのか?」

「いや、入ってない。孫娘は王太子に嫁いで最終的にラピス王妃になってるけど、王子が生まれなかったんだ。それで王太子の弟の息子が王位を継いでる。そこが俺の直系尊属だな」

「ややこしいなぁ…」

 遠い目をした友人に同意する。王家の家系図はややこしい。

 だがそれより問題は、バッカスの手の中にある石だ。

「で、問題はその紋章入りの石だな」

「そうだった」

 アルフィーが話を戻すと、ハッとしてバッカスの顔が困ったものになった。

 アルフィーは腕を組んで石を見つめた。

「ベイン伯爵家って古い家系だったっけ?」

「いや、祖父に聞いたら二百年くらいの家系だって。しかも北側とは縁の無い家系らしい」

 だったら変だ。ますますアルフィーは顔を顰めた。

 もしバッカスの家系がラピス公国建国前から続く北側の貴族家系ならティモシー王の紋章入りの石を持っていたって不思議ではないが、叙爵されて二百年ならそんな紋章入りの石を持っているわけがない。

「一応言っておくけど、俺の家は『北部解放戦線』とは関係ないよ」

「分かってるよ」

 北部解放戦線ーーーティモシー王を正統なラピス公国の国王だと主張する過激なテロ組織で、ティモシー王の紋章を使っている。最も、さっき話した傍系はもうラピスの一国民として生きる選択をしており、テロに巻き込まれないよう軍に保護されているらしい。これは国王の祖父から聞いた話なので間違いない。食事の席で軽く話してただけだが、祖父も伯父も頭を抱えていた。

 そんなテロ組織にバッカス本人や家族が関わっていたら、護衛官のマテウスから絶対にアルフィーに警告が入るので、彼とその家族は間違いなくテロ組織とは無関係だ。

 そんな彼の家に曰く付きの紋章が入った石があった?

 アルフィーは石に視線を定めたまま更に眼を眇めた。こんな風に小さな袋に入った裸の石なんてーーー。

「その石、もしかして魔石か?」

「うん。魔力が込められてるから魔石だけど、発動するわけにもいかないからどんな魔法かは……」

 そりゃそうだ。

 アルフィーは組んでた腕を解き、今度は顎に片手をやった。

 魔石の魔法が何かを調べる事は難しくない。魔石工に頼めばいいので、エラなら鑑定してくれるだろう。彼女ができないならルークに頼めばいい。

 問題は、この魔石がどういうルートでバッカスの家で見つかったかだ。

 そこでアルフィーはぱちりと瞬きをした。待て、彼はどこでこれを見つけたのかまだ教えてくれてない。勝手に決めつけては駄目だ。

「これ、どこで見つけたんだ?」

「うちの倉庫。といっても今はほとんど使ってないんだ。たまたま俺が用事があって倉庫に行ったら見つけて……最初は王家の下賜品かと思ってたから…。でも、祖父に見せたらこれはティモシー王の紋章じゃないかってなって……」

「警察は?」

「届けてないよ。祖父は少しボケが入ってきてるし、うちじゃ誰もこの紋章が本当にティモシー王のものなのかなんて鑑定できないし、覚えのないものが出た、なんて爆弾でもないのに警察呼べないだろ」

「まあ確かに」

 それで困って自分の所に持ってきたのか、とアルフィーは納得する。

 アルフィーはしばらく魔石を見つめて考えた。別に魔石なんて基本的には魔力を込めなければ発動しないものだ。別に知らないものがあったところで、魔力さえ込めなければ何も害はない。

 それでも、テロ組織が使っている紋章が刻み込まれた魔石はアルフィーにとって不気味以外の何者でもなかった。

 もし、これが本当にバッカスの家のものならいい。例えば記録にないだけで、過去に嫁いできた人が北側と縁のある人で嫁入り道具として持ってきたとかもありうる。そんな可能性、いくらでもある。

 でも、もしも嫌な予感が当たったら。

 アルフィーは考える。考えうる中で一番いい方法はなんだ。母や従兄弟、伯父夫婦、祖父の顔が思い浮かぶのは、北部解放戦線が家族にとって危険な敵だから。

 次に浮かぶのはマテウスの顔。マテウスは優秀な軍人だ。この情報を持っていけば、適切に対処してくれるだろう。

「この事を知っている人は?バッカスとお爺さんだけか?」

「俺と親父とじいさんだけ。兄貴とお袋は知らない」

「じゃあ親父さんとおじいさんに他言しないように言ってくれ」

「じいさん、ボケが入ってるから難しいかも…」

「それは仕方ないと諦めるよ」

 安心したの口調が柔らかくなってきたバッカスにアルフィーも砕けた口調で返せば、普段の調子に戻った気がする。

「とりあえず、この魔石、預かっていいか?本当にティモシー王の紋章かどうか調べるよ」

「頼んだ」

 アルフィーは友人から赤い石を預かった。





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