平穏な日々 2
休暇が終わればいつも通り、日々は過ぎていく。
アルフィーはバッカスや他数名の友人と卒業論文に悩み、同時進行で院に行くか悩み、エラにはよく分からない世界であれこれ悩みつつ、勉強している。
かと思えばちょっと遠出してくる、と遠方のフィールドワークとやらに行ってしまったり、就職活動をしたり………普段とあまり変わらない。
フランマもいつもと変わりない。エラは魔石を作り、店番をして、たまに失敗して、でも成功する事の方が多くて、そろそろ他の魔石にも挑戦してみようかと考えている。
少しフランマで変わった事といえば、ダスティンが真面目になった事だろうか。ちゃんと商品説明を覚えて、店番もちゃんとするようになり、若い女性客に粉をかける事もしなくなった。
何の心境の変化か知らないが、親族であるルークとシンディの二人共が感心していたので、本当に真面目になったようだ。
その為、ダスティンはルークから魔石工見習いとして扱われるようになり、おかげでエラの夜勤が減った。
冬も終わりに近づく頃にはエラの誕生日がある。
この国では誕生日を祝う習慣は元々無い。他国の宗教文化が入って祝うようになったが、それでもケーキを食べて終わりだ。
去年はアルフィーがチーズケーキを買ってきてくれた。初夏のアルフィーの誕生日にはエラがアップルパイとエルダーフラワーのコーディアルシロップを作ってお祝いした。
そして今年は。
「レモンタルト!」
またアルフィーがケーキを買ってきてくれた。
「エラ、柑橘類好きでしょ?」
「好き!」
エラは柑橘類が大好きだ。レモンとかオレンジとか、果物の酸っぱさが好きなのだ。
今年も二人でケーキを食べようと思っていたが、なんとレーナもケーキを携えてやってきた。
「もしかしてお邪魔だった?」
「全然。嬉しい!」
ぎゅーっと妹を抱きしめると、レーナがへにゃりと笑う。
レーナが買ってきたのはショコラオレンジのパウンドケーキで、夜勤で居なかったらドアノブに引っ掛けて帰るつもりだったらしく、日持ちする上に保存方法が常温でいいものを選んだらしい。
「写真撮ってお父さん達に送ろ」
「じゃあ俺が撮るよ」
姉妹で写真を撮って両親にメッセージを送ると、母からは仲がいいわねぇ、だったのに父からは誰が写真撮ったんだ!?とメッセージが来た。
それを面白がってレーナがアルフィーだと教えるもんだから、父からのメッセージ量が半端じゃなかった。
「もーっうざい!」
「でもエラってお父さんっ子だよね」
「「え?」」
吠えたエラにアルフィーが意外な事を言うものだから姉妹で声を揃えて聞き返してしまった。
「どこが…?」
エラ的にはそんなつもりはない。かといってママっ子とかおばあちゃんっ子という事もない。父なんてうざいだけな気がするが。
本気で分からず胡乱気に返すと、アルフィーがおかしそうに笑う。
「だって、圧倒的にお父さんの話題が多いよ。あまりお母さんの話は聞かない。それに、話を聞く限りじゃエラ達のお父さんって表現が大袈裟なだけで娘を心配してるだけのように思うけど」
「ええ?」
「ほら見て。最初こそは俺が一緒にいるのか、って聞いてるけど、その後は……二人がいなくてパパは寂しいとか余分な所削ると……風邪は引いてないか、とかお金に困ってないか、とか仕事や勉強のし過ぎで疲れてないかだよ?俺の父さんとはまた違った方法だけど、こういうのって娘的には何かあったら相談しやすいんじゃないの?」
アルフィーに画面を指差されてエラは改めて父からのメッセージを読むと、確かに父からの余計な文を削るとエラとレーナの心配しかしていないように見える。
「本当だ」
「ええーー?あのお父さんが?」
愛情表現が過剰な父にほとほと迷惑している姉妹だが、確かに思い返してみればそんな気がしてくる。
「………そういえば、いつでもパパの所に戻ってこい、とか書くからそっちに目が行ってたけど、確かに一人暮らしに困ってないかとか聞いてきたわ…」
「…確かに。この前もパパの事忘れないでとか、馬鹿みたいな事書くけど、大学で友達ができたか聞いてきた」
姉妹で顔を見合わせる。
そんな様子を見てくつくつとアルフィーが笑う。
「まあ、近すぎて分からない事はあるよね」
冬が終わり、春がやってきた。
花の日の前日、エラはアルフィーに頼んで約束通りダイアナ宛にプレゼントを届けてもらった。花の日当日はいつも王宮神事があると教えてもらったから前日に持っていってもらった。
ダイアナにあげたのはハーバリウムのように可愛らしい見た目のネイルオイルにした。化粧品だと肌との相性もあるが、ネイルオイルならきっと大丈夫だろうし、冬の乾燥で荒れた爪にも優しい。
喜んでくれたかな、と感想を待つ花の日当日は、アルフィーが青から白へのグラデーションが美しいストールをくれた。春から夏まで使えそうだが、男の人から貰うには意外な物の気がする。
正直にそれを言うとアルフィーは苦笑いをして「何を贈るか悩んでたらリサさんがアドバイスくれた」と白状した。リサ。確かアルフィーの母親に付く女官だ。会った事はないけど、アルフィー曰く、王女としてのエイブリーを公私共に支えるとても有能な人らしい。
「きれいなストール」
「ストールって案をくれたのはリサさんだけど、それを選んだのは俺だから許して」
「そんな事で文句言わないわよ。嬉しい、ありがとう」
ストールに頬を寄せてお礼を言うと、更にアルフィーが小さな包みを差し出してきた。
「これはダイアナからね」
「え?」
「新年に貰ったのにお返しできなかったからってさ」
「……アルフィー宅配便」
「何か言った?」
「いいえ、なんでもないです」
「ふーん…人を宅配便扱いしたように聞こえたけど?」
「気のせいじゃない?」
じゃれあって、顔を見合わせ笑い合う。
ダイアナからは灰色のベレー帽を貰った。手紙には王宮に着て来た灰色のワンピースに似合うと思うの、と書かれていたので、今度合わせてみようと考える。
恒例のようにルークとシンディからもプレゼントを貰い、ダスティンからは「俺からはないよ」と揶揄われたので「分かってるわよ」と返した。
周りの好意が単純に嬉しくて、ほくほくとした気分でアパートまでの道のりをアルフィーと歩いていたエラは「そういえば」と切り出したアルフィーの方に顔を向けた。
「来月、休み取れそう?」
「来月?」
「トレーラーパーク、そろそろ行かない?」
その提案にエラの心は舞い上がった。
「行く!休みは取る!」
北部解放戦線の誘拐事件のせいで、約半年延期された遊園地でのデートだ。喜ばない方が無理だろう。
「アルフィーは休み取れそうなの?」
「卒論に集中したら来月はなんとか…だから今月はあまり来れなくなるかもだけど」
エラの眉が思わず下がるが、すぐに切り替えた。
会えないのはちょっと寂しいが、トレーラーパークには二人で行きたい。
それに来年からはアルフィーも就職しているかもしれないし、そうしたらなかなか一緒に遊びに行くのも難しくなるだろう。今しかチャンスがないのだ。
帰りながら二人で予定を立てる。
トレーラーパークの他に近くの景観地である湖群国立公園にも行くため一泊二日ではなく二泊三日にし、ホテルは二人の財布と相談しながらパーク近くに取って、移動はレンタカーにしようと決める。
お互いこのデートを楽しみにしていたらしく、それぞれホテルや移動方法をあれこれ検索していたおかげで、スムーズに旅行の予定が決まっていく。
二人で肩をくっ付けながら相談するのも楽しい。
期待に胸を膨らませながら旅行の相談をして予定が決まっていく。
いつもよりゆっくりなペースでアパートに向かう二人の背中は、半年のお預けをくらった分、とても楽しげだった。
ネーミングセンスが欲しい。(切実)




